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 そこには一枚の挿絵。

 成りは小さいが筋骨隆々とした四肢と突き出た腹を持ち、耳まで裂けた口と潰れたような目鼻を持つ小鬼の様な怪物二匹が、それぞれ一匹は有尾人の男をバラバラにし串を差して焼いている所で、もう一匹は有尾人の女を後ろから犯している所を描いている。

 低俗な猟奇小説の挿絵みたいで実に悪趣味だが、この世の中のあまりお品のよろしく無い所ばかり見て来たオッサンと小娘にはどうという事のない中身だった。


「ウルグゥ族は、ロバール川流域を住処としている原住民で、基本的に定住せず狩猟採集を生業にしている民族です。そして他に暮しの糧として他の民族を襲い、男は食い殺し女は犯して子供を産ませ、その子供もまた喰らうと恐れられています。きわめて野蛮で残忍な、そして狡猾な民族だとされています」


 そこでなぜかシスルを見つめあのニヤニヤ笑いを見せながら。


「例え子供でも容赦無しだそうです。特に少女は大好物とかで先を争そって慰み物にするそうですよ」


 野糞に涌いた蛆虫でも見る様な視線で見つめ返すシスルの態度に、腰の痛みを思い出したのか不意に我に返ったように居住まいを正して先生は。


「ま、という具合に恐ろしい奴らが屯している地域なんで、同盟も開拓を後回しにしているほどです。そんなところにもし教授が迷い込んだら、あっという間に奴等の食卓を飾るでしょう」


 確かに恐ろしい奴等ではあるが、そんな奴等の風習が、まるでのどかな田舎ののどかな風俗に思えるほどの胸糞悪さ極まる愚行蛮行が、ほんの二年前まではこの南方大陸で繰り広げられていた事を考えりゃ、あまり真に迫ってこない。たぶん俺の前でつまらなそうに話を聞いてるこの娘も同じことを考えて居るんだろう。


「とは言え、同盟が軍を動員してまで探し回っている事実も見過ごせませんし、友好的な部族に拾われている可能性も捨てきれません。そう言う判断の下で私らが派遣されたわけでして、そこで先生に一つお願いが」


 ここからが今日ここに来た最大の目的だ。

 

「なんでしょう?」訝し気に訊ねる先生。


「今から準備を整え、私たち二人は同盟領に侵入し、教授の捜索をするつもりですが、出来ましたら私共にご同道願いませんか?」

「わ、私が!?そんな無茶な!私の話を聞いていなかったんですか?正気の沙汰じゃない」


 血相を変える先生におれは噛んで含んで言い聞かせた。


「ご安心を、私は全球大戦中ずっと密林や砂漠、高山でいろんな原住民たちと寝食を共にして戦って来た身ですし、この子はこの子でご存じの通りネールワル族、それなりに修羅場を潜ってますんで。と、偉そうな事を言ってもこの辺りの自然環境や民族風習にはトント不案内でしてね、そこで先生にご同行いただけないかと、身の安全は私ら二人が護らせていただきます」


 先生は頭を振って。


「それでも無茶は無茶です」

「無茶は承知ですよ。それにタダでとは申しません。それ相応のお礼は致しますよ。例えばこれからの研究資金とかもご用立てできますし、何よりもチョル氏が生きていようが死んでいようが拓洋大学民族学部教授の座は空席になりますよね?新領総軍は大学への寄付も相当額させてもらってますからして、学内人事にもまぁ、それなりに口を挿める立場であることも、ご存知ですよねぇ?」

「金や地位で釣るおつもりですか?恥を知って頂きたもんだ」

「諜報戦に恥も外聞もへったくれも有りませんですわ」


 と、言いつつ懐に手をやりちょいと重たい封筒を卓の上に置く。


「口止め料ともお近づきの印とでも如何様にもお取りください。明後日には叢林を起ちソガル島に上陸する予定ですんで、出来ましたら明日中にお返事を頂戴できれば。私の滞在先の電話番号は同封してありますんでそこにお電話ください。では、色よいお返事を期待しておりますよ。センセイ」


 そう言って立ち上がり、中折れ帽を胸に一礼。シスルは不機嫌そうに速足で俺より先に部屋を出てしまったので、その後を追うように退室した。

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