第210話「音速爆撃(1)」
「周囲に敵影なし!」
「ヨーソロー! じゃ、行くよっ!!」
空の上を高速で飛行しているので、風の音に負けないように両者声を張り上げる。
ボクっ娘がヴァイスを操ったりするのに集中する為、周辺警戒のために乗り込んだけど、今までで一番緊張する飛行だ。
一連の行動は、すでに最終段階。
おびき寄せた形の魔物の集団が、森の間に切り開かれた道の上をノロノロとそれなりの隊列を組んだ形で進んでいる。
その隊列の先には、森を伐採した半ば荒地の広い空間があり、そこでは派手な魔法の煌めきや爆発が発生している。
道の上を進んでいるのは、そこでの戦いに参加するべく隊列を組んで進んでいる魔物の大集団だ。
数は100や200ではない。
隊列の先頭には、昨日戦った地龍、トカゲみたいなドラゴンが5体もいる。さらに隊列の周囲には、不通ではない、恐らく魔物化した天馬が3頭、周囲を警戒しつつ飛んでいる。恐らくだけど、目的地に先行している連中も居るだろう。
今までにオレが見た、最大級の規模の魔物の群れだ。
それを見て、こちらは連中がなるべく道が真っ直ぐになった場所に並び切るのを、敵が視認できないように幻覚の魔法で視覚的にステルス状態になって上空で待機していた。
そして千載一遇、チャンス到来。
目標を定め、一気に高度約10000フィートから体感的に直角に思える角度で急降下していく。
周囲の轟音はますます高まっている。
ハーケンの街で行った音速を超える攻撃に似ているが、それを今度は速度はさらに増し増しで、しかも攻撃自体は継続時間は長め、地上スレスレ、高度10メートル程度で行う。
当然だけど、魔石を使ったボクっ娘からの魔力を大量に供給された、ヴァイスの魔力による破壊力増幅も伴っている。
物理現象を利用した、超気圧の爆弾だ。
これを音速爆撃(ソニックボミング)と呼んでいるそうで、過去最高記録では20キロにわたって道の上を行軍していた10万の軍団を、一撃で殲滅したという伝説が残されているそうだ。
そしてオレ達も、地上スレスレに到達する寸前に周囲の音が消えた。
正確には、音より速くなったのだ。オレ達の後ろでは凄まじい音が轟いていることだろう。
それを示すように、眼下に迫った地表ではオレ達を乗せた巨大な鷲が超音速で通り過ぎた帯状に、全てのものがひしゃげ、押し潰されていく。
そして周辺では、全てのものが猛烈な衝撃波で吹き飛ばされてく。
オレは前より後ろ見ていたので、その破壊の様が全て視界に飛び込んできていた。
音の速さだと、一秒間に340メートル進むので、これが10秒間続くと3キロ以上になる。
しかも、今の速度はマッハ1どころではない。今回、敵のダラダラした隊列に合わせて、前後余裕を見て3秒ほど。
幅約30メートル、長さ2キロメートル程の地表が、全て超音速が生み出した気圧の衝撃波でペシャンコになり、その周辺の3倍以上の面積が強い衝撃波で諸々吹き飛ばされる。
魔物たちと一緒に、周辺の澱んだ魔力でいびつに成長している樹木も無茶苦茶だ。
こんなことをすれば、行った側も大変な事になりかねないが、魔力と技量で無理やり姿勢を制御することで可能としている。
巨鷲だけで出来る芸当ではない。乗り手の魔力と技量を合わせる事で初めて可能な離れ業だ。
そしてこの一瞬ながら圧倒的するぎる攻撃力こそが、疾風の騎士を国の所属とさせず、人の世界では中立となる神殿に属させている最大の理由だとすら言われている。
オレ達の世界で言えば、核兵器のようなものなのだろう。
魔物に対してしか使われないが、『風皇の怒り』や『神々の鉄槌』と言われるほどだそうだ。
そんな圧倒的破壊を見せつけた巨大な鷲は、速度を徐々に落としつつゆっくりと上昇。
その後通常の速度に戻ると、旋回して攻撃した地上の確認へと入る。
「完璧だね」
「エグいなあ。昨日と同じドラゴンが、地面にめり込んだ上に煎餅みたいになってるぞ」
「だから禁忌なんだよ」
「百聞は一見に如かず、だな。しばらくこの下には行きたくないな」
眼下の情景は、阿鼻叫喚だ。
いや、叫び声やうめき声はほとんどない。大半の魔物が、たった一撃の凄まじい圧力の衝撃波で押し潰されて絶命している。
下が土なので地面にめり込んでいる魔物も少なくないが、地面ごと押しつぶされていた。
破壊が激しいので、早くも崩壊が始まっている魔物すら見受けられる。
「それはボクもどーかん。大群相手に使うのは初めてだけど、こんなに凄いなんて思わなかったよ」
言葉はいつも通りだけど、心なしかボクっ娘の顔がやや青ざめている。これが魔物の群れじゃなければ、トラウマものだったかもしれない。
オレだったら、絶対トラウマになる自信がある。と、凹んでばかりもいられないようだ。
あまり地表を見ていたくないので視線を空、敵本拠地の方にやると、何かが急上昇してくるところだった。
そこで、まだ下を見てるボクっ娘の肩を軽く叩く。
「お出迎えみたいだぞ。数は3体」
「ん? あっ、グリフォンだ」
「オレ初めて見る。あれも魔物か?」
「意外なことに、生き物の分類。繁殖もするし人も乗れるよ。ボク達の世界のお話と違って、牝馬は追いかけないけどね」
ボクっ娘は、オレと話しつつも前だけを向いているし、ヴァイスを有利な位置に導いてる。
「それより、何か乗ってるな」
「グリフォンのライダーは何かな? 下級悪魔とかだったらちょっと厄介かも。だけど」
「だけど?」
「だけど」のところに、少し強めの感情が籠っている。ボクっ娘にしては珍しい感情だ。
おかげで思わず質問が口から出た程だ。
「何かムシャクシャするから全力で行くよ!」
そう言って横顔を見せて「ニヤリ」と笑みを浮かべる。
「了解。出番きたら、声かけてくれ! オレも暴れたい」
「じゃ、飛び移ってみる? グフィフォンなら、捕まえたりもできるよ」
「それは流石に無理だろ。背中からきたら、叩っ斬るくらいにしとくよ」
「了解。そん時はよろしく!」
ボクっ娘はそうは言ったが、戦い自体はほぼ一方的だった。
初手でこちらが先制して一気に加速し、巨体と速度を活かして風圧で敵の陣形を強引に崩す。
しかもその最初のすれ違いざまに一体に掴みかかって、グリフォンとライダーをそれぞれれ爪で押しつぶして、そのまま地表に投げ捨てる。
獲物を捨てる時点で鷲本来の行動ではないが、相手が馬より一回り大きいくらいの大きさでサイズが違いすぎて、パワーでは比較にもならない。
乗っているのは悪魔ではなく、ある程度知性のある上級の矮鬼らしかったが、なおのこと敵にはならない。
その後もしばらく空中戦が続いたが、それ以上敵は空に上がって来なかったので、残り2匹も呆気なく叩き落として終わった。
空中戦でピンチと言えるのは、相手が2匹いるうちに1匹に小回りの良さを活かされて背中を取られた時だったが、オレのことを戦力に数えていなかったのが敵の敗因となった。
ヴァイスの背中で中腰に立って踏ん張り、襲い掛かってくる直前のグリフォン目掛けて飛翔。
グリフォンもライダーも驚く間もなく、グリフォンごとグリフォンの首と上級矮鬼の胴体をすれ違いざまに一刀で斬り伏せて終わりだ。
オレはそのまま自由落下になるが、ボクっ娘がヴァイスでうまく受け止めてくれた。
「すれ違い様でよかったのに、相変わらず無茶するねえ」
「信頼してるからな、相棒」
「空だけの相棒だけどね」
そんなやり取りの後、逃走を図った一体に対して高速で接近して、そのままヴァイスの爪が切り裂いて終わりだ。
「さて、敵本隊全滅。制空権も確保。じゃあ、みんなの援護に行こうか」
「その必要なさそうだけどな」
二人と1羽の視線の先では、たった二人と二体が数十体いた魔物の殲滅をほぼ終えるところだった。
そして経過自体は、昨夜立てた作戦通りというか、それ以上の結果と言えた。
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