第5話 決意(4)
4人は、水路に戻ってきた。水路は相変わらず静かだった。サラの予想通り、水は引いていて、引いたところには肉食魚の死体が散乱している。サラは怯えていた。まだ生きていて、襲い掛かってこないか心配だ。
「やっぱり引いてたわね。よかった」
サラはほっとした。これで先に進めるからだ。
「行こう!」
マルコスは前向きだった。4人は階段を下りて、水の引いた通路を歩いていた。
「えーっと、この先だったな」
サムは水の下にも出入り口があるのを見ていた。その先にウンディーネのオーブがあると思っていた。
「ここだ!」
サムは出入り口を見つけた。その先は暗い階段があった。
「まだ下に行くのかな?」
「またレバーを操作するのかな?」
サラは思った。先に行くために何度もレバーを引いて水を抜いているからだ。
出入り口の先は暗い通路だった。目の前は真っ暗で何も見えない。サラはカンテラで前を照らしていた。
「この通路も暗いわね。本当にこの先にあるのかしら?」
サラは不安になった。
「この道しかなかったはずだから、大丈夫だろ?」
「しっかり見た? もっと別の道があるんじゃないの?」
サラはまだ道があるんじゃないかと思っていた。
「うーん、見落としてたらごめんね」
「いいよ。また見つけなおせばいいじゃない」
サラはサムを励ました。
暗い階段を抜けると、明るく細い通路に出た。
「ここ、どこだろう」
サムは辺りを見渡した。床や壁、天井は透けていなかった。
「ん? あの人は?」
マルコスはある人を指さした。そこにはナシアがいた。
「えっ!?」
「やっぱりあなたが神殿を蘇らせたのね」
ナシアは自信気な表情だった。今さっきの悲しそうな表情がうそのようだった。
「あのかけら、何なの?」
「そのかけらは水の神殿を封印するためのものだったのさ」
「なぜ、それを知ってる?」
「それを神龍教から守れと言われてたの。あなたたちがウンディーネのオーブを持ち出さないためにも。グリードをここで見張らせているのもそのためなのさ」
ナシアは笑みを浮かべた。
「何だって!? グリードは死んだと言ったじゃないか?」
マルコスは怒った。グリードが生きていたからだ。
「はっはっは、確かにグリードは死んだわ。でも、神龍教の手によって蘇ったの。ああ、何て神龍教って素晴らしいのかしら。犬神様が持つ奇跡の力。偉大なる創造神王神龍様の創造の力。その力に感動して、私も神龍教の信者になったの。愚かな人間を偉大なる創造神王神龍様の生贄に捧げることができて、本当に幸せだわ。そのおかげで、私はあの時の苦しみを完全に忘れることができた。これほどうれしいことはないわ」
ナシアは高笑いをした。そして、グリードを失った時のことを思い出した。
10年前の冬のことだった。ナシアは太っていた。最愛の息子、グリードが行方不明になったショックから立ち直れなくて、それを忘れるために暴飲暴食を繰り返していたからだ。行方不明になってから1ヶ月で体重が10キロも増えてしまった。周りの人は心配したが、誰も止めることができなかった。
ナシアは泣き崩れていた。最愛の息子、グリードが自ら命を絶ったからだ。自室で首を吊っていたという。自殺の原因は、中学校でのいじめだった。だが、先生たちは彼がいじめられていたことを全く知らなかった。ナシアはそのことに憤りを感じ、先生が信じられなくなった。会いたくないと思っていた。こんな先生は辞めるべきだと思っていた。
そこへ、担任の先生が訪問してきた。担任の先生は暗い表情をしていた。いじめ自殺のことでかなりショックを受けていた。
先生は玄関のインターホンを鳴らした。
「はい」
ナシアはインターホンに気づき、玄関にやってきた。
ナシアは玄関を開けた。そこには、あの教師がいた。ナシアはにらんだ。
「ごめんください」
「なんで、なんでうちの子供がいいじめられたの?」
先生は深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。いじめに気づかなかった我々の責任です。今後は、いじめが起こらないように対策をしっかりと取ります。なので、これからもよろしくお願いします」
「あんたの言い訳なんて、聞きたくないわ。あんたなんかに関わりたくないわ。出て行ってちょうだい!」
ナシアは先制を突き飛ばした。先生は地面に落ち、泥まみれになった。先生は下を向いて去っていった。ナシアはその様子を細い目でにらんでいた。
ナシアは振り向いた。目の前に獣人がいた。ナシアは驚いた。どうやって入ったんだろうと思った。その獣人は顔が犬で、陰陽師のような服を着ていた。その獣人こそ、神龍教の教祖、犬神だった。神龍教の教祖、犬神は、悲しみに暮れる人々を喜ばせて、信者を集めていた。
「私は死んだ人間を生き返らせることができます。あなたの息子さんを生き返らせてほしいですか?」
「はい」
ナシアは泣いていた。グリードのことが忘れられなかった。もう会えない息子のことばかり考えていた。
「わかりました。私が生き返らせてみせましょう」
その後、ナシアは突然姿を消した。近所の人は探したものの、見つけることができなかった。だが、その数日後、何もなかったかのように帰ってきた。
その間、ナシアは犬神と会っていた。神龍教の素晴らしさに感動したナシアは神龍教を崇拝したいと思うようになった。その日のうちに、ナシアは幻草を吸わされ、神龍教の信者となった。
それから間もなくして、グリードは蘇った。だが、そのことは誰も知らなかった。蘇ったことは誰にも言わないように、と犬神に言われていたからだ。蘇ったグリードはそれから神龍魔導士となった。通夜や葬儀で寂しそうな表情をしていたが、四十九日で明るい表情だったのは、グリードが蘇ったからだった。
それから間もなくして、今度は先生が行方不明になった。警察は一生懸命探したが、全く手掛かりがつかめなかった。その後、先生が担任をしているクラスの生徒の中に、変な夢を見た人がいた。その内容は、先生が白い龍の生贄に捧げられる夢だったという。だが、誰も信じなかった。先生はどこかで生きていると誰もが思っていた。
だが、その夢は正夢だった。先生は魔界統一同盟の集団に誘拐され、白い龍、王神龍の生贄に捧げられていた。だが、そのことは誰も知らな方。知っているのは、魔界統一同盟の幹部や神龍教の信者だけだった。
それだけではなかった。グリードをいじめていた生徒が次々と行方不明になった。その時も生徒は白い龍の生贄に捧げられる夢を見たという。行方不明になった生徒が生贄に捧げられる夢だったという。やはりそれも正夢だった。
「それだけの理由で、人を殺すなんて、許せない」
マルコスは拳を握り締めた。
「いや、悪いことではない。死に追いやったような愚か者は、偉大なる創造神王神龍様の生贄に捧げなければならない。それが偉大なる創造神王神龍様の力になるのだ」
ナシアは笑みを浮かべた。
「許せない! 私、許せない! 殺してやる!」
サラは叫んだ。すると、ナシアは巨大なイカのクラーケンに変身した。これが、ナシアが得た魔獣の力だ。
「食らえ!」
レミーは包丁に化けてクラーケンの足を切った。クラーケンの足が切り落とされた。だが、足はすぐ再生した。
「そんな・・・」
レミーは驚いた。
「私はイカ。足は切り落としても何度も生えるの」
クラーケンは自信気な表情だ。
「天の裁きを!」
サムは魔法で雷を落とした。クラーケンは大きなダメージを受けたが、まだまだ体力がある。
「許さんぞ!」
マルコスは電気を帯びた爪でひっかいた。クラーケンの体から血が出た。だが、あまり痛がらない。
「ガオー!」
サラは雷を吐いた。クラーケンは痛がった。だが、すぐに持ちこたえた。
「これだけで倒せると思ったら、大間違いよ。」
クラーケンは毒の牙でマルコスに噛みついた。マルコスは毒に侵され、大きなダメージを受けた。
「大丈夫? 癒しの力を!」
サラは魔法でマルコスの毒を消した。
「天の怒りを!」
サムは魔法で雷を落とした。大きなダメージを与えたものの、それでもクラーケンはひるまなかった。
「死ね!」
クラーケンは大津波を起こした。
「危ない! 僕の体に隠れろ!」
サムは3人に指示した。3人は急いでサムの体の中に隠れた。4人は間一髪のところで大津波をやり過ごすことができた。
「危なかった。あんなの食らったら壊滅状態だよ。」
「ほっとするのはまだ早いわ! まだ戦いは続いてるのよ!」
サムの体から出てきたサラは気持ちを引き締めた。
「食らえ!」
マルコスは電気を帯びた爪でひっかいた。クラーケンは少し痛がった。クラーケンは少しひるんできた。
「グルルル・・・」
サラは炎をまとい始めた。炎をまとってクラーケンに体当たりしようとしていた。
「眠らせてやる!」
サムは催眠術をかけた。だが、クラーケンは眠らない。
「覚悟!」
レミーは包丁に化けて胴体を斬りつけた。クラーケンの体から少し血が出た。だが表情は変わらない。
「ギャオー!」
サラは雄たけびを上げてクラーケンに向かって体当たりした。クラーケンは大きなダメージを受け、瀕死になった。
「く、くそっ・・・ この技は・・・ かなわん・・・」
追い詰められたクラーケンは大津波を起こした。大津波を受けた4人は大きなダメージを受けた。サラ以外の3人は倒れた。
「みんな! くそーっ!」
サラは強烈な雷を吐いた。クラーケンは倒れた。
「お前・・・、その炎・・・」
クラーケンは驚いていた。どうして王神龍と同じ炎を使うことができるのか?
「私は選ばれしドラゴン、奇跡のドラゴンだから」
サラは自信気な表情だった。クラーケンは死んだ。
サラは不死鳥となり、3人を復帰させた。
「うーん、サラ?」
「倒した・・・、のか?」
サムやマルコスは何が起こったか覚えていなかった。気絶していたからだ。
「サラがやっつけたのか?」
「うん」
サラは自信気な表情だった。自分に秘められた奇跡の力で世界を救わねばと改めて強く思った。
その先には、また出入り口があった。その先は明るかった。どうやらあっていたみたいだ。
「どうやらこの道であってたみたい」
サムはほっとした。また引き返さなければならないと思っていた。
4人は次の部屋に入った。次の部屋は階段だった。床や壁は透けていて、側面からは肉食魚が泳いでいるところが見える。肉食魚は4人を見つけると一斉に見ている。彼らは4人を獲物だと思っている。
「また階段か」
マルコスは階段の先には何があるんだろうと思った。レバーか、それとも出入口か。
「上ってみよう」
サラは先頭に立ち、階段を上り始めた。
「いったいこの先に何があるんだろう」
その時、側面の壁が崩れ、水が流れ込んできた。それとともに、肉食魚も入ってきた。
「側壁が!」
「大変だ! 水が迫ってくる! 肉食魚も来るよ!」
マルコスは慌てていた。
「背中に乗って。早く出入り口に向かいましょ」
3人はサラの背中に乗って、出入り口に向かった。その間にも水は流れ込んでくる。肉食魚も迫ってくる。4人は慌てていた。
4人は出入り口の向こうの部屋に入った。だが、水はその部屋にも流れ込もうとしていた。
「どうしよう」
サラは困っていた。このままでは肉食魚の餌食になってしまうからだ。
「この防水扉で水を止めよう!」
サムは防水扉を指さした。防水扉は出入り口にぴったりの大きさだった。
4人は重い防水扉を一生懸命動かし、出入り口を閉じようとした。その間にも水は迫ってくる。肉食魚も迫ってくる。
「早く! 早く!」
サラは急いだ。
1分かけて、ようやく扉を閉めることができた。その直後、防水扉の前に水が流れ込んできた。
「間一髪だったわね」
「ほんとほんと。」
その先の部屋は、下り階段だった。下り階段の先には、また出入り口があった。
「今度は何もないと願いたいわね」
サラは恐ろしい仕掛けにこりごりだった。
階段を下りようとしたその時、敵が襲い掛かってきた。2匹の金色のサメ人間だ。
「食らえ!」
レミーは4匹に分身して鋭い爪でひっかいた。だがサメ人間はあまり痛がらない。
「天の裁きを!」
サムは魔法で強烈な雷を落とした。1匹のサメ人間がしびれた。
「くそっ、水の怒りを!」
しびれてないサメ人間は魔法で大津波を起こした。4人は大きなダメージを受けたが、倒れることはなかった。
「そんなので倒れないぞ!」
マルコスは電気を帯びた爪でひっかいた。しびれたサメ人間は瀕死になった。
「ガオー!」
サラは雷を吐いた。しびれたサメ人間は倒れた。
「癒しの力を!」
サムは魔法で4人の体力を回復させた。
突然、サメ人間は持っていた槍でレミーを突き刺した。レミーは痛がったが、あまりダメージを受けなかった。
「とどめだ!」
マルコスは電気をを美た爪でひっかいた。残ったサメ人間は倒れた。
「今回は何とか耐えることができたわね。」
「うん」
大津波を絶えることができて、サムはほっとした。パーティーが壊滅状態になるのを恐れていた。
「それにしても、サラって、普通のドラゴンじゃないね」
「うん。私、気づいたの。神と同等の力を持つって。お母さんの命を奪った神の炎、神炎を私も操ることができるの。吐くことはできないけど、それをまとって体当たりすることはできるの」
サラはクラーケンとの戦いを思い出していた。
「すごいな。その力、よく使ったらいいのに」
「いいんだけど、それを使うと、かなり体力を失うからあまり使えないの」
サラは残念そうな表情だった。これを使うと体力が大きく減ってしまうからだ。サラはピンチの時しか使わないようにしようと考えていた。
「そうか。でも、サラって、すごいな」
「ありがとう」
サラは笑顔を見せ、尻尾を振った。
4人が階段を下りて、出入り口の前にやってきた。その先は階段で、真っ暗だった。
「また階段か」
「どこまで下に行くんだろう」
サムは不安になった。だが、行かなければ世界は滅んでしまう。4人は引き返さなかった。
「とにかく行こう!」
マルコスは強気だった。何としてもウンディーネのオーブを手に入れなければ。
4人は暗い下り階段を歩いていた。その階段はらせん状で、なぜかここだけレンガ積みだ。
「どうしてここだけレンガ積みなのかな?」
「わからない」
今まで床も壁も透けていたところが多くて、暗い通路はコンクリートだ。
らせん階段はとても長かった。暗くて前が見えないことも相まって、どこまでも続いているように見えた。
「どこまで続くんだろう」
「わからない」
らせん階段は5分前後歩いても続いていた。4人は疲れ始めた。無限に続いているように見える罠で、どこかに進むためのスイッチがあるのではと思い始めていた。
その時、光が見えた。
「光だ!」
「やっとらせん階段の終わりが見えたか?」
マルコスはほっとした。やっと先が見えたからだ。
「無限階段だと思った」
サムもほっとした。階段がどこまでも続いている無限階段だと思っていた。
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