第28話 「やはり美少女は光り輝く」

「ガァオー‼︎(ケツが、オレの男のケツが!)」


 俺はブラックドックの臀部を狙ってイマダンの男のケツへの因縁を立つ切ろうとAボタンを連打した。


「ガァオー‼︎(ケツがぁ! オレのケツがパックリ割れるぅ!)」


 俺たちだけではなく女子たちも寄ってたかっての総攻撃でボコボコにされるブラックドック。

 皮膚は硬く、爺の剣のビームの刃は深くは入らないが確実にダメージは与えてた。

 三人の女子たちの攻撃も魔童女以外はダメージを与えているようだ。

 それでもブラックドックは派手なアクションを起こさないのは、なにか考えがあってのことか?


「ガァオー‼︎(オレが動けないのをいい事に、滅多撃ちしやがって!)」


 えっ、なにか考えがあって動かないのではなく、重傷だから動けなかったの?

 なら、やりたい放題ではないか。


 俺はCボタンで爺の剣を横向きにしてブラックドックの左側のお尻から腿、腹から前足の付け根をビームの刃で斬り続けた。


「ガァオー‼︎(酷い酷い! こんな攻撃は今まで受けた事がないぞ!)」


 これ、勝てるんじゃねえ!

 俺はイマダンをブラックドックの正面に持って来た。

 敵の表情が見たかったからだ。

 でも顔を見てもなにを考えているか俺には読み取れなかった。

 皆んなもおのずとブラックドックの正面に集まって来た。


「こんなチマチマ突っついても終わらないにゃん。

 アレを使うのが良いにゃん」

「分かったワ!」


 詩人少女が妖精っ娘に向かってなにかの相談をしている。 

 必殺技か? きっとそうだ! ボス戦に備えて

なにか奥の手があるんだ。

 分かった! 皆んなでステキな魔法のステッキを胸元から取り出して華麗なポージングとキュートな笑顔でトドメを刺すんだ。

 相談を終えた妖精っ娘がブラックドックの正面にいる甲冑少女に近付た。


「エルミナ、準備は出来てる?」

「大丈夫よ」


 あれ! 今、妖精っ娘が甲冑少女の名前呼ばなかったか?


「皆んな、彼女のうしろに下がってわん!」


 そう言って詩人少女は後退りして、俺もイマダンを操縦して下がらせた。


「分かった、なにをするんだ?」


 いつも疑問符を付ける魔童女も甲冑少女のうしろに下がった。

 ブラックドックの真正面に立った甲冑少女と妖精っ娘の二人がなにかするようだ。

 

「妖精王の名の元、潔白の鎧の力を解放セヨ」


 妖精っ娘が呪文を唱えると甲冑少女の白くて綺麗で豪華な鎧一式が白い光を放ち始めた。

 眩しい……美少女が光って神々しいぞ。

 なぜ妖精っ娘が呪文を唱えているかは分からないが、甲冑少女の鎧一式はやはり秘宝魔具だった。

 

「潔白の鎧ヨ、その魔力を乙女が持つ細剣に宿らせたまエ」


 鎧の光は徐々に弱くなり、代わって甲冑少女が持つ細剣レイピアが光輝き始めた。

 美しい……美少女たちの光りの共演だ。

 やはり美少女は光っていないとダメだ。

 

 そういえば俺たちブラックドックの正面に集まっている。

 

「なんだかケンタロウから魔力を感じるぞ。

 なにをするんだ?」


 魔童女がブラックドックの異変に気付き、言葉尻に疑問符を付けた。

 俺には魔力と言うものは分からないが、確かになにか力のようなものが溜まっているように感じられた。

 

 ヤツは俺たちが一箇所に集まるのを待っていた?


「ガァオー‼︎(オマエ達が一塊になるのを待っていたぞ!)」


 爛々と光っていたその鋭い眼光がさらに光り、その目が飛び出るくらい大きく開いたその瞬間、俺たちに向かってなにか力の圧力が通り抜けた瞬間、目の前が真っ白になった。


 これってナニ?

 ひょとしてブラックドックの魔法? それとも魔眼、邪眼?

 これってヤバイんじゃない?


 視界は一瞬で開けたが、俺たちの周りはなにもなかったかのように変わり映えしていない。

 なんだったんだ、結局ただの目眩しだったのか? こけおどしか?

 よし、とっととトドメを刺そうぜ!


 あれ? 甲冑少女は攻撃をせず、まったく動こうとはしない。

 楽しみにしていたのに……

 それに普段は子供のように、じっとしていられない魔童女が大人しくして動いていない。

 呼吸するだけで揺れる詩人少女の胸も揺れていない。


「ガァオー‼︎(ぐわはっは! 我、魔力によってオマエたちの動きを封じたぞ。

 これから殺戮のターンが始まるぞ!)」


 なんてこった! ブラックドックに睨まれて……大きく見開いたので別に睨まれた訳ではないが、皆んな動けなくなった。

 これはヤバイ!

 俺は動かない皆んなをひとりひとり見た。

 まるで石化したかのように動かない。

 でも皆んなを見ている俺は動いてる! 守護精霊の俺は自由に動ける!

 肉体を持たない俺には効かなかったようだ。


「ガァオー‼︎(前回は男しか動きを止められなかったが今回は一塊になってくれたおかげで全員、動きを止めたぞ。

 さあ、じっくり捻りつぶしてやろうか)」


 ブラックドックはとんでもない事を言ってる。

 犬の手で捻りつぶすのはかなり困難なはずなのに。


 あっ、妖精っ娘が地面に落ちてる。

 動きを止められ、羽ばたく事が出来い妖精っ娘は捨てられた本物のおもちゃの人形のようにゴミと化してる。

 よくも俺の大事なフィギュアを! 

 怒りの俺は思わずゲーム操作盤のレバーを前方に傾けた。


 イマダンが前進を始めた。

 あっ? コイツ動くぞ。

 そうか、俺が動かしているから動くのか!

 ブラックドックの魔力でカチンコチンに身体を固めている訳ではなく、精神的か脳の部分に魔力を注入して動けないようにしているのかも知れない。

 それなら俺の操縦で動かす事ができる。

 とにかく、コイツ動くぞ!

 俺はさらにイマダンを前進させた。


「ガァオー‼︎(なぜだ? なぜ動ける?)」


 犬だけど一目で驚いた表情である事が分かる顔で吠えた。

 犬は飼った事がないけど、目を丸くしてこんな顔もするのか……


 俺はさらにイマダンを前方に歩かせた。

 狙うのは首だろう。

 殆どの動物は首が弱点なはず。

 程よい距離に来た、接近する位置は首の斜め右。

 俺はCボタンで爺の剣を右横に構えて、Dボタンでジャンプした。


 よし、捉えた。

 爺の剣のビームの刃はブラックドックの首元に真っ直ぐ向かって行く。


 “キーン!”


 はっ⁉︎

 首元を捉えた瞬間、動かないと思われたブラックドックは口を大きく開きビームの刃を鋭いキバで噛み咥えた。

 しまった、動けないとばかり思っていたから甘く見ていた。

 まかり間違ってもヤツはこの地域のボスだ。

 こんなわかり切った攻撃は見切られるに決まっている。

 ブラックドックはビームの刃を咥えたまま、ギロリとイマダンを睨んだ。

 怖い、目の前に大きな顔と怖い目……俺は目が反らせない。

 逃げないと、イマダンが危ない。

 自分の身体が言う事を聞かない……俺は恐怖心で身体が震えて上手く操作盤を操れないでいた。


 ブラックドックの爛々とした目がさらに鋭く光り出した。

 また動けなくする魔法か? それとも見つめたら死をもたらす邪眼の魔法を使うのか?

 もし死をもたらす魔法なら、また死んでしまう!


 “ガバッ!”


 ブラックドックの首に閃光が走った。

 イマダンの反対側、ブラックドックの顔の左側に甲冑少女がいる。

 彼女は鎧の魔力を吸ったレイピアを、爺の剣を咥えイマダンを睨んでいる隙にヤツの首に一撃を咥えたのだ。


「ガァオー‼︎(よくも、よくも……)」


 甲冑少女の魔法のレイピアはブラックドックの首を確実に切り裂き、そのおかげで爺の剣を咥えた口がだらしなく開いてイマダンは爺の剣と共に地面に落ちた。


 “プシャー!”

「キャンキャン!」


 ブラックドックの首から大量の出血が飛び出し、それと同時に犬らしい甲高い悲鳴を上げ、最後は粒子となって消えていった。

 ところでどうして彼女が動き出したんだ?

 俺が攻撃したせいでブラックドックの魔法が解けたのか?

 うしろを振り向くと皆んな動き回っている。


 でもまあ良い、俺たちはこの地域のボス、ブラックドックを倒したのだ。


「やった……やったぞ! ついにケンタロウを倒したぞ!」


 魔童女が喜びと驚きと嬉し涙が混ざった表情で皆んなを見渡した。


「勝ったにゃん! 勝ったにゃん!」


 詩人少女はいつも以上のジャンプ力で胸が騒がしい。


「ワタシ達の大勝利ヨ!」


 妖精っ娘はいつも以上に羽を羽ばたかせて飛び回ってる。


 甲冑少女は倒れているイマダンを拾い上げ抱きしめた。

 しゃがみ込んでガッチリ抱き合っている彼女の顔が、俺の位置からよく見えた。

 イマダンの頭の横にピッタリくっ付けた彼女の顔半分は兜で表情はよく見えないが、喜びと共に彼を心配しているのがよく分かる。


 ゲームのタイマーがもうすぐ0になる……


 “ホワンホワンホワンホワンホワ〜ン!”


 ボスに勝ったのに負けた電子音が流れた。

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