第24話 「旦那の未練」
「これは、いただけないわん」
「今日は会いたくなかったな」
「……」
少女たちは臨戦態勢に移った。
でも甲冑少女は剣を抜かず、柄を握り締めた状態で構えた。
一方イマダンにはオジサンたちの同類が来たと警戒して、自分のお尻に手を当てて貞操を守る事に専念した。
「フォモー! フォモー!」
よく聞くとまったく違う言葉だ。
森の木々が騒ぎ、二メートルくらいの大男たちがいきなり現れた。
皆んな髪がボサボサの髭づらで、服装などが町の住民とは違い、動物の毛皮で身を覆っていた。
イマダンはお尻を押さえながら魔童女に聞いた。
「あ、あいつらはなんなんだよぉ?」
「ヤツらはフォモー族。
この島の原人で乱暴な連中だ」
「ホ、ホ、ホモぅ……属性……」
違うだろ、フォモー族だ。
「ら、乱暴者なの……」
イマダンはお尻だけでなく、前も手で厳重に覆い隠した。
さらに小動物のような弱々しい表情になって内股で彼らに身を震わせた。
フォモー族の先行の三人が前に出て我々の様子をうかがっている。
屈強な戦士風で尋常ならざる筋肉を見せつけている。
手作り風な槍なんか持ってかなり怖そうだ。
森の中にもかなりの数が潜んでいると思われる。
戦闘になったらどうなる? 勝てるのか?
屈強な戦士のうしろから小さい老人が、戦士の間を割って前に現れた。
全身白髪の長い髪はうしろで縛り、長い髭も縛っており、身体中に数珠をたくさん付けたその姿はいかにも偉いリーダー的長老に見えた。
彼は我々を待っているかのようにその場に留まっている。
「どうやら戦う気はないようだ……話がしたいようだ」
魔童女はそう言うと甲冑少女と妖精っ娘を引き連れて、フォモー族の長老の元へ向かった。
詩人少女とイマダンはその場に残り様子をうかがった。
「女の子だから……大丈夫だよね……」
まだ勘違いしているイマダンは詩人少女のうしろに隠れるように身を引いた。
「フフフ……それは分からないけど、アナタは危ないかも知れないにゃん」
含み笑いをする彼女は、イマダンがなにに勘違いしているか分かっているようだ。
「えええ〜」
危機を感じたイマダンは背中に背負ったG風の盾を股間に挟んでなんとか守ろうとあがいた。
彼の事は別にどうでもいい、フォモー族との会話はどうなっている? ここまで話が聞こえないは不安に感じさせる。
神様〜! 教えて!
神を呼んでみたが、もう現れない。
やはり、あの会話で最後だったのだろう。
別に寂しくはないがこの異世界の話や守護精霊が出来る事など、もっとヒントを教えて欲しかった。
森の中から七、八人のフォモー族が出て来た。
中には女性や子供、赤子までもいる。
家族、いや集落ごと移動しているのか?
我々と同じ年頃の女の子もいる。
その女の子がこっちを見てる。
笑顔だ、なかなかカワイイなんじゃないか。
えっ、こっちに向かってこないか?
歩きから走りに変わった? ジャンプしたぁ!
女の子はかなりの距離をジャンプしてイマダンの前へと降り立った。
そして彼の顔をジロジロ覗き込みながら聞いて来た。
「オマエ、『ダンナー』カ? ソレトモ、『ミレン』カ?」
旦那? 未練? いったいなんの事だ?
「お、おれは旦那ではないが未練はある」
いったいなんの未練だ?
「ン? ナニヲ言ッテイルカ?」
「にゃほん! わたしはミレン人で、彼はダンナー族にゃん」
種族の事か! モトダンはダンナー族で詩人少女はミレン人と二人は違う種族なのか!
どのくらい違う種族なのか、DNA的に?
「ソウカ、ダンナーカ」
フォモー族の女の子は満足そうな笑みをこぼした。
背丈は詩人少女より小さく、髪は赤毛で目は少しつり目だが、誰が見ても可愛いと思う女の子だ。
彼女も毛皮を着ているがヘソ出しの着こなしはグッドだ。
「トコロデ、ナニシテルカ?」
彼女はイマダンの股間に盾をガニ股で挟んだ着こなしを不思議がった。
「わっ!
こ、これは、いい波を待っているサーファーのマネさぁ」
この異世界では誰にも通用しない言い訳をした。
「フーン、マアイイワ!
オマエ、ワタシノ旦那ニナラナイカ?」
「おれは旦那ではなく……え、え〜!」
今、彼女なんと言った⁉︎
「アソコニイルノ、皆ンナ家族ネ。
旦那ニナル人イナイ。
ダカラ、オマエ、ナッテ」
「ダ、ダ、ダ、ダンナって……旦那?」
これはとんでもない急展開。
「一緒ニ子供、ツクロ」
な、ナニを言ってるんだ、この少女は!
イマダンはこの話を良く聞こうと股に挟んだサーフボードことG風の盾を脇に置き、前のめりになった。
「そ、それって、男同士じゃなくて、男と女で――」
「急には困るにゃん! 彼は大切な仲間にゃん」
イマダンの危うい言葉を制して詩人少女はお断りを申した。
彼の事を大切って思っていたのか……ならもう少し親切にして欲しい。
イマダンも詩人少女の『大切な仲間』と言う言葉に感動しているようだ。
「オ、オッパイちゃん……嬉しい……」
イマダンは彼女の事を心の中では、そう呼んでいたのか……でも本人の前で呼んだらダメだな……ザンネン。
怒りで身体と胸を震わせた詩人少女は、その胸の谷間からステキな魔法のステッキを取り出してイマダンに向けた。
「マジックワンドよ、このスケベに光の鉄槌を与えよ!」
ステキな魔法のステッキの先っちょからビームが飛び出た。
「キョピ!」
今、ダンターの断末魔が聞こえたぞ!
それと同時にイマダンのお尻から焼けた匂いがした。
「酷い! わたしの事、そんな風に思っていたんだ」
「ち、違うんだ!」
違わないだろ、今のは弁解の余地はないな。
「おい、なんの話をしているんだ」
魔童女たちが帰って来た。
「マタ、ワルい事したノ?」
また、いつものパターンが始まる。
これ様式美と言うやつだな。
もうテンプレになって来た。
「ん〜、この娘と子作りをしたいそうにゃん」
詩人少女の話を聞いた三人は見る見る鬼の表情へと変貌した。
「キ、キ、キ、キサマ! 赤ちゃんはキャベツ畑から産まれるんだそ! 分かっているのか!」
分かってないのは魔童女の君の方だ。
「ち、違うんだ!」
「アナタのコト、ズット信じていたのニ〜」
サイズの違う妖精っ娘とラブロマンスは出来るのか?
「ち、違うんだ!」
「くっ!」
“カチャ、シュラシュラシュラ”
今度の甲冑少女は剣を抜いてイマダンの首元に突き付けた。
“ピキーン!”
「ひぃ〜、ち、違うんだ!」
今回は助からない、最終回だな、サラバ!
俺は両手を合わせて合掌した。
「誤解なんだよ。
き、き、君からもなにか言って!」
イマダンはフォモー族の女の子に助けを求めた。
いや、彼女に求めたら子作りの話が本当だってバレて、皆んなにボコボコにされるぞ。
殺気だった現場を見てフォモー族の女の子は思わずのけ反った。
「ア、ア、ダーリン、ソレジャ、マタ!」
彼女はイマダンを置いて、そそくさと仲間の元へ帰って行った。
「ダーリンってなんなノ!」
妖精っ娘はイマダンの顔の前で腰に手を当てながら羽をブンブン鳴らしている。
まさに激おこブンブンだ。
「ダーリンってなんだ?」
魔童女はダーリンと言う意味が分からず聞いた。
“ピキ、キーン!”
甲冑少女は刃を縦から横に変えて、さらに突き付けた。
この娘、顔が見えないから、どこまで本気なのか分からない。
イマダンは動く事が出来ずに、放尿寸前の状態だ。
いい加減、許して欲しいのだが……さすがにイマダンが可哀想になって来た。
「か、彼女とは大した話はしなかったにゃん。
ただ、変なポーズをしてたから気になっていたみたいにゃん」
詩人少女のフォローに甲冑少女は剣を収めた。
「そうだ、なんで股を前と後ろから押さえていたんだ?」
「そ、それは……」
怖い男たちから貞操を守っていたなんて言えないもんな。
「はは〜ん、もしやひとりではトイレに行けないんだろ。
恥ずかしがるな、虫やヘビ、悪い妖精が出て来てトイレって怖いよな。
オレだって最近までバアヤに付き添ってもらっていたからな。
分かる分かる、処理魔法が使えるようになってようやくひとりで出来るようになったんだ。
魔法がまだ使えないオマエには荷が重いがひとりでやって来い」
長い台詞の中に魔童女の恥ずかしい過去話が散りばめられていたが、処理魔法という新しいパスワードが出たぞ。
おそらくトイレに行かなくても魔法で済ませてしまう事のようだ。
つまり、彼女たちは昭和のアイドルのようにトイレに行かない存在なのだ。
「ち、違うんだ……」
「違うにゃん。
そんな事よりフォモー族との会話を知りたいにゃん」
詩人少女、ナイス!
やっと話題を切り替えられる。
俺もどんな話なのか知りたい。
「うむ、ヤツらも悪い妖精のボスに手こずっていたみたいだ。
なにやら彼らは妖精を殺さずの誓いを立てていたようだ。
それでオレ達にボスを倒して欲しいとの事。
なにやら倒した暁には、ご褒美を与えると言っていたぞ」
「ご褒美……フフッ」
詩人少女はイマダンを見てまた含み笑いをした。
ご褒美ってひょっとしてあの女の子の事じゃないだろうな。
ボス戦に勝ったら、またひと波乱起きるぞ、コレ。
「ん?」
イマダンにはなんの事が分からないようだ。
「時間を喰ってしまったな、出発だ」
魔童女の合図に一行は再び歩き出した。
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