第22話 「一度ある事は二度サンド」
クビって……またなの?
また追放イベントなの?
「な、なんでぇ……」
イマダンは膝を落としてうなだれた。
「今日の戦い、後半は上手く戦えていたが、前半のアレはなんだ!
頭を抱えて丸くなってカメみたいになってたじゃないか!
しかも爺の剣を投げ捨てるなんて……おかしいだろ!」
イマダンはなにも言い返せない。
その姿はクラスの女生徒を仕切る小ちゃいリーダーに説教されている、掃除をサボった男子生徒のようだ。
確かに魔童女の言う通りだから……
「明日はこの地域のボスと戦うつもりだ。
昨日の戦いでかなりダメージを与えたからな。
今が倒すチャンスなんだ。
そんな時にオマエがまたカメになったらジャマになるだけだからな。
だからオマエは不参加、つまりクビだ!」
明日はボス戦を行うのか。
「まだ魔法を扱う事が出来てないから危険にゃん。
昨日だってボスとの戦いで……アナタは一度は死んでしまったのにゃん。
蘇生魔法で生き返ったけど、蘇生の成功率なんてかなり低いにゃん。
偶然上手くいっただけにゃん」
詩人少女よ、その蘇生魔法は失敗したのだよ……
そうか、元の男モトダンはボス戦でやられてしまったのか。
「だからにゃん、アナタには明日の討伐遠征には参加させないって、皆んなで決めたの……にゃん」
「ボスは今日のレッドキャップとは比べ物にナラナイくらい強いノ。
今のアナタではまたイチコロだヨ。
だから、ここに残ってて欲しいノ」
妖精っ娘はイマダンの顔に近付き、真剣な顔で訴えた。
そんな強い相手と女の子四人……実質三人で戦うつもりなのか?
さっきから聞いていると無謀な戦いで、生きて帰って来れる可能性は低いんじゃないのか?
無茶な戦いなのを知っているからイマダンを置いて行こうとしているのか?
「そ、それは危険な……」
イマダンも今、気付いたようだ。
「アナタにはここで私たちの帰りを待ってて欲しいにゃん……」
「大丈夫だヨ、ワタシ達、笑顔で帰ってくるカラ」
これって死亡フラグじゃないのか。
「だが、あくまてオレたちの願いだ。
それでもオマエが着いて来たいのなら止めない。
一応言っておくが、明日の日の出前出発だからな。
一緒に来たいのならオレ達のジャマだけはするなよ」
ほかの討伐隊はどうした? もっと人数がそろってからの方がいいんじゃないか? だいたい大人たちはどこにいるんだ?
「話は以上だ……じゃあな……」
魔童女はドアを閉めようとした。
ちょ、ちょっと待てよ! もっと話し合って……
「私たちの事、忘れないで……」
“バタン!”
ドアが閉まる瞬間、甲冑少女の声が聞こえた。
彼女たちは覚悟を決めてイマダンに別れの挨拶をしたんだ……
イマダンは再びベッドにダイブした。
「なんなんだよ……おれにどうしろっていうんだ!」
イマダンはイライラしながら唸った。
いきなりの告白で頭が追いついていないようだ。
分かっているよな、選択はひとつだ。
俺たちも一緒に着いて行くんだからな。
俺のチート無双なら勝てるはずた。
お前も自分の事、勇者って言ってたじゃないか。
俺は操作盤をガチャガチャしなから明日の事を考えていた。
使う事のない必殺技のコマンド入力をして緊張を間際らした。
「おれ……行かない……行きたくない!」
そう言ってイマダンはシーツに頭をかぶせた。
な、なに言ってんだよ! 一緒に戦うんだ! お前は女の子だけで戦いに行かせるつもりなのか?
俺はまさかのイマダンの発言に、対戦ゲームでつちかった必殺技のコマンド入力をヤリ続けた。
イマダンがこんな男だったとは。
バカヤロウ! それでも男か!
「おれ……もう死にたくないよう……」
シーツに顔を埋めて呟いた言葉に、俺は罵声を辞めて口をつぐんだ。
そうか……俺たち、一回死んだんだよな……また死ぬかもって思ったらイヤだよな……
分かる、分かるけど女の子だけ死地に行かせるのは違うだろ!
お前が転生した身体は戦士の身体だ! 戦える身体で戦い方も身体が覚えている。
その身体に俺のゲームテクニックが加われば……
「もう寝る!」
イマダンはそのまま動かなくなってしまった。
ヤツの言い分も分かる……もう死ぬのはイヤだ。
でもお前はこの異世界、ファンタジーの冒険者に転生したんだ……冒険者は戦わなくっちゃ、特に女の子のためには……
そして本物の勇者になるんだろ……
イマダンはモゾモゾ動き出した。
「お風呂……覗きたかったなぁ……はぁはぁ」
おい、今なんと……お前、今なにやってんだ!
イマダンはまた服を脱ぎ始めた。
「あのロリはガキすぎるし……」
あのロリって、合法ロリの魔童女のことか?
合法って言うほどの年齢でもないか。
モトダンの身体が俺と同じ十七歳なら魔童女は十六か十五くらいだからな。
「妖精はまったくそそらない……」
俺のフィギュアになにを言うか!
「鎧女は怖いし素っ気ないし……顔も見せない、アレはダメだな」
甲冑少女の評価、低いな! そっか、ヤツはまだ彼女の顔を見たことがないんだ。
兜が脱げた時、爺の剣を見ていたからな。
「やっぱり、オッパイだ! オッパイオッパイ! したい〜!」
なにがオッパイだ! 詩人少女は胸だけか、身体だけか!
もう会えないかもしれないのに、これか最後の別れの儀式か!
「はあはあ、パフパフー!」
俺はもう寝る!
俺はイマダンを無視して目をつぶった。
***
翌朝、まだ薄暗い中、イマダンは皆んなと一緒にパーティーの中にいた。
「よくノコノコ着いて来たな。
危なくなっても助けないからな」
魔童女が忠告した。
「そ、そんな〜」
イマダンの情けない声がいつものように響いた。
当たり前だろ、自分から着いて行くんだから。
でも昨日の夜はウダウダ行かないって言ってたのに、よく行く気になったものだ。
でも、俺は信じていた。
だって俺たちには、ほかにする事がないからだ。
「よし、出発だ!」
魔童女率いる討伐パーティーは村を出る門へと向かった。
最後尾を歩くイマダンが独り言を呟いた。
「あのオッパイを揉むまで、死なないし死なせない」
お前の覚悟、なんか怖いな……
「うっ……」
「どうしたノ?」
詩人少女が身体を震わせたのを妖精っ娘が気遣った。
「ううん、にゃんだか背すじが凍った感じがして……
なんでもないにゃん」
詩人少女は身体をほぐしながら前を歩いた。
***
村の門を出る時、イマダンに門番が声を掛けて来た。
「おまえ、浴場にいたイケメンか?
おれだよ」
イマダンは『はっ!』として身を引いてしまった。
この門番『みんなの公衆浴場』で興奮したギンギンのイマダンのギンギンの相棒を見て、ギンギンに興奮したオジサンだ。
「今日も浴場で待っているからな」
イマダンを見つめるオジサンの瞳は血走り、門番の仕事も手に付かなそうだ。
イマダンは昨日の事を思い出して、怖くて顔を見ないように通り過ぎた。
門番は当番制なのか、今日は彼が門番をしていた。
「ふぅ〜」
イマダンかひと息入れたその時、また彼を呼ぶ声がした。
「君は昨日のあのベンチ、通称『男の中の男』に座っていたイケメンだね。
あっ、僕のこと覚えてるよね」
その声の男を見るとベンチに座ったイマダンに声を掛けて来たオジサンだった。
彼も今日の門番だった。
「今日こそは、男の中に男を突っ込んで欲しいんだ」
オジサンはお尻を振りながらイマダンの股間を舐めるように見渡した。
うしろには浴場で出会ったオジサン、前はベンチで出会ったオジサン……まさにサンドイッチ状態だ。
詩人少女は興味津々でイマダンに聞いて来た。
「いつの間に、こんなオジサンと仲良くなったにゃん……馴れ初めを知りたいわん!」
「い、いや、ち、違うんだ……」
含み笑いの詩人少女に言い寄られたイマダンは言い訳を考えて彼女の胸を見る余裕はない。
女の子と話をしているのが気に食わないのか、二人のオジサンがイマダンに言い寄って来た。
「浴場でおれと泡まみれで、やらないか」
「僕と月明かりの元、男の中に男になろう」
「うっ……」
イマダンは背筋にゾクゾクするモノを感じて震え上がった。
二人のオジサンは抑えきれずに彼への情熱の本望を吐き出した。
「おれと全裸で、欲情バスロマンスの波を起こそう」
「僕とケモノと化して、ベンチに愛のマーキングしよう」
「うわーー‼︎」
イマダンは逃げるように門を駆け抜けた。
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