第19話 「ゲームオーバー」

 なんだ、この強さは! 一撃だ。

 まさに無双、チート、俺TUEEEじゃないか!


 俺の心は今までのうっぷんを晴らすかの如く、浮かれはしゃいだ。

  

 目の前の得点を見た。

 表示には『5000』と記されてあり、五匹いたからレッドキャップ一匹に『1000』ポイントの得点だ。

 女神の言う通りパーティ全体の得点が入ったようだ。

 これが経験値やコインにどのような影響を及ぼすのか分からないが、なんだか楽しみになって来た。


 まだ三分の制限時間まで一分残っているので、いろいろ試してみたい。

 レバーを素早く二回連続で動かした。

 あるゲームの走るコマンドを入力してみたが、イマダンの挙動が不審な動きをしただけだった。


「オマエさっきから変だぞ!」


 ただ魔童女からは突っ込まれた。


 良かった、スタートボタンを躊躇して……明らかに単純な行動しか操作出来ないようだ。

 躊躇しなかったら、そのまま素手で戦う羽目になってゲームオーバー確実だ。


 イマダンの身体の操作も飽きたのでゲーム終了が出来るか、スタートやセレクトボタンを押してみたが反応はなかった。

 返却口のボタンを押しても反応はない。

 タイムオーバーになるまで、このバトルゲームは終わらないらしい。


 そうだ、甲冑少女はどこだ?

 もう一度、彼女の顔が見たくて周りを探した。

 いた!

 彼女はすでに兜を被り、細い剣レイピアの傷み具合をチェックしていた。

 彼女を見たら胸のドキドキが収まらない……怒った顔だけでなく、笑った顔やすました顔も見てみたい……

 でも、どうして普段から顔を見せてくれないのだろう? 美人過ぎるから男避けに隠しているのかも知れないな。


「ふう、疲れたわん!」


 詩人少女は大の字で地面に横たわっていた。

 マジックワンドで魔法ビームを打ちっ放しだったから、魔法疲れか。


 魔童女は……あれは?

 魔童女は自分の手の甲から戦士の紋章を空に浮かび上がらせていた。

 なにか独り言を話している。


「――レッドキャップ五匹退治……オーバー」


 報告?

 冒険者の本部に連絡している? 

 冒険者ギルド? いや、国がお金を出してくれるって言ってたから、国の役人に報告したのか?

 戦士の紋章……手の紋章はスマホみたいに会話なんか出来るのか?

 最近聞く体内にマイクロチップを埋め込むと同じ感覚なのかな?

 だから村に入る時、身分証の代わりにスマホもとい戦士の紋章を見せたのか!

 こちらの方は呪文を唱えると魔法陣みたいなのが上空に浮かび上がって来るタイプだけど。

 時代の先取りって感じで、ちょっとサイバーだ。


 そういえば魔童女は魔法を使わなかった……杖でポコポコ殴っていたよな……まさかその格好はこけ脅しで、魔女っ子服はただのコスプレなのか?


 妖精っ娘がイマダンに近付いて来た。


「やればできるジャン……?」


 イマダンの顔をマジマジと見る妖精っ娘。

 彼の顔の周りをクルクル飛び回って様子をうかがっている。


「なんかヘン……」


 そっか、今のイマダンは俺のマイキャラになっているんだ。

 彼は爺の剣を構えて戦闘態勢を維持したまま微動だにしない。

 しかも長い光の刃を出しっぱなしのままだ。


 ……どんな表情をしているんだ……

 俺はゲーム操作盤ごとクルリと回ってイマダンの前に出た。

 うっ! 正気のない表情をしてるじゃないか、まるで蝋人形だ。


「ミンナぁ、なんか変ダヨ!」


 やばいんじゃない、妖精っ娘が皆んなを呼んでる。

 皆んながイマダンの顔を見に集まってくる。

 時間は? まだ三十秒残ってる!


「オマエどうした?」ツンツン!


 魔童女が杖で突いてくる。


 その様子を見た甲冑少女がイマダンの顔を覗き込んだ。


「……?」


 不安を感じた甲冑少女はイマダンの両肩をつかんで前後に揺さぶっている。


「まさか、蘇生魔法が不完全で魂がどこかに飛んでしまったわん?」


 詩人少女のひと言は、皆んなに衝撃を受けたらしい。


「おい……ホントなのか……魂は定着しなかったのか……

 おい! 嘘だろ、嘘って言ってくれ!」


 魔童女は小さい身体でイマダンの背中を激しく揺すった。

 妖精っ娘がイマダンの頭の上に乗って頭を叩いている。


「シンじゃダメぇー!」


 しまいには髪の毛をむしりながら正気を戻そうと暴れている。


 これはまずい……このままでは彼の頭がハゲてしまう。

 とにかく皆んなから引き離した方がいい。

 操作盤のレバーを百八十度回して遠くへ歩かせる事にした。


「????」


 皆んなはいきなり動いて遠ざかって行くイマダンに驚いて呆気に囚われていた。


 このままあと、十、九、八……カウントがゼロになるまで歩き続ければ……


「おい、どうしたんだ?」


 魔童女が追いかけて来る……ヤバい……


「夢遊病、夢遊病ですわん!」


 詩人少女があたふたわめいている……もうすぐ元に戻るからほっといてくれ!


「シッカリするノ!」


 妖精っ娘はさらにイマダンの髪を思いっきり引っ張った。

 辞めてくれ、彼の頭が本当にハゲてしまう。


 五、四、三……もうすぐ俺の操作から解放される。

 あっ、甲冑少女が駆け寄りイマダンの前を塞いだ。

 俺は操作版のレバーを傾けたままなのでイマダンの歩みは止まらない。 

 

 “ガチャ!”

「きゃっ!」


 イマダンと甲冑少女はぶつかってしまった。

 今の悲鳴は彼女から。

 大丈夫か? 爺の剣が彼女に当たってしまった。

 甲冑越しなのでダメージはないと思うが……


 彼女はイマダンと密着した身体を両手で引き離し、彼の肩をつかんで行進を止めようとした。

 俺の二人の様子をうかがい続けていて、うっかりレバーを離すのを忘れていた。

 二、一……カウントダウンが終了に近付いた。

 甲冑少女が顔を上げてイマダンの顔を見つめた。


「どうしたの! いつものあなたに戻って!」


 彼女の必死の懇願を彼にぶつけた……いつもの……二人の間には長い付き合いがあるような言い方に思えた……それを俺はすぐ一メートル上空から眺めていた……ゼロ。


 “♪ホワンホワンホワンホワンホワ〜ン”


 自機がやられて負けて終了した残念な電子音が流れた。

 なんで? 戦闘には勝ったじゃないか!


 【Game over】

 “ゲーム、オーバー”


 目の前には英語でゲームオーバーの文字と共に電子音の疑似音声が流れた。


「うわぁぁぁ!」


 イマダンが驚いて爺の剣を放り投げながら無様に尻もちを突いた。

 自我を取り戻したらしい。


「な、なんじぇ?」


 目の前に甲冑少女がいる事に驚いたようだ。

 イマダンはすかさず土下座を始めた。


「ち、違うんだ! えっ、いや、ごめんなさい!

 ……あれ?」


 自分の立場が分からず戸惑っているようだ。


「あいからわずのオマエだな」

「病気は治ったかにゃん」

「しっかりシテ!」

「……」


 キョロキョロと皆んなを見渡したあと、自分の手のひらを見つめるイマダン。


「おれ……おれ、戦ったんだよな……」


 えっ、なに? DO YOU 事?


 “チャリン、チャリン、チャリン!”


 こ、これは? コイン!

 どこからともなく大量のコインが操作盤の上に溢れ返った。

 モンスターを倒した褒美のお金だ! いったい何枚あるんだ?

 目の前の空間に英語と数字が現れた。


 【Score 5000】


 本来モニターがある部分の中央に得点が表示された。

 続いて経験値と獲得コインが表示された。


 【EXP 50 coin 50】


 経験値五十ポイント? 少ないのか多いのか分からない。

 手元のコインも全部で五十枚ある。

 あの【5000】の数字は本当にただのスコア、得点なのか?

 なんのための得点なのか、分からん?

 ……でも、このコインの数……一日一回で五十日分あるじゃないか!

 当分、食事や寝床に困らないぞ!

 最後はボケたがツッコんでくれる人はいない。


 この時、俺はこのコインの数にひとり浮かれて有頂天になっていた。

 

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