第14話 「甲冑少女VSイマダン」

 草原で草を食べている野ウサギを確認しながら、イマダンは自身ありげに胸を張った。


「よし!」


 なにが『よし!』だ、策はあるのだろうな?

 さっきまでのウサギ愛はどこに消えた! 本当に愛はあったのか?

 イマダンはどこか軽いというか、薄っぺらい所を感じる。

 不用心に前にいた世界の事、ペラペラ話したりするし……エロい事には忠実だし……明らかに俺とはキャラが違う。


 そういえば甲冑少女がいない。

 俺は周りを探したが見つからない。

 彼女の事だから見張りをしているのかも知れない。


 イマダンは慣れた手つきで爺の剣を持って股間に添えた。


「己のイチモツよ、そそり上がれ!」


 力強い叫びと共に先端から光の粒が飛び出し、三十センチ位の長さの刃になった。

 この位は普通に出来るようだ。

 イマダンはもっと大きくしようと腰を突き出してみたが三十センチ止まりで、これ以上大っきくならなかった。


「キャー! アナタ、ナニやってるのヨ⁉︎」


 妖精っ娘がイマダンの姿を見て悲鳴を上げた。

 確かに股間に両手を添えて、そこからナニか噴き出させて、さらにソレを見せびらかすかのように腰を突き出して自慢している姿は……変質者だ!


 どこか遠くにいた甲冑少女は、妖精っ娘の悲鳴を聞きつけて走って来た。

 本当に見張りをしていたらしい。


 甲冑少女は悲鳴の原因であるイマダンの姿を見て、身体を震わせた。

 顔の半分は兜の日差しで見えないが、白い肌が見る見る赤く染まり怒りの表情である事は疑いもない。


「くっ!」


 甲冑少女は腰の長剣に手を置き、イマダンと対峙した。


「ち、違うんだ!」


 イマダンは爺の剣の光の刃を出すための行為である事を知らせるため、腰をさらに突き出して決死のアピールをした。

 しかし、そそり上がった刀剣を股間に両手で添えた状態でのアピールは逆効果だ。

 怒りの甲冑少女はジリジリ間合いを詰めて来る。


「違うんだよ~!」


 イマダンはなんとか、なだめようと必死だ。

 決して悪ふざけではないと首を横に振ったが、その反動で股間の光の刃も左右に振れてしまい、誰が見ても悪ふざけにしか見えない。


 股間の意味を知っている魔童女と詩人少女は可愛い笑顔で、このあとの成り行きを興味津々で見ている。


 “カチッ”


 甲冑少女の長剣の鞘の隙間から鈍い光が漏れた。


「ち~‼︎」


 イマダンの股間の刀身の長さが十センチ未満まで見る見る縮こまっていった。

 これはどういうことだ? 恐怖心で光の刃が萎縮して縮まったのか?

 甲冑少女に怯え切っていたが、それでも爺の剣はシッカリ股間に添えていた。


「まあまあ、この件は狩が終わるまで様子を見てみましょうよ、にゃん!」


 詩人少女が中に入ってこの場を収めてくれた。

 甲冑少女は納得しなかったが渋々怒りを収めて戦闘態勢を緩めた。

 プンプンの妖精っ娘がイマダンの顔の前まで来て宣言した。


「ワタシも見廻りに行って来るカラ、またヘンな事したらコテンパンだからネ!」モーッ!


 そう言って妖精っ娘は甲冑少女を連れ立ってここを離れた。


「ふぅー!」


 一段落ついたイマダンは安堵の息を吐いたが爺の剣は股間に添えたままだ。


「それじゃ、気を取り直して狩の続きを始めましょうかわん!」


「お、おう……」


 イマダンの自信のない返事を返した。

 再び草原の入り口に立ったが野ウサギをどうやって狩ればいいのか分からず、そのまま仁王立ちで見ていた。


「がーんばれ、にゃん! がーんばれ、にゃん!」


 詩人少女が元気よく胸を揺らしながら応援してくれる。

 彼女の笑顔とその胸が俺たちに元気をくれる。

 だが、その前にイマダンが甲冑少女に怒られた原因を作ったのは詩人少女、君だという事を忘れてはいないかい。


「今夜は大漁にゃん!」


 昼食でお肉なんだけど……

 ただ詩人少女の応援が確実にイマダンのプレッシャーになっているのではないか?

 見ている俺でさえ、そう感じ始めているのだから。


「み、見ていてくれ! おれ、取って来るから!」


 そうでもなかったか……イマダンはスケベそうな笑顔で応えた。

 しかしどうする? お前には、この爺の剣とG風の盾しか所持していないぞ。

 魔童女はただ黙って見ているだけだし、詩人少女は元気に揺れる胸だけだ。


「う、うさちゃん……ごめん……」


 イマダンの呟きが俺の胸に突き刺さった。

 彼は本当にウサギが好きなんだ……でも詩人少女のためにガンバろうとしている!

 イマダンを小馬鹿にしていた自分はなんて浅はかだったんだ……俺は猛省した。


 覚悟を決めたイマダンが爺の剣を振り上げて走り出した。


「ああぁああぁあー!」


 嘘だろ……

 イマダンは野ウサギに向かって、ただ一直線に突進した。

 案の定、野ウサギは蜘蛛の子を散らしたように散り散りに走って逃げた。


「ああぁぁ……ぁぁ……」


 草原の中央で彼はひとりポツンと立ち尽くしていた。

 手に持っていた爺の剣の光の刃も消えていた。

 彼の姿は大草原の真ん中にいるのに世界の隅っこにいるように感じられた。


「オマエは馬鹿か」

「ダメダメだわん」


 うしろから二人が罵声を浴びせながら接近する。

 確かに無策で見ているコッチが恥ずかしくなるほどの行動であったが……狩のやり方くらい教えてくれてもイイと思うのだが……昔の記憶がないって知っているのだから。

 俺だって野生のウサギの捕まえ方なんて知らないし……


「これでは、また宿屋の野菜スープだな」


 魔童女の目を閉じた表情が不味そうだ。

 あの茶色い汁は野菜スープだったのか。


「お肉が食べたかったの……にゃん」


 詩人少女よ、イマダンを責めないでやってくれ……君のために大好きなウサギを狩ろうとしたんだから。


 イマダンは力が抜けて、大地に両膝を落とし両手も付けた。

 ほら、詩人少女の期待に添えなくてガッカリしているぞ。

 彼は地面に生えている雑草を見ながら、心の底から想いを吐き出した。


「おれ……お肉が、食べたいです……」


 そっちかい! 自分が食べたかったからガッカリしていたのかよ!

 詩人少女の期待の方に想いを向けろ!

 イマダンの動物愛も、肉食の誘惑には勝てなかったのか?


 憐れみを感じたのか、詩人少女が腰をかがめてイマダンに優しい言葉を語りかけた。


「最後まで希望を捨てちゃダメにゃん」


 そのエールの言葉にイマダンは顔を上げて詩人少女の優しい笑顔を見つめ返した。


「あ……」ドキッ!


 今、イマダンの心臓の音が聴こえた気がした。

 ああ、俺にも分かるぞ、その気持ち!

 自分を見下ろす詩人少女の笑顔が、己のすべてを許してくれる天使の微笑みであったのだから……


「お、お肉……」


 イマダンは詩人少女の優しい天使の微笑みを見ていたのではなく、豊かで柔らかくてジューシーな胸をガン見して思わず声に出してしまったのだった。


 それはダメだろ……


 詩人少女は右のコブシを震わせながら天に上げ呪文を唱えた。


「無双の腕輪よ、我に剛力を与えよ」


 彼女の右腕の腕輪が光り出しコブシがマグマのように赤く発熱し……そのコブシがなんと、大きくなっちゃった!


「ひえ~!」


 イマダンが情けない悲鳴をあげた。

 秘宝魔具だ! 詩人少女も持っていたのか!

 確かにモトダンだけが持っているはずはない。


 高々と上げたコブシから煙が上がり高熱を発している、まさに怒りの鉄拳だ。

 この秘宝魔具の腕輪は手を武器に変化させる魔具なのか?


「酷い……心配したのに……悪魔よ! 悪魔の魂が取り憑いたのよ!

 今すぐ成敗しないと取り返しが付かなくなるわ!」わんわん!


 詩人少女のすべてを許してくれそうな天使の微笑みが、何事も許さない悪魔の表情に変貌したのだ。


「ち、違うんだ!」


 イマダンは甲冑少女の時と同じ弁解をした。

 今回はなにも違わないだろ、どう見てもセクハラだ。


「いや、いつも通りだ、馬鹿で変態で能無しだ」


 魔童女、言い過ぎ!


 魔童女のイマダンへのモラハラを聞いて詩人少女は大きく溜め息を吐いて気持ちを整えた。


「……確かに、いつものスケベで変態で年増好きの……もうダメダメだわん!」


 そんな、詩人少女まで……

 しかし、彼女の怒りの鉄拳の秘宝魔具の魔力は収まり初め、右手が元通りに戻っていった。


「そうだ、ババァ好きの、風上にも置けない元リーダーだ!」


 ……そうか、皆んなからこんな風に思われていたのか……だからモトダンの魂は復活を拒否したんだ……きっとそうに違いない。

 モトダンはハーレムパーティーのリーダーと思いきや、風下の底辺リーダーだったとは……トホホ。


「仕方ない、教えてやろう。

 オマエのその爺の剣、その刃は飛ばす事が出来るのだ。

 それで獲物を狙え」


 なんと爺の剣のビームのサーベルが、ビームガンにもなるという事か!

 もっと早く教えてくれ、これならイケるかも。


 イマダンはゆっくりと立ち上がった。

 彼もこれなら使えると思ったのだろう、再び爺の剣を股間に添えて腰を突き出した。


「己のイチモツよ、そそり上がれ……」ぼそっ……


 精神力をかなり消耗したイマダンは小声になって叫んだが爺の剣は光の刃をほとばしってくれた。

 しかし刃の長さは十センチ未満のままであった。


 精神的疲労で猫背になっている。

 朝からこんな事ばっかりだからな。

 でも、これがなにも分からずにやって来た異世界転生者の本当の姿なのかも知れない……多分。


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