第3話 路地裏は事件の香り


宿屋から授与式の会場があるトレル聖堂まで歩くことにした二人はトレルの街中を歩いていた。


「うわっ!あれ見てくれよ!あっちのは武器屋か?すげぇなー」

「はぁー、わかったからもうちょっと静かに歩いてくれないか?」

田舎者丸出しで騒ぐリオラをすれ違う人たちが笑っている。


「おばちゃーん、これ一本頂戴!」

「はいはい、一本5ダリンね。」

屋台のおばちゃんにお金を渡し、コショネの串焼きを受け取る。


「うっま!なんだこれ!?うちでもコショネ飼ってたけどこんなうまいなんて…。」

「キュイキュイィィ」

おいしそうに食べるリオラの頭の上でクロンが髪の毛を引っ張る。


「だめだめ。これは俺が買ったんだから誰にもあげないの。」

「そのくらいあげればいいのに。」

「この5ダリン、ねぇちゃんからもらうのに俺がどれだけ苦労したことか…」

リオラは厳しい姉との死闘を思い出す。


「キュイッ」

そんなリオラの隙を狙ってクロンは串にかぶりついた。


「おいっ!返せ、俺の串焼き!」

捕まえようとするリオラの手を難なくかわし、クロンは串を加えたまま逃げる。


「こらっ!まてー」

追いかけるリオラと逃げるクロン。

残されたルークはやれやれとその二人の後を追いかけるのであった。



※   ※   ※   ※   ※   ※   ※


―――トレルのとある路地裏―――


「デボのアニキ、今日の獲物はどんなやつですかい?」

短剣を起用にくるくる回しながら背中の曲がった男が聞く。


「なーチャケス、その毒付きの短剣を振り回すなっていつも言ってるだろ?そんなに俺のことを殺してぇのかぁ?」

デボと呼ばれるガタイの良いスキンヘッドの大男がチャケスの襟を持ち軽々と持ち上げる。


「す、すんません。」

デボが手を離すとチャケスは地面に腰を強く打ち付け痛そうに擦る。


「まぁいい。今日はいい仕事が回ってきて機嫌がいいからこのぐらいにしといてやる。」

「いい仕事?」

「あぁ、なんでも貴族のお坊ちゃまが神月亭に泊まってるからそいつを拉致ればいいんだとさ。それだけで5万ダリンで更にその貴族の身に着けてるものも自由に奪っていいんだとよ。」

デボは段差に座り手を組み合わせ笑みをこぼす。


「へへへ、それは確かにいい仕事っすね!でもアニキ?ほんとにそんなことで5万ダリンももらえるんですかい?誘拐だけさせて依頼主が裏切るとかは?」

心配そうにチャケスはデボを見る。


「あぁそれなら心配いらねぇ。前金として2万ダリン受け取ってるからトンズラこくことはねぇだろ。それにその依頼主俺らの世界では有名な人だしな。」

「裏の世界で有名な人なんすかっ!誰っすか!?前金なんて今初めて聞いたんですけど分け前もらってないっすよ!」

チャケスはデボの耳元でまくし立てるように質問する。


「うるせぇうるせぇうるせぇ!耳元でギャーギャー言うなよ。依頼主に関しては誰にも言わねぇ決まりくらいお前も知ってんだろ?それに前金はもう使っちまってねぇよ。」

「えぇぇぇ!?そんな大金何に使ったんすか?!」

「……知らねぇ。」

デボは指にはめていた金色の指輪を隠すように手を組みなおす。


「まさか、そのダサイ指輪にじゃないっすよね…?」

「ダサイだとっ!てめぇこの指輪はすげぇ機能が…」

分け前をよこせというチャケスと指輪の魅力を語るデボの声が路地裏に響く。


と、そこに


「おい!まてっ!!俺の串焼き返せっ」

「キュイィィキュイ」

一匹の黒い生き物とその後ろを追いかける一人の少年が現れる。



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