四月某日、東京に雪
長月瓦礫
四月某日、東京に雪
白い雪と共に花びらがひらひらと舞う。
案外、区別はつくものなのだな。
花びらは春に舞うものであり、雪が降る間は土の中で眠っている。
こうして、同じ季節で共存しているのは初めて見た。
ブラディノフは空から舞い散る雪と街路樹の花を観察していた。
風が吹くたびに舞い散る姿はどこか儚げで、はるか彼方へ消えてしまいそうだった。
その反面、現在進行形でその氷の刃で人類に刃向っている。
雪は彼の母国で散々見てきたし、脅威も十分に理解していた。
しかし、ここまで酷いものだとは思わなかった。
停留所に着いてから、十五分は経っただろうか。
雪が収まる気配は一向になく、かなり遅れているように思えた。
東京とはいえ、雪に慣れていない都市だ。
仕方がないといえば、仕方がないのだろう。
彼は白い息をゆっくりと吐いた。
せっかくここまで来たと言うのに、何とも幸先が悪い。
いや、悪運が強いとでも言うべきか。
果たして、シオケムリまでたどり着けるだろうか。
バスが来る気配は一向にない。
ベンチに座っている金髪の若い女性はスマホをいじっている。
飽きもせずによく見ていられるな。
まあ、雪と花びらを観察している自分も似たようなものか。
「あ、電車動いたかも」
彼女はすっくと立ち上がった。
「多分、バスを待ってるより駅に行ったほうが早いかもしれないですよ」
今のは私に言ったのか?
同じバスを待っていると思われたからか、気を利かせてくれたらしい。
「ご親切に、どうもありがとうございます」
ばっさり切られた金髪、大きな碧眼、横から見ただけでは分からなかった。
彼女もまた、異国から来た旅人なのだろうか。
「いつもこうなのですか?」
何が? というふうに首をかしげる。
ああ、言葉が足りなかったか。
「私の国では、雪と花びらが一緒に舞うことはありませんでしたから。
めずらしいと思ったのです」
彼女も立ちあがり、空を見上げる。
雪と花びらが舞っているのを見て、息をついた。
「確かに、4月に雪が降るのはめずらしいかも……文字通りの花吹雪ですね。
といっても、私もつい最近、帰って来たばかりでよく分からないんですけどね」
彼女は赤い顔ではにかんだ。
「そうなのですか?」
「そうなんです。実は友だちの家を探してる最中なんです」
「奇遇ですね、私も人を探すためにここまで来たのです」
最も、自分の場合はそんな穏やかな理由でもない。
急に家出をしたと思ったら、シオケムリで悪さをしていると聞いたのだ。
当然、黙っていられるわけがない。
草の根を焼き尽くしてでも、この手で探し出す。
そう思った矢先に、この悪天候だ。
思わぬ足止めを食らい、途方に暮れているうちに雪と花びらに見入っていた。
「私はブラディノフ。貴方は?」
「キスカっていいます。キスカ・フォリア」
「フォリアさん、もし、お友達の家が見つからなかった場合、月に祈ってください。
きっと、導いてくれるはずですから」
「月ですか? なんだか素敵ですね」
「月は我々に癒しと力を与えてくれます。
きっと、裏切ることはないでしょう。私はもう少し、この風景を見ていますから。
お気になさらずに、どうぞご自身の向かう場所へ」
「ありがとうございます。
それじゃ、気をつけてくださいね」
「ええ、お互いにいい旅路を」
彼女は手を振って、バス停を離れた。
そうだ、何も焦ることもない。
長期戦になることは最初から覚悟していたじゃないか。
ここで止まらなければ、この風景も見られなかった。
足止めも案外悪くないかもしれない。
ふわりと吹いた風は花と雪をさらっていった。
四月某日、東京に雪 長月瓦礫 @debrisbottle00
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