FPSとゲーミングチェアと人類絶滅と空手

ダイスケ

なぜ雑魚モヒカンはかように筋肉が発達しているのか

 ぴこん、という電子音で目を覚ますと、立ち上げっぱなしのデスクトップにすずやん(無職24才)からチャットコールが届いていた。

 コープ、つまりは協力プレイのお誘いだ。


「ニートは朝から元気だねえ…」


 とはいえ、僕も別に他にすることがあるわけじゃない。

 ソフトを立ち上げて参加をクリックする。


「なるほど、こりゃあ協力コープを要請したくなるわけだ」


 画面にはポストアポカリプスなファッションの世紀末雑魚が山ほど押し寄せてくる光景が映っていた。

 最近のFPS《やつ》は、ほんと難易度設定がおかしい。


 マウスをわずかにドラッグしてエイムを1人の頭に合わせ、クリックして発砲する。

 銃口から放たれた弾丸は一秒の数分の一の時間を飛翔し、エイムよりやや下に着弾し世紀末雑魚の顔が弾けた。

 思い切り飛び散る血しぶき。さすがR18設定だ。


「ナイスショットでござる」


「いや、額を狙ったんだが顔の中央に当たった。思ったより弾道が落ちたよね」


 素早く設定画面を開いてマウス感度とエイム設定を調整する。

 エイムには体調や癖が露骨に出る。

 高スコアを狙うなら、その日の調子に合わせて設定も合わせる。

 それが廃ゲーマーってもんだ。


 クリックする。撃つ。頭が弾ける。

 クリックする。撃つ。頭が弾ける。

 クリックする。撃つ。頭が弾ける。


 ちょっとした単純作業のように世紀末雑魚をなぎ倒していると、協力コープしているすずやんからボイチャが飛んでくる。


「このゲームも、ちょっと飽きてきたでござる」


「まあね」


「しかし銃声を聞くと安心する病にかかっておりまして」


「病気ならしょうがないww やっぱエーケーいいよね。エーケー」


「エーケーでござるか。やはりポストアポカリプスでは定番でござるな」


 すずやんとボイチャすると、たいていは銃の話になる。


 ちなみにエーケーシリーズは頑丈なことで知られる旧ソ連製のカラシニコフ自動小銃のことである。

 部品のかみ合わせ部分を意図的に隙間が設けられてあり、砂や泥による作動不良が少ないのが強みだ。


「M4もいいよね。M4」


「あーM4でござるか。たしかに場所がアメリカならあっても不思議じゃないでござるな」


 アメリカが舞台の場合なら、米軍が正式採用していたM4自動小銃も登場するのは自然だ。

 ただ、M4は5.56㎜弾なので少しストッピングパワーが足りない。


「ところで拙者、とても不思議なのでござるが、この連中って絶滅したりしないのでござるかな」


「絶滅?全滅なら何回もさせてるじゃない?。でないとクリアにならないし」


「いやそうではなくて。拙者の言うのは種族ごとの絶滅でござる。よくよく考えてみれば、1プレイごとに50人とか100人とか撃ち殺してるわけでして」


「絶滅ねえ」


 すずやんに言われて、画面の雑魚たちを見る。

 どいつもこいつも凶悪そうな面をして筋肉ははち切れそうに発達し、手には鉄パイプや鉄くずを改造した密造銃を構えている。

 生命力にあふれた風貌からは、とうぶん絶滅しそうにない逞しさを感じる。


 まあ、端から撃つんだけど。


 一匹ずつ始末しながら、退屈してるっぽいすずやんとボイチャする。


「そういう世界設定の矛盾に突っ込むのはなあ。っと、動きがいい奴がいるね」


 単純に向かってくるだけでなく、こちらの射界に入らないよう頭を低くして遮蔽物に入り込むやつもいる。


「おかしいではござらんか。ポストアポカリプス世界で食料が不足してるのに、なにゆえモヒカンであのように筋肉が発達しておるのか」


「うーん・・・光合成してるとか?」


 崩れた壁に隠れたやつが頭を出したところをヘッドショットすると気持ちがいい。


「たしかに。顔色が悪い連中が多いと思ってはおりましたが、光合成の線もありますか」


「ひょっとすると草を食ってるのかも」


「草www草生える」


「もしかすると、脳みそに回す栄養を筋肉に回してるのかも」


「あー。頭とかめっちゃカロリー使うって聞いたことあるでござるな」


「じゃあ連中はもはや人類じゃないな。謎はとけた」


 謎が解けたので安心して端から撃っていく。


「人類が絶滅するのであれば」


「うん?」


「空手やった方がいいと思うでござる」


「空手www」


「北斗の拳とかも最後は鍛えた体と拳がものを言う世界になったわけでして。秩序の崩壊した時代には肉体を鍛えないといかんでござる」


「つまり椅子に座ってクリックしてる僕たちは絶滅組だね」


「でありますな。長時間座ってても腰が痛くならないゲーミングチェアが悪いのでござる。コーラうめえ」


「おいおいプレイ中にコーラ飲むなwwポテチうめえ」


「ポテチww」


 それにしても今日のステージは難易度が高い。

 そろそろクリアが見えてきてもいい頃なのだが、少しも数が減らない。


「こいつら、絶滅したいのでござるかな」


「いや、まあ役割と言うかなんというか。たぶんこいつらにとったら仕事なんだよ」


「仕事かwwwじゃあニートの敵でござるwww遠慮なく撃ち殺せるのであります」


「モチベあげんなwww」


 またしばらくプレイしていると、すずやんのエイムが悪くなってきた。


「おいおい、どうした疲れたか?」


「いや・・・なんか電圧が落ちてきたでござる。部屋の電気がピカピカ点滅しているのでござる。PCのコントロールはUPSがあるからしばらく平気でござるが」


「まじか」


「そろそろうちの施設シェルターダメっぽいでござる。拙者は人類の絶滅を見ないで済みそうですな。おさらばでござ・・・」


 その言葉を最後に、すずやんからのボイチャは唐突に切れた。


 火力が落ちた隙に突破した連中がいたのか、遠くから施設シェルターの分厚い防火扉をガンガンと力任せに叩く金属音が響いてくる。


「空手を習っとけばよかったかね」


 僕はノロノロと今やはっきりと役立たずになった遠隔迎撃システム《RWS》から離れると、デスクの引き出しから拳銃グロックを取り出してガチャリと銃底スライドを引き装弾を確認した。


あと数時間で人類ぼくたちは絶滅する。

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