8.年間ホラー傑作選
「ここが、このダンジョンの最深部です」
アーシアさんが魔術の明かりで周囲を照らしながら言った。
大広間だ。天井もかなり高い。
それに合わせて明かりの数を増やし、光量も強くしてある。
「奥の方に、祭壇みたいなものが見えますね……」
「おそらく、原始的な宗教儀式に使われていたのだと思います」
アーシアさんは「失礼します」と断ってから、目を瞑り、胸のあたりで三角形の印を結んだ。
これで、標的の高位アンデッドを探すのか。
でも、さすがに二人で戦闘するのは無謀じゃね? アーシアさんのターンアンデッドは確かに強力だけど、あの手の呪文は強敵に通用しないのがお約束だしな。
今度こそ、俺が体を張ってアーシアさんを守る番か……。
うし、やってやるぜ!
俺は心を決めると、意識を集中して、
「アーシアさんは、
「
闇に染まる?
恨みが募って怨念化した幽霊が、魔物としての亡霊になったりするのか?
「これといったものは見当たりませんね……」
アーシアさんが言う。
「そうっスねぇ……」
俺はそう答える。
さっきからアーシアさんと二人で、大広間の床や壁を調べているが、標的のアンデッドも、その発生原因の解明に繋がりそうなものも見当たらない。
念のため、
あとは、奥の祭壇くらいしか調べるところはないぞ。
「リッちゃん、なんか変な気配とか感じねーの?」
『ヤツらの臭いが残っているくらいだな』
「そっか。邪教徒が関係してるのは確定っぽいな……」
『奥の祭壇が特に臭い。あそこで、おかしな魔術でも使ったのだろう。アドラ・ギストラの魔力の残滓を感じる』
「魔術……? それで高位アンデッドを召喚したのか?」
『その可能性はあるな』
「どうして、このダンジョンなんだろう……?」
『このあたりは神星教が力が強い地域だ。そこで騒動を起こせば、星騎士と一緒に女神の巫女が事態の解決に遣される可能性が高い。そこで、巫女を拐かし、
「巫女ってシスターのことだよな? どうして、エリシオンの力を奪うために誘拐する必要があるんだ?」
『巫女は己が信仰する神と魔術的な経路で繋がっているのだ。それを辿れば、女神の元に行き着くことができる。もちろん、相応の準備が必要だがな』
ふむん。
一、邪教徒がアーシアさんを狙っている可能性がある。
二、俺達は分断された。
三、現在、アーシアさんは戦闘では役立たずの俺と一緒。
……これってちょっとヤバい状況じゃね?
「きゃっ……!」
アーシアさんの悲鳴が聞こえた。
まさか!
大広間の祭壇近く。
そこに、突如、
邪念感知にも引っ掛からず、さっきまで、影も形もなかったのにだ。
まるで、虚空から湧き出したように見えた。
「異界から
「違います。それにしては時間が遅過ぎるし、現れ方が突然過ぎます!」
現れ方が突然過ぎるって、瞬間移動でもしてきたのか……?
ん? 瞬間移動するゾンビ……だと……?
「アーシアさん! そいつらの目を見ないで!」
俺は大声で叫んだ。
出現の仕方で思い当たった。
こいつらはオカルト系ゾンビだ!
オカルト系はヤバイ。
瞬間移動どころか、目を見るだけで内臓を吐き出して死ぬ場合もある。人間を呪い殺すのだ。
他にも、馬鹿力で頭蓋骨を割って、脳味噌を握り潰すヤツもいる。
本筋とは関係ないところで、硫酸を顔にかけられたり、ドリルで頭に穴を開けられたり、タランチュラに襲われたりもする。
ヤツらは、全体的に自由過ぎるのだ。あと、ひたすらグロい。さっきまでの古典的ゾンビよりも遥かにグロい。ことが多い。
実際、突如出現したゾンビの群は、頭蓋は骨剥き出しで、体から内臓をぶら下げ、全身にミミズともうじ虫ともつかない小さな生き物を大量に貼り付けている。……ちなみに、相手の目を見ないように観察してるからな。
ゾンビの大群がこちらに向かって近付いてくる。
厄介なことに、祭壇とは反対側——入り口付近にもゾンビ一団が出現した。挟み撃ちだ。
これはまずいな。でも、俺はホラーのセオリーに詳しいから、きっとアーシアさんと一緒に生き延びることができるはずだ。って、コレはフラグか……!?
いや、違う。似たようなシチュエーションでも希望を感じさせる作品はある。アレとかコレとかソレとか!
だったら。
俺はホラーの知識を生かして、この窮地を切り抜けてみせる。
異世界転移ホラー野郎をなめるなよっ!
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