6.首なんて飾りです
百鬼夜行との戦闘が始まった。
まず、前衛にランディさんとイーサン、中衛にジョンが立ち、アーシアさんは後衛から支援というフォーメーションだ。
そして俺は……!
「タカマル様は私の後ろに!」
あ、はい……。
まぁ、そうなりますよね。
「
アーシアさんの支援魔術——多分、防御バフ——を受けた星騎士達の体が淡いブルーの光に包まれる。
「サンキュー!」
言うが早いか、イーサンの姿が消えた。ように見えた。
だが、それは錯覚だった。実際は、消えたと見間違えるほどの急加速を行ったのだ。
「イーサンのスキル、縮地法です。まずはアレで魔物の群を撹乱します」
アーシアさんがそう説明してくれた。
暴走特急と化したイーサンが、ダンジョンの通路を壁を天井を所狭しと駆け回る。
その煽りを受け、群から外れた
「ジョンのスキル、
ジョンの
撹乱を担当するイーサンも、すれ違い様に攻撃を加え魔物の数を減らしているが、いかんせん相手の数が多過ぎる。どんだけ、湧いてくるんだよ……。
確かに、ひょっこ冒険者の手に余る相手かもしれないけど、冒険者ギルドからこんな大群が一挙に押し寄せてくるとは聞いてないぞ? 相手は
「さーて、後輩ズも頑張ってることだし、僕もそろそろ本気を見せちゃうぞー……!」
おどけた調子でランディさんがそう宣言した。
ランディさんは、両足を広げて腰を深く落とした姿勢になると、鞘に収まった長剣の柄に右手を掛ける。
「悪い、そっちに抜けた! フォローよろしく!」
イーサンの声。
半透明の
「あいよー、おまかせちゃんだ!!」
ランディさんがそう応じた次の瞬間——。
長剣の柄に掛かった右手が動き、空間に剣閃が奔った。
そして。
こちらに向かっていたはずの亡霊が消滅した。
雲が散り霧が消える時のように、跡形もなく消え失せたのだ。
ランディさんの剣が、実体のない亡霊を斬ったようにしか見えなかった。
「ちょ……! ぼ、亡霊って、霊体って、剣で斬れるもんなんですか!?」
「ランディさんの剣も洗礼術式を組み込んだ特注品なんです。そして、彼のスキル抜刀術は、”斬ること”に特化したスキル。極めれば、あらゆるものを斬り裂くことが可能です」
「あるゆるもの斬り裂くって……。そんなメチャクチャな……」
「そうでなければ、星騎士修道会の副会長は勤まりませんから」
アーシアさんが自慢げな表情で言う。
ダンジョンの奥から湧き続ける
アーシアさんは三人の状況を的確に判断し、防バフ、攻バフ、回復で支援を行いながら、サポートの隙間にターンアンデッドを使う。そのたびに、アンデッドは淡いオレンジ色の光りに包まれ、此処ではない遠い何処か、テラリエルでは異界とも冥府とも呼ばれる場所に強制送還される。そこが、彼らの本来の居場所だからだ。
魔物の数はなかなか減らない。一体一体はそれほど手強くなくても、戦闘が長引けばこちら側が不利になるだろう。疲れ知らずのアンデッドと違い、人間の体力には限界があるのだから。
脳裏に、昨夜の図書館での戦闘風景がフラッシュバックする。
黒い靄の中から発生する触手の大群を捌く、疲労困憊したフィオーラの顔が。
「こいつは思ったよりも手強いなぁ! ひょっとして、強化されていたりするのかなぁー!?」
「あいつはボクのスリングじゃ対応できないな……」
ジョンが悔しそうな表情で言う。
「首なんて飾りです! えらいやつにはそれがわからんのです!」
「え、なんですかそれ!?」
ジョンが困惑した顔で聞いてくる。
すまん、言わなきゃいけない気がしたんだ……。
「えーと……クヨクヨするなと言いたいのではないでしょうか……?」
アーシアさんがフォローしてくれた。優しいなシスターさすがやさしい。
「な、なるほど!? ありがとうございます!」
ジョンもそれで納得してくれたようだ。素直なキッズだ。
『主よ、気を付けた方がいい。あの同胞達からヤツらの臭いがするぞ』
リッちゃんの声だ。
「ヤツら……? ひょっとして邪教徒のことか?」
俺は声に出さず、頭の中でそう聞き返した。
「もっと前に忠告してくれても良かったんじゃね?」
『ふん。そこまでする義理はないわ』
「なんだテメェ……?」
『主キレたな。不確かな情報では混乱させると思ったのだ。私もこの場所にくるまで、ヤツらの臭いをはっきりと嗅ぎ取れなかった。ここ数百年で、嫌な臭いを消すのが随分巧くなったものよ』
「そういえば、リッちゃんて邪教徒と関係があったんだよな?」
『アドラ・ギストラの厄介な術式に捕まり、従っていた時期もあった。星騎士に討たれたのも、一度滅びることで、その術式から解放されるためだ』
「え、ワザとやられたのか?」
『いや。それはできない。そうゆう術式だったからな。私は本気で戦い、そのうえで星騎士達に敗れた』
「自分が勝ったら、どうするつもりだったんだよ」
『最初から分かっていたのだ。自分が敗北することは。それでも、挑まざるを得ない状況だった。まぁ、おかけで面倒な枷を外すこともできたがな』
「へぇ……。いろいろと大変な過去があったんだな」
『ふん。それほどでもないわ』
「なぁ、
『そうしたいのは山々だが、今の私には無理だ。事態の根源を叩かぬ限りは、この憐れな
そうか……。
やっぱり、ここを抜けてダンジョンの終着点まで行かないとダメなのか……。
ランディさん、ジョン、イーサン。それに、アーシアさん。みんな頑張っているけど、このままじゃいずれはジリ貧だ。きっと、図書館のフィオーラと同じことになる。
どうやら。
ここが俺の頑張りどころみたいだ。
というか、神星教団のおエラいさん方も、この状況を想定したうえで、俺をメンバーに加えたんじゃね? そんな考えが頭の片隅に浮かんだ。
攻撃されても痛くない。死ぬわけでもない。それでも、やっぱり恐怖はある。
ゾンビや幽霊、ミイラ男にスケルトン。
だけど。
ここまでずっとみんなに守ってもらったのだから。
だったら。
次は俺の番だろっ!
『主よ。待て』
「人をワンコみたく扱うのやめーや!!」
盛り上がりに水を差された俺が、リッちゃんに脳内ツッコミを入れる前で、ランディさんの剣が首なし
『あの
「え……?」
俺が小さく呟くと同時に、首のない魔物がダンジョンの地面に崩れ落ちる。
「やったかぁ!?」
ランディさんが声を上げる。
『いや、違うな。アレは
罠ってなんだよ? と、リッちゃんに問い返す暇はなかった。
ランディさんが倒したはずの
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