4.星騎士さんといっしょ

 宿舎を出て、街のメインゲートに向かう。

 ここ、アスタルクの街はモンスターの侵入を防ぐためを高い壁に囲まれていた。

 この壁に加えて、神星教の司祭とシスターが張った結界で街全体を覆っている。


 アスタルクは防壁と結界、さらに各種防犯・防衛魔術を組み合わせた防衛機構ガードシステムで外敵から守られているとガリオンさんから説明を受けた。


 しかし、エリシオンが邪神アドラ・ギストラを信奉する邪教徒に力の一部を奪われたため、結界に綻びが生まれているのが現状。


 昨夜、図書館に異界のゲートが発生した原因の一つもそれだ。

 フィオーラが担当したモンスターの大量発生事件——後で聞いた話だけど、モンスターは全てアンデッドだったらしい——と、俺達がこれから向かうダンジョンにも邪教徒が関係しているようだ。アーシアさんがそう教えてくれた。


 ダンジョンは元々駆け出し冒険者が経験値を稼ぐために利用していたものらしいが、最近そこで、本来なら出現しない高レベルのアンデッドモンスター——暗黒怨霊ダークスペクターと呼ばれるゴーストの最上位種——が確認されるようになった。アンデッドは主に夕方から夜にかけてダンジョンに現れ冒険者達を襲撃。日が昇る時間には消えるようだ。


 被害の拡大を憂慮した冒険者ギルドは、神殿に討伐依頼を出した。ギルドに所属する高レベルの冒険者達が別件で全員出払っているためだ。生命の女神を崇拝する神星教の星騎士修道会なら対アンデッドにうってつけだろう、という判断もあったようだ。


 神星教団も依頼内容から邪教徒が関与している可能性が高い(何しろ、ほんの数日前までは影も形もなかった高位アンデッドが唐突に姿を見せたのだから)と判断して、ギルドからの依頼を受諾した。


 そして、アンデッドの専門家、だと世間的には思われているらしい死霊術師ネクロマンサーの俺にもダンジョン探索の要請が出た。


 神星教団本部としても、俺に何ができるのかを今のうちに見極めておく必要があるそうだ。


「夜に現れて朝に消えるとか、お約束に忠実なヤツらですよね。宿舎の幽霊は真っ昼間から出てきたのに」

「ダンジョンの暗黒怨霊ダークスペクターはまだ存在が不安定なのかもしれません。昼は異界に身を置き、こちら側との境界が曖昧になる黄昏時から夜にかけて移動シフトするのでしょう。おそらく、数日のうちに昼夜問わず出現するようになります。そうなれば、被害がさらに大きくなることは容易に想像できますね……」


 アーシアさんがそう説明してくれた。


 俺を先導するアーシアさんもダンジョン探索用の装備をしていた。

 いつもの白いローブを羽織っていたからさっきまで気付かなかったけど、ローブの下に俺と同じような格好をしている。違うのは、ズボンではなく裾のふわりとした濃紺のロングスカートを履いてるとこくらいか。


「ズボンじゃなくてスカートなんですね」

「はい。慣れるとこっちの方が動きやすくて……。ズボンよりも通気がいいので、女性の信徒はスカートを好む方が多いのですよ」


 ほーん、それはちょっとした豆だな。


「白いローブって汚れが目立ちそうだけど、大丈夫なんですかね……?」

「私のローブもタカマル様のマントも生活魔術で防水防汚加工されているので大丈夫ですよ」


 そうなのか。よく知らんけど、生活魔術って凄いんだな!


 街にはいろいろな店があった。ちょっと気になったけど、寄り道している時間はない。

 帰ってきたら、街を探検してみよう。もちろん、ガリオンさんとアーシアさんに許可を取ってだけど。


「アーシアさんはよくダンジョンに潜ったりするんですか?」

「年に数回ほどですね。今回のような依頼や、信徒の護衛で赴くことがあります。ダンジョンの奥にエリシオン様ゆかりの聖域があったりするので」

「へぇ……。シスターって、別にずっと神殿でお祈りしてるワケじゃないんですね……」

「もちろん、そうゆう方もいます。私も一日十回のお祈りを欠かしません。神星教は活動的信仰を推奨していることもあって、神殿や修道院の外に出る方が多いのですよ。それに、私はタカマル様の召喚を担当したものですから、お側でお仕えする義務もあります」


 笑顔でそう言うアーシアさんから、さっき見せた暗い影は消えていた。

 元気を取り戻したのならそれでいいんだけど、なんかモヤモヤするな。


「タカマル様、どうかなさいましたか?」


 アーシアさんが小首を傾げながら聞いてくる。

 その動きに合わせて、肩まで伸びた紫色の髪が揺れた。


「いや、なんでもないっス……」


 何故かアーシアさんから目を逸らして煮え切らない返事をする俺なのだった。



 ☆ ☆ ☆ ☆



 そうこうしているうちに、街のメインゲートに到着した。

 そこで、ダンジョンに同行する三人の星騎士と合流した。


「はじめまして。キミがタカマルくんだね。ガリオン会長から話は聞いてるよ。僕は星騎士修道会副会長のランディオール・パルヴァだ。ランディと呼んでくれ。今日は、よろしく頼むよ」


 三人の中で最年長、二十代中盤くらいの男性が手を差し出してきた。


「あ、どーも、タカマル・カミナリモンです。こちらこそ、よろしくお願いしますオナシャス


 差し出された手を握ると、それより少し強い力でランディさんが握り返してきた。


「イーサン・オーエンだよ。よろしくな!」


 フィオーラと同年代くらいの少年キッズが人懐っこい笑顔を作りながら言った。小柄で、トーストみたいな狐色の肌をした活発そうな少年だ。


「はじめまして。ジョエル・マッケーシーです。ジョンと呼んでください」


 やはりフィオーラと同年代の少年だ。丁寧な口調と眼鏡(この世界には眼鏡があるのか!)のおかげでイーサンよりも少し大人びて見えた。


 俺達は挨拶と自己紹介を終えると、神星教団の立派な馬車で目的のダンジョンに向かった。

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