第49話
母は、黒光りするデスクを、指先でコツコツと叩いている。かなり、不機嫌そうだ。
「まぁ、あの女がバカ令嬢をどうしようが、どうでもいいが……不義密通の相手が、『獣人』となっているのは、どういうことかねぇ? ……ヘリウス、いるんだろ」
「……ファリア」
執務室のドアが開くと、久しぶりに近くでヘリウスの姿を見た。
相変わらずのケモミミイケメンに、トクンッと胸が弾んだ。なぜか、耳が熱くなる。それに気付いて、眉間に皺がよる。駄目じゃん、私。
感情を抑えて、目を逸らすと、母と目が合った。うわ、意味深にニヤリとかしないで。
「ねぇ、ヘリウス、あんたとメイリンとの関係を知っているのは、うちのキャサリンと、あんたたちのパーティメンバーしかいないと思うんだけど」
「いや、メダルス砦で、俺たちのことを見てる奴らがいるが」
「それだって、ヘリウスと『人族の娘』ってだけじゃないの? この手紙には、メイリンが『獣人』と不義密通という話になってるのよ。おかしいでしょ」
――あ、なるほど。
確かに、唐突すぎるのだ。トーレス王国で『獣人』との不義密通なんて。
我がトーレス王国、特に王都には、ほとんど『獣人』は存在しない。そのせいもあってか、残念なことに、王都周辺は特に、獣人に対する差別のような意識が強いのだ。
そんな中、長年王都にいた伯爵令嬢である私、メイリン・フォン・ゴードンが、どうやって『獣人』と出会ったのか、という話になるのだ。
私がヘリウスと行動を共にしていたことを知っている者でなければ、こんな内容が召喚状に書かれるわけがない。
「……この城内に、間諜が潜り込んでいるとか」
「まぁ、いないとは言い切れないかもしれないが、王都との往復を考えると、情報のスピードが早すぎる」
そうなのだ。今回の召喚状は玉璽が押されていることからも、魔法で届いたものではない。人の手によって届けられた物なのだ。
そして玉璽は、王妃ではなく、国王陛下が押さなければならない。
「あんたの仲間の誰かが、情報を売ったってことじゃないのかねぇ?」
「そんな訳なっ……!」
母の突き刺さるような視線に、ヘリウスは最後まで反論できなかった。
「パティのその後は、どうなっておりますの」
私の冷ややかな言葉に、ヘリウスは顔を強張らせる。
その後の彼女の動きについては、母の調査部門でも把握できなかったらしい。
「彼女が、情報を売った可能性はないのですか」
「まさか……わざわざ、獣人への偏見の強いトーレスの、それも王都に向かったとでも言うのか!?」
「彼女の貴方への執着があれば、ないとは言えませんわ……それとも、ローやハイドが売ったとでも?」
「そんな訳あるかっ」
彼らへの信頼は、パティのそれとは違うようだ。
へリウスは、手を握りしめながら、怒りを抑えている。その怒りは、何に向けられているのか。
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