僕はもう一度君に恋をする

モモん

君への想いが

世界の終焉

沈む意識の中、誰かの残したプログラムが作動した。

4ビット、8ビット、64ビット・・・


再構築される世界は特定の時間軸。

君の生まれる時間だ。


今度こそかなでよう、僕と君とで真実ホントの愛を……





僕は君と一度だけキスをした。


出逢いは18才。

僕と君は同じ会社に入社し、意気投合した僕たちだったが、君は既に婚約していた。

それでも、お酒を飲みながらお互いのことを語り合ったりしたよね。


「50才になった時、お互いにフリーだったら結婚しよう」


「うん」


酒のうえでの、他愛もない約束。

君も、そこまで深く考えた返事ではなかったろう。




25才、君からの電話で僕たちは待ち合わせ、酒を飲んだ。


「離婚したの」


「そうか、僕には結婚を約束した娘がいる。

うまくいかないもんだな……」


「そうね……」


その帰り道、僕は君を抱き寄せ、そしてキスをした。


「きっと、迎えにくるから」


「うん……」


相手の娘に別れを切り出したとき、その娘は自殺を図った。

僕は謝罪し、その娘と結婚した。




32才。僕は離婚し、独り身だった。

友人と出かけたスキー場で、家族連れの君とばったり出くわした。


「幸せそうだね」


「そっちは?」


「別れた。今は気楽なもんさ」


それだけの会話だった。




44才。

君からの電話で僕たちは待ち合わせ、酒を飲んだ。


「どうした」


「浮気されて、離婚した」


「子供は?」


「一緒に暮らしてるわ」


「俺も再婚して、子供が二人いる」


「そう」


50才。

君からの電話はなかった。


そして53才。

世界は突然終わりを迎えた。

ああ、君が死んだんだ……直感的に理解した。




二回目の世界


俺たちは、高校の同級生だった。

前世の記憶を持った俺には、出会ったときに君だと分かった。


高校2年で俺から告白し、フラれた。

胸を焼かれるような恋しさは、一時急激に燃え上がり治まっていく。



20才。

君は、婚約破棄で傷心状態だった。

俺は、無理やり君との交際を求めた。


「ダメなら、このまま海に飛び込むから」


「馬鹿なこと言わないで。

つきあっても、私は……心から愛することはできないと思うよ」


「ああ、それでもいい」



近所だったこともあり、俺は何度も君の家に行き、そのうちに君の両親とも出かけるようになった。


ゴザをもって持って、花火大会に出かけたり、浅草のほおずき市に出かけたりした。


「ご夫婦ですか?」


「いえ」


電車で乗り合わせた老人から言われた時には、俺の胸は激しく動悸を繰り返した。



だが、突然、君の態度がよそよそしくなった。

俺たちの関係は自然に消滅した。




40才。

クラス会で君に会った。

お互いに結婚し、子供もいる。


「ねえ、あの子と仲良くしてあげて、友達いないみたいなんだ」


クラス会の後で、君から電話がかかってきた。

俺の心はイラついた。

こんなにも愛おしいのに……、ほかの男の事なんか…




43才。


世界は終わりを迎えた。

また、君が死んだんだ……




三度目の世界は、君を見つけられずに終焉を迎えた。




四度目の世界。


君は男に生まれていた。

ゴメン、それはムリ……




五回目の世界


君はネコだった。

20才の時に譲渡会で君をみつけ引き取ったが、翌年、世界は終焉を迎えた。




六度目の世界


君は隣の家にいた。

僕のほうが後から生まれるのだが、1才の時に気が付いた。

母親同士の仲が良く、お互いの家に行き来している。


今世で初めて君に触れた瞬間にわかった。

ああ、君なんだ……と



3才

君は活発な女の子だった。

ちょっと目を離した隙に、君はベランダに置かれたものを足場に、フェンスを乗り越えようとしていた。

僕は君のお尻にしがみつき、大声をあげて泣いた。

僕の泣き声に気づいた母親たちが来てくれなかったら危なかった。



5才

君は木から落ちて足の骨を折った。


「アリサちゃん、なんで木に登ったの?」


「あそこから景色が見たかっただけよ」


「ベランダからでも、見えるじゃん」


「あそこでしか見えないものがあるの。

エイジュにはわからないよ」


僕は体を鍛えた。

どうも、今世の君は無鉄砲なところがある。



小学校

活発な君は、人気者だった。

運動神経に恵まれた君はダンスの道を見つけ、所属するクラブで頭角を現していった。

僕は剣道を始め、電車で3駅離れた道場に通う日々だった。

別に剣の道に目覚めたとかいうわけではない。何かあったときに、君を守る手段が欲しかっただけだ。


君との接点は減っていったが、君の成績を見かねたお母さんが僕との勉強会をセッティングしてくれた。

自慢じゃないが、6度目の小学生である。

学校での成績はトップだった。



中学

君はダンス部のある音大付属の中学に進学し、僕は公立中学へ進んだ。

君の通う学校は、高校は女子だけであり、僕が受験するメリットは何もなかった。

それでも、週一回の勉強会は継続している。

大人びてきた君の表情や、体つきに理性が飛びそうになることがある。


「ねえ、エイジュは彼女とか作らないの」


「興味ない」


「えっ、もしかしてBL系?」


「それだけはない」


「だって、頭いいしさ、剣道だって市の大会で優勝したんでしょ」


「サッカー部やバレー部ならともかく、今時剣道じゃなぁ。

学校に部活もないから、目立つことはないよ」


「なんで剣道なんか始めたの?」


「ああ、近くにお転婆な子がいてな、何するか分からないから、いざって時に抑えられる力を付けようと思ったのが最初だな」


「まさか、それって私?」


「さあな」


「そっか、じゃあ、どうしても彼女ができなかったら私がなってあげよう」


「50才だな」


「えっ?」


「50才になっても独身だったら、僕が結婚してあげる」


「なにそれ?」


「いや、やっぱり忘れろ」




高校

君はチームを組んでダンスコンテストに出るようになり、ギャル系雑誌のモデルになったりして、TVに出ることも増えてきた。

僕は進学校に進み、同時に今の状況を打開する情報を集めていった。

似たような構成の小説を読み、図書館に通って魔法や不可思議な現象に関する書籍を読み漁った。


引き金となるのは、彼女の死であり、毎回彼女は同じ生年月日で誕生する。

ネコの時は未確認だが、僕も毎回同じように彼女の2か月後に生まれるのだが、日は前後する。

今まで僕が生まれた家に行くと、同じように子供が生まれ成長している。


二回目の世界で生まれていた君もいたけど、それは君ではなかった。


「つまり、二人の魂みたいなものはあるが、肉体に固定されているわけではない……

そもそも、僕の妄想。思い込みなんじゃないのか?」


「どうしたの?

肉体とか妄想とか……ダメよ、私には彼氏がいるんだから」


「なにを!」


「きゃぁ」


「あっ、ゴメン…」


冗談で彼女を押し倒そうとして、胸に触ってしまった。


「エイジュ……、もしかしてまだ経験ないのかな……」


「あ、ああ……」


「もう17なんだから、彼女作ったほうがいいって」


「ああ、ゴメン。今日はここまでで……」


勃起が治まらなかった。




20才

君は30才の俳優と結婚した。

僕は国立大学の法学科へ進学した。

結婚式の招待状は受け取ったが、そんな気分にはなれなかった。


同じ時間軸を何度も繰り返す映画や小説はあったが、この状況を打破する情報はない。

彼女が結婚したことは、実はショックだったが、これまでにも感度か味わっている。



23才

僕は大学を卒業し、検察庁に努めている。

検察事務官というやつだ。

君は離婚して実家に帰ってきた。


「エイジュ凄いね。将来は検察官?」


「まだ分からない。アリサはどうするの、これから」


「なんだか、男はコリゴリね。

浮気するし、逆上して暴力ふるうし……」


「ダンスは?」


「芸能系はヤダな……」


「子供相手に、ダンス教室でも開いたら?」


「マスコミの騒ぎが収まるまで、息を潜めてないと……

あいつのファンが何するか分からないし」


「大丈夫だ、ここにいる限り、守ってやるから」


「うん……」



28才

僕は司法試験にも合格し、副検事の職に就いている。

アリサの元夫は傷害罪で有罪となり、芸能界からも引退していった。

アリサは僕の勧めで、ダンススクールを開設し、カルチャー教室で子供たちを教えている。


時折DVに怯えるアリサを抱きしめ、優しく髪をなでてやる。

何度かキスもしたが、彼女の傷は癒えていない。キス以上に発展することはなかった。


まさか、これってゲームの世界とかで、彼女を攻略するまで続くとか……

いや、そうすると、永遠にこの時間軸で固定か……



35才

彼女の父親と母親が交通事故で亡くなり、彼女は一人になった。


「一人で暮らすには広すぎるから、家を売ってマンションでも買おうかって思うんだけど……」


「一人で大丈夫か?」


「エイジュが心配なら、一緒に住んであげてもいいけど……」


「何だそれ」


「だって、その年になって、彼女もいないみたいだし……

ひょっとしてまだ童貞?」


「大きなお世話だ」


こうして、僕たちは一緒に住むことになった。

夜は一つのベッドで眠るが、抱きしめるだけで性行為に及ぶことはない。

愛おしい、だが今はこれで十分だ。

多分、時が大きなカギになっている気がする。




42才

ふいにアリサが愛おしくてたまらなくなった。

キッチンでキスをして、そのまま寝室に移動し、無言のまま、体を重ねる。


「生まれる前から君が好きだった」


「なにそれ」


僕は告白する。200年以上にわたる僕の想いを。


「信じられない話だけど、エイジュが私だけを見ていてくれたのはわかるよ。

でも、ネコの時は最後まで看取ってくれたのね……」


「ああ」


「男の子だったときは無視された……、ちょっと複雑ね」


「そこまで、達観できなかったんだ。

だけど、僕と君との最初の約束だ。50才になったら結婚しよう」


君との人生を何度も繰り返してきた。

想いが届いたとき……

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