その9
さてと、これで私はゆっくりとシオン達の様子を見られるわね。
ローニも下手に動けないだろうし、あ~気楽だわ。
「これはまた、大きい樹ですね」
「この樹に大ガラスの巣にあるとっ! いいんやっ! けど……っ!」
チトちゃんが上を向きながらピョンピョンと跳ねている。
あの姿を見ていると無邪気な子供を見ている様で、非常に愛らしい。
本人に言ったらものすごく怒りそうだけど。
「そうだね~あの男の家にはゴールドリングは無かったから、大ガラスの巣にある事を祈るよ。じゃないと、また1から手掛かりを探さなきゃいけないし」
残念ながら、その男の家同様に大ガラスの巣の中には結婚指輪は無いのよね。
なにせ今は私の手の中にあるのだから……。
「そうですわね……そうなると、また時間が掛かってしまいますわ」
う~ん、この結婚指輪をどうしたものか。
直接渡すわけにもいかないし、かといってこのままにしておくのも駄目だし……何かいい方法はないかしら。
《グワー!! グワー!!》
「あっ樹の上から、鳴き声が聞こえますね」
「本当ですわね。となると、大ガラスの巣はこの樹の上にあるのは間違いなさそうですわ」
「でも、なんか鳴き声がめっちゃ怒っとるような感じがするけど……何でやろう?」
それはローニが大ガラスの巣を狙ったせいです。
というか、そのせいで今の大ガラスは興奮しているから近づくと危険よね。
……また余計な事を……。
「ん~エサの取り合いでもしているのかな? となると、この樹に登って巣の中を確認するのは危ないね……興奮している大ガラスに落とされちゃうよ」
その大ガラスに落とされた男がそこに居ます。
ローニなら頑丈だから大丈夫だけど、シオン達じゃ怪我をしちゃうわ。
「そうですわね……では、樹を揺らして巣を落とすというのはどうでしょうか?」
シオン、流石にそれは良くないわ。
大ガラスを余計に怒らせる事になるし、巣を失った大ガラスが街の方に行っちゃうかもしれない――。
――ズン!
――しっ!?
「駄目か~……こんなに大きいと、私の脚で蹴ってもビクともしないや」
ちょっと、ルイカちゃん!
シオンの言葉で即巣を落とそうとしないで!
少しは考えてちょうだい!!
「なら、チトの斧で切るっていうのはどないやろ?」
それはもっと駄目です!!
「皆さん、少し落ち着いてください。巣が無くなってしまいますと、大ガラスを刺激してしまい非常に危険です」
そうそう、アスターの言う通り。
出来ればルイカちゃんが樹を蹴る前に止めてほしかったけど……即蹴りをかましていたから無理か。
「そうか……じゃあ、どないしょう」
「「「「う~ん……」」」」
4人が悩んでいる。
う~ん……こんなにも考えている姿を見ていると、すべての元凶である私が非常に心苦しい。
仕方ない、かなり強引だけど依頼者として姿を現して「すみませ~ん、家にありました~アハハハハハ!」みたいな感じで誤魔化しつつ、パッと指輪を見せてからお金を渡して逃げるか。
よし、さっそく物陰に隠れて準備を……。
「……よし! こうしましょう!」
え? どうする気?
「わたくしが光る物か何かしらの食糧を持って大ガラスをおびき寄せますわ。で、その間に巣の中を見て来て下さい!」
はい? 自分が囮になるって事!?
それってかなり危険じゃない!
「シオン様、それは危険です! 囮なら私が!」
「樹を登るのはアスターさんに頼みたいのですわ、その方がより早く確実だと思いますの」
「そうですが、しかしそれでは……」
確かにアスターは木登りが得意だ。
でも、さすがに大ガラス相手に囮になるのは……。
「だったら、あたしがやるよシオねぇ! 足には自信があるし!」
「いや、チトが!」
「いいえ! ここはわたくしにやらせて下さい! 昨日と今朝の挽回させてほしいです!」
あ~なるほど、それで囮をかって出たのか。
「いやいや、それを言ったらあたしとチビッ子もやらかしたんだから挽回させてよ!」
「そうそう! ……ん? チビッ子?」
「いいえ! わたくしがやります!」
「あたしがやるってば!」
「ちょっと、今チビッ子って!」
あちゃ~3人の言い合いを始めちゃった。
早く4人の前に出て、指輪の事を話して収めないと。
――カサッ
ん? 今茂みから音がしたような……。
「――っ!?」
ローニが立って、姿を現しちゃってるし!
何を考えているのよ! あんたは姿を現しちゃ駄目じゃない!!
「なら、俺がおとっ――」
「――っ!」
――ガササッ!!
とっさにローニの口を塞いでマントの中に入れ込んだけど、さすがに音はどうしようもなかった。
さすがにバレちゃったかしら?
「今、音がしなかった?」
ですよね。
まずいな、今は姿が見えないとはいえここに居るのは得策じゃない。
静かに逃げないと……。
「そうですわね、あの茂み辺りから……あら? これは……」
「どうしたん?」
「ゴールドリングが落ちていましたわ」
ええっ!? そんな、指輪は私が……無いし!
しまった、ローニの口を塞いだ時に落としちゃったんだわ!
「シオンちゃん! もしかして、それが依頼のゴールドリングなんじゃ!?」
「……」
シオンが結婚指輪をじっと見ているけど……の流れって、もしかして……。
「シオねぇ?」
「……このゴールドリング、間違いないですわ……お母様! そこに隠れていますわね!?」
「「「えっ!?」」」
やっぱりバレちゃってるしいいいいいいいいいい!!
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