3章 探せ、アリシアの結婚指輪

その1

 うう……眩しい……。


「……う~ん……日の……光……?」


 窓から入って来る太陽の光がすごく眩しい。

 という事は、もう朝か……。


「……うう……頭が……痛い……それに……気持ち悪い……」


 やってしまった。

 完全に二日酔いだわ、これ。

 昨日は飲み過ぎたわね……。


「……水……水……」


 ああ……そういえば、この宿は外にある井戸から水を汲まないといけなかったんだっけ。

 今は動きたくない……けど、水も飲みたい。

 宿の人に頼めば持って来てくれるかしら?


「……あれ?」


 そういえば私、いつの間に宿まで帰って来たのかしら?

 え~と……確か昨日は……ローニが持っていた透明化マントを取り上げて、厄介物が無くなったからと気分が舞い上がって……気分が良いからと居酒屋に入って……そこから……え~と……そうだ、飲んでいる所に「上品に飲みやがって、気にくわねぇ」と酔っ払った男冒険者が訳の分からないいちゃもんを付けて来たんだ。

 最初は無視していたもの、グチグチグチグチとうるさくて怒った私が「だったら、飲み比べの勝負をしてやる!」って言ったんだった……今思えば何でそんな勝負を? その時からすでにお酒が回っていたのかしらね。

 まぁいいや、で~……それから……ん~……勝負の途中から今起きるまでの間が全く思い出せない。


「……うっ……駄目だ……これ以上思い出そうとすると、頭が痛い……」


 とりあえず宿の部屋に寝ていたという事は、酔っぱらいながらも自力で帰って来たって事だよね。

 あ~なんて情けない……こんな姿をシオンにもローニにも見せられないわ。


「……あっ!」


 そうだ! シオン!

 私は一体どのくらい寝ていたの!?

 シオン達は、もうギルドに行ったのかしら!?

 もう~! 自分ながら情けないったらありゃしない! 


「とにかく、急いで支度をしなくっちゃ!!」


 透明化マントが無くなってもローニは行動をするに決まっているし……。

 あっそうだ、透明化マントを私が使えばいいんだ。

 それなら楽にシオン達を追えるしローニの妨害も楽にできる。


「ローニは随分と楽だっでしょうに」


 姿を隠しながらの大変さを味わうがいいわ、うっひひひ。

 え~と、透明化マントは私の道具袋の中に入れ……入れ……あれ、おかしいな? 見つからないぞ?

 一度、道具袋の中身を全部ベットの上に全部出してっと。


「………………あれれっ?」


 ない! 透明化マントが何処にもない!

 どうして、確かに道具袋の中に入れたのに!



「嘘でしょ……」


 道具袋の中を改めて見た、出した物も細かく見た。

 クローゼットの中も見た、ベッドの下も見た、部屋中ありとあらゆるところも見た。

 でも、どこにも透明化マントが無い。

 もう探す所なんてどこにも……あっ!


「もしかして、昨日の居酒屋に置いてきちゃった……?」


 その可能性は十分ある。

 なにせ昨日の記憶が無いのだから。


「――くっ!」


 本当はシオン達の後を追いたいけれど、今のローニには透明化マントが無い。

 だから、依頼内容を盗み見たりといった大胆な行動は出来ないはず。

 となれば、今すぐ向かいべきは昨日行った居酒屋。

 あの透明化マントは今後の役に立つし、何よりあれで悪用に使われたらたまったもんじゃないわ。

 絶対にこの手で回収をしないと!!



 え~と……昨日の居酒屋は、確かこの辺りに……あった、ここだわ。

 当たり前だけど、閉店の札が店の前に掛かっているわよね。

 ん~中に人はいるのかしら? 仮に居たとしても、押し掛けるのは迷惑かな。

 ……いや! 今はそんな事を考えている場合じゃない。


 ――ドンドン!


「あの! 誰かいますか!?」


《――》


 今、居酒屋の中から音がした。

 誰かいるみたい。


 ――ドンドン!


「あの! すみません!」


 お願いします、出て来て下さい。


「あの――」


 ――ガチャ


「――何だよ、うるせぇな」


 良かった、この居酒屋の亭主が出て来てくれたわ。


「おい、まだ営業時間じゃねぇんぞ!!」


 そりゃ怒るわよね。

 でも、ここは私も引けないの!


「すみません! どうしてもお聞きしたい事がありまして!」


「はあ? 聞きたい事って……何だ、昨晩のベロンベロンエルフじゃないか」


 ベロンベロンエルフって……。

 その呼び方はすごく恥ずかしいんですけど。


「あははは……それで、お店の中に白色のマントがありませんでしたか? とても大事な物なんですけど……」


「白いマント? いや、掃除をした時にはそんな物は無かったな」


 嘘っ!


「そっそれは、本当ですか!?」


「ああ、隅々までちゃんと掃除をしているからな。そんな物があったのならすぐ気付くよ」


 確かにそうよね。


「そう……ですか……」


 じゃあ宿までの帰りに落としたのかしら。

 そうなると、探すのはめちゃくちゃ大変じゃない。


「その様子だと、そのマントをどこかに失くしたわけか。まぁあれだけベロンベロンエルフだったらな……」


 その呼び方は止めて下さい!


「というか、ここに来るより旦那に聞いた方がいいんじゃないか?」


 ……へっ? 旦那?


「旦那……ですか……?」


 旦那って、もしかしてローニの事?

 いやいや、それはおかしい!

 だって、ローニは――。


「ああ、金髪の人間ヒューマンだったが……お前さんの旦那と違うのか?」


 ――ローニだあああああああああああああ!!

 それは間違いなく本物のローニだ!!

 信じられない……体が麻痺して、知らない村に置いて来たのに昨日の晩には街に戻ってきたわけ?

 というか、どうして私の位置が分かったのよ!?


「違わないです……私の旦那です……」


 ローニの野生の勘かしら?

 どちらにせよ、今のでわかった事がある。

 透明化マントはベロンベロンになった私を連れ帰る時に、ローニが回収したんだ。


「教えて頂き、どうもありがとうございました……」


「ああ、探し物が見つかるといいな」


「はい……どうも……」


 何たる失態、手に入れたその夜に取り返されるだなんて。

 あ~あ~せっかくこの手の中にあったのに……あれ?

 左手の薬指にあるはずの指輪が無い!


「えっ? ええっ?」


 嘘でしょ!? 何で結婚指輪も無くなっているのよ!

 いつから? 昨日? 今日? 全然気が付かなかった!

 私の馬鹿馬鹿馬鹿!! 透明化マントが取り返された上に、結婚指輪まで無くなるなんて!


「禁酒よ、禁酒! お酒なんてもう二度と飲まないんだからあああああああああ!!」

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