騎士の務め

 ドゥケとカッセルのことも気になるけど、私は渓谷の奥で戦ってるバーディナムと魔王の方にも思わず視線を送ってた。そう何度も立て続けに使えないのか、それとも使うだけのタメを作れないのか、例の光だか炎だかよく分からない<ブレス>を吐く気配はないけど、あれがもしこっちに向かって放たれたら、たぶん、私たちなんてひとたまりもない。

 だからライアーネ様に、

「ライアーネ様! またいつ魔王が<ブレス>を使うやもしれません。ここは、騎士団については王都に戻ってこの事態を報告してください」

「でも、それじゃあなたたちは…!?」

「私たちは<勇者>です。私たちならまだ何とかなりますけど、もう、普通の人間じゃまったく何もできない状況です。申し訳ありませんが、はっきり言えば<足手まとい>なんです。だから…!」

 <足手まとい>なんて本当は思ってなかったけど、敢えてこの時はそう言わせてもらった。これで恨みを買っても仕方ないと思った。だけど本当に、普通の人間にはできることがないと思う。それだったら、王都に戻って備えてもらうのが騎士の務めなんじゃないかな。

 ライアーネ様は、そんな私の言葉に怒ることなく、それどころか悲しそうに唇を噛みしめて、

「分かった。ここはあなたたちに任せて、報告に戻ることにする。だけど約束して。あなたたちも必ず戻ってくるって。いい?」

 その言葉に、私も真っ直ぐに見詰め返してた。

「…はい、分かりました」

 正直、守れるかどうか分からない約束だった。むしろ守れない可能性の方がずっと高いと思う。それでも、『帰らなきゃ』っていう気持ちを捨てちゃいけないと思った。

 本来、魔王を倒すには勇者が命を捨てなきゃいけなかった。だから普通にやってたら、少なくとも私たちのうちの誰かが命を落としてたはずだ。だけどもう、そういう<縛り>はなくなったと考えてもいい気がする。私たちが生きて帰れる可能性だって出てきたってことかもしれない。

 でも……

「アリスリスは、一緒に連れて帰ってあげてください。彼女はまだ、ここで命を懸けるのはやっぱり早いと思いました。次の希望ですから」

「そうね…そうかもしれない」

 けれど、ソーニャに背負われたアリスリス自身は悔しそうに泣きながら言った。

「バカヤロウ…! 恨んでやるからな…! 帰ってきたらひっぱたいてやる……!」

 そんな彼女に、私は応えてた。

「そうだね。そのためには生きて帰らなきゃね。ドゥケも引きずってでも帰るよ」


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