何気に好み

 同じ<勇者>なのにドゥケと随分印象の違うカッセルだったけど、それは本来、当たり前のことだった。

 <勇者>はそもそも、善神バーディナムの神託を受け力を与えられた人間でしかなく、誰が選ばれるかは『神の御心のままに』というのが現実というのを私も知った。

「僕は元々、絵描きになりたくて、そのためのパトロンを探して王都に来たんです。でもある時、善神バーディナムのご神託を受けて、勇者ってことになって。

 戦い方とかは考えなくても頭に浮かんできましたけど、僕自身は戦ったりとかは苦手で……

 それでも勇者に選ばれてしまった以上はその役目を果たさないといけないということで、金剛騎士団の皆さんと一緒に魔王軍と戦いました。最初は連戦連勝で、正直、僕も調子に乗ってしまってたと思います。

 だけど、この森の北の外れで陣を張ってた時にドラゴンの襲撃を受けて、僕と一緒に金剛騎士団に同道してた神妖精しんようせい族の巫女が攫われて、ブレスを受けて、騎士団は壊滅しました……」

 子供のように膝を抱えながら俯き加減にそう話す彼の姿は、なんだかとても憐れに見えた。本当に戦いとかとは無縁だった人が突然巻き込まれて仕方なく戦ってたところをとんでもない敵に遭遇してしまってどうすることもできなかったっていうのがすごく伝わってきた。

 善神バーディナムのことを疑う訳じゃ決してないけど、きっと私達のような凡夫には計り知れない深いお考えの上でのことだとは思うけど、やっぱりただの凡夫な私には、

『無茶だったんじゃないかな……』

 っていう思いがよぎってしまうんだよね。

 でも彼は、自分が勇者としての役目を果たせず、なのにこうして生き残ってしまったことを悔やんでるそうだった。

「僕は情けなくて頼りない男ですけど、それでも人間です。悔しいという気持ちもあります。ドラゴンのブレスに呑まれて消えていった金剛騎士団の人達の無念も晴らしたい。そう思って何とか今日まで生き延びてきました。

 ただ……」

「ただ……?」

「僕、ものすごい方向音痴なんですよね。だからずっと、森の中を彷徨ってただけなんです。仮にも勇者だからはぐれ魔族くらいならどうってことないですし……」

 申し訳なさそうに頭を掻きながら苦笑する彼の姿に、私は何だか気が抜けてしまうのも感じてた。

 それに…実はちょっと、彼みたいに自己主張が激しくない、どちらかと言うと私の方が守ってあげたくなるようなタイプって、何気に好みだったりってことも……

 だから最初は、ドゥケみたいなのは苦手だったんだよねえ。


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