落ちる…!

 新しく現れたドラゴンは、ギラギラと輝く黄金の瞳で私とポメリアを握っているドラゴンを睨み付けていた。

「ゴォア、ガァ。ゴアア…ッ!」

 って感じで、羽ばたきながら空中に浮かんだ状態で、こちらのドラゴンが何か話しかけるように声を発した。なのに新しく現れた方のドラゴンは、いっさい、それに応える様子がなかった。

 何のやり取りしてるのか私には分からないけど、少なくとも友好的って訳じゃなさそうだ。元々、ドラゴンは魔族の呪いで操られたりするのも恥だと考えるらしいって聞いたことがある。つまりは、『そういうこと』って話なのかな。

 と思った私の考えを裏付けるかのように、新たしく現れたドラゴンが突然、こちらに向かって突っ込んできた。

 私とポメリアを掴んだドラゴンもそれに反応し、急上昇する。ものすごい敵意と攻撃衝動を感じる。戦う気なんだ。

 だけど、新しく現れたドラゴンが私とポメリアを助けようとしてるみたいな印象はまったくなかった。ホントにたまたま、この場に居合わせてしまっただけなんだ。

『正気のドラゴンが、呪いで魔族に操られてる、一族の恥さらしを粛正する』場面に。

『泣きっ面に蜂とは、このこと……!?』

 もう、そんな風に思うしかなかった。

 ドラゴンにとって人間なんて、ただの虫けらみたいなものだ。気遣いなんてしてくれない。このまま戦いに巻き込まれたら、私もポメリアもきっと助からない。

『せめてポメリアだけでも…!』

 って思ってもまったく体も動かない。ドラゴンの指に噛み付いてやったけど、私の歯が欠けそうだった。

『ポメリア! ポメリア! ポメリアっ…!!』

 ロクに声も出せないから頭の中で彼女を呼んだ。彼女はまだ意識を失ったままみたいだ。

『ごめんポメリア、私、あなたを守れない……!』

 自分の無力さ、不甲斐なさを呪いながら心の中で謝る。そんな私を振り回すように、赤い目のドラゴンが宙を舞いながら金の目のドラゴンから逃げ回る。

 魔族の呪いで縛られたドラゴンは力が劣るというのは本当なのかもしれない。まともに戦おうともしないのは、勝てないことを分かってるからだろうな。皮肉なことに、今はこの赤い目のドラゴンに逃げ切ってもらうことを祈るしかないのか…!

 でもそう思った次の瞬間、私の体がフワッと宙に浮く感じがした。体を締め付けていた力も感じない。

「…え?」

 となって周りを見ると、私とポメリアが宙に浮かんでる状態だった。

 いや、『落ちてる』んだ。まさかと思って頭をひねった視界の先には、もつれあう二頭のドラゴンの姿が。

 ついうっかり私とポメリアを放してしまったのかもしれない。

「落ちる…!?」

 体が引っ張られる感じがする方に頭を向けると、その先には真っ暗な世界。たぶん、森だろう。私とポメリアは、そこへと吸い込まれるように落ちていったのだった。


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