第二話 君を彩る
*
「意図的だとしたらあんまりじゃないか。今日は日直だから僕。昨日は日付と同じ出席番号の僕。先週は当たった人の後ろに座ってた僕。まったく、
「聞いてない。……間違えた。キイテル、キイテル」
「なんて悪い奴だ、本音を隠すのが下手すぎるよ」
移動教室で旧校舎に向かってる間、風見の愚痴は続いた。その内容は正直どうでもよく、俺はまったく別のことを考えていた。タンポポの彼女だ。
本当に些細な出来事。その時はそれ以上思わなかった。なのに、あれから日が経つごとに彼女のことを考えている。
(なんでちゃんと名札を見なかったんだ……)
近距離で、顔を合わせて、会話もして。これ以上なく自然に名前を確認できる機会だったと今なら思う。胸のプレートは小さく、離れたところからは読みようがなかった。そう、見かけてはいるんだ。離れたところからは。
教室から見下ろす昼休みの校庭。
広い食堂の離れた座席。
友達と話ながら歩く廊下。
きっと今までもあったはずのすれ違いに、あの子を見つけてしまう。人混みの中で鮮やかに目を引くんだ。枯れ葉に紛れた春の黄色みたいに。
「あ、見つけた!」
風見の声にギクリとなる。思考を読まれるわけもないのに、一瞬コイツなら出来かねんとさえ思った。なんてことはない、風見が見上げる先にいるのは例の三年生らしい。……いや、なんで見つかるんだよ。
校舎を仰ぐ。俺にはよくわからないが、たぶんたくさん並ぶ窓ガラスのどこかに姿があるんだろう。
「お前、本当によく気付くな」
「センサーが働くのさ。恋とはそういうものだよ、三森」
「恋、ねぇ」
頭の隅に浮かぶ顔。恋なんてそんな大袈裟なもののつもりはない。だけど、妙に落ち着かない気持ちになって、なんとなく首の後ろを掻いた。
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