第93話酔っ払い会談からの……

 さて、俺とシノブは国境へ向けて、出発しているわけだが……。


「そういえば、団長が公爵家当主になったと聞いた時、義母さん驚いてましたねー」


 俺も昨日のことを思い出し、答える。


「まあ、そうなると知ってはいても、実際になるとそういうものだろ。俺だって前々から言われていたのに、実感なんか湧かないしな」


 それだけ、公爵家当主とは特別なのだ。

 建国の祖デュランダルの右腕と言われた、バルムンク-ファーガス。

 左腕と言われた、ティルフォング-レナード。

 この2人がいなければ、成り立たなかったと言われている。


「まあ、そんなものですかねー。後は、エリカちゃんのこともあるでしようねー」


「まあ、娘が王妃になるかもしれないんだからな……。そりゃ、どんなに覚悟してても驚くだろ。だって俺も、いざ聞くとマジかってなるし、エリカが王妃とかピンとこないし」


「義母さん、フラフラしてましたもんねー。あの子で大丈夫かしらって」


「……可愛い妹だが、それには激しく同意する。まあ、これから時間はたっぷりあるから学んでいくと思うけどな」



 そして俺達は、2日かけて国境にたどり着く。


「ふぅ、間に合ったようだな」


 そのまま待つこと1時間ほど経つと、グラント王が1やってきた。


「おう!ユウマ殿!久しぶりだな!」


「お久しぶりです、グラント王。お元気そうでなによりです。それより、お一人で?」


「ああ、全部断ってきた。この隙に、攻めてこないとも限らないからな。俺には、護衛はいらないしな」


「いや、それはそうでしょうが………仮にも、王様ですよね?」


「ガハハ!まあ、人族とは違うわな!お!シノブも久しぶりだな!良い女になったな?」


「グラント王、お久しぶりです。娘になれず、申し訳ありませんでした。良い女に見えるとしたら、ユウマ殿のおかげでございます」


 どうしよう……シノブが普通の言葉遣いだ……!違和感しかない!


「それは、気にするな。良い女を振り向かせる器が、ゴランには足りなかっただけだ。それでは、案内を頼む」


 俺らは来た道を戻り、王都へ向かう。

 ちなみに、グラント王は走っている。

 国からも走ってきたという……どんな体力だよ……。


 



 2日後、王都へ戻ってきた。


 ヤバイ……俺は普通の人間だぞ……!

 休憩を挟んでいるとはいえ、かなり疲れた……。

 2人は、全く疲れた様子はない。

 改めて思うが、これが種族の違いか……。


 俺は疲れた身体に鞭を打ち、そのまま会談の場所へ向かう。

 ちなみに、民衆がパニックになりかけたが、俺がいることで収まった。

 どうやら、知らない間に英雄扱いされていたらしい……。

 あまり、実感はないのだがな……。

 

 そして人気のない場所に、たどり着く。


「シノブ、辺りの見張りを頼む」


「はいはーい、了解です」


 俺はグラント王を連れ、奥へ進む。


「国王陛下。グラント王を、お連れしました」


「うむ、ご苦労だった。では、護衛を頼む」


「は!お任せを!」


 俺は、国王様の左に立つ。

 そして、宰相様が右に立つ。

 椅子に国王様とグラント王が座り、会談を行う。


「グラント王、遠いところをよく来てくれた。感謝する。余が、デュラン国王である」


「こちらこそ、受け入れを感謝する。我が、グラント王である」


「さて、何から話そうかのう……」


「国王陛下、発言をお許し頂けますか?」


「うむ、許可する」


「ここにおられるグラント王は、剛毅なお方です。シグルド叔父上と思って、接するのが良いかと」


「……お主がそういうなら、そうだな。ゴホン…….では、とりあえず酒でも飲むか?」


「………ククク………ハハハ!ユウマ!この方は、これが素か!?」


「ええ。本来は、堅苦しいのが嫌いなお方です。あまり気にせずに、話すと良いかと」


「おいおい、ユウマよ……いや、否定ができんな。まあ、そういうわけだ。堅苦しいのは、抜きにするとしよう」


「ククク、気に入った。人族の王が、こんな方だとはな……。やはり、偏見というのはいかんな」


「すみませんが、これが特別なだけですから。そこだけは、ご理解ください」


「わかっている。次の王はまた別だろう。だが、今の非常事態には助かる」


 その後、2人は酒を飲み交わし、意気投合して盛り上がった。


「さて……それでは、同盟を結ぶということでいいかの?ヒック!」


「ああ……それで良い。よろしく頼む。ゲブゥ!」


 あれ……?会談ってこれで良いのか……?

 この会談って、物凄い重要なものなのでは?

 二人とも、酔っ払っているのだが?

 まあ、責任の一端は俺にもあるか……。


「これは……前代未聞です……これでは、公式記録に載せられない……!!」


「宰相様、心中お察しします……。少々、お待ちください」


 俺は、2人に酔い覚ましの回復魔法をかける。


「おお!酔いが醒めた!こんな使い方もあるのか!」


「ユウマよ!感謝する!これが、シグルドが言っていたものか!」

 

「ユウマ殿!ありがとうございます!貴方は、救世主です!」


 物凄く、感謝されているのはわかるが……釈然としない……!

 あれ?もしかして俺は、この為に呼ばれたの?


 その後二人は、同盟規約に同意し、血で拇印ぼいんを押す。


 これにて、同盟が成立した。


 良かった……これで、俺の任務も終わったな……。

 いや、まだか。

 グラント王を、送っていかなくてはな。

 その後はガンドールに戻り、次の戦いに備えるとしよう。


 だが、物事はそう簡単にはいかないらしい。


「団長!!一部の貴族と兵士が反乱を!!」


「ッ!!やはり、来たか!!」


 さて、どうする?

 間違っても、グラント王に人族を殺させるわけにはいかない。

 只でさえ、あまり良い感情を持たれていないのに、そんなことになったら、最悪同盟の話も消えかねん……!


「ユウマ殿!国王陛下のお守りは私が!グラント王は手出ししないでください!」


「む?……いや、そうか。そうだな、俺が手を出したらまずいか」


「わかりました!シノブ!お前は貴族を倒せ!殺してしまって構わん!兵士達は、それで瓦解するはずだ!」


「了解です!!団長は!?」


「俺は首謀者を相手にする……!こんな大それた事を出来る人間は限られている。さあ、いるんだろう?出てこいよ」


 すると、シノブが来た逆方向の茂みから、ティルフォング-ターレスが出てくる。


「………生意気な小僧め……!不意をついて国王を殺そうかと思ったが、まあいい。今の私なら、誰であろうと負けるはずはない!!」


 なんだ?この自信は?

 確かにティルフォング家といえば、当たり前だが剣の腕は一流だ。

 過去には、剣聖も何人か輩出している。

 それでも、ここにはグラント王に、そして俺やシノブもいる。


「なっ!ユウマ!気をつけるのじゃ!奴が持っている剣は宝剣、いや魔剣グラムだ!」


 俺は、奴の持つ剣を確認する。

 禍々しい気配を纏った剣がそこにはある。

 あれが、宝剣の中で最も危険だと言われている魔剣グラムか……!


「ククク、私はグラムに選ばれた!これが突然目の前に現れた時、私は歓喜した!これさえあれば、皆殺しできると!私の剣の腕は一流だ!足りないのは強い武器のみ!つまり、このグラムさえあれば、貴様らなど敵ではない!!」


 ティルフォング-ターレスから、圧力を感じる……!


「団長!?」


「シノブ!お前は予定通り貴族を!俺のミストルティン以外では打ちあえん!」


「あー!もう!この後すぐに、バルムンク貰う予定だったのに!わかりました!負けないでくださいね!?私、すぐに未亡人とか嫌ですからね!!」


「わあってるよ!俺も、可愛い嫁さん抱く前に死にたくはないさ!」


「ククク、別れの挨拶は済んだか?まずは、生意気にも公爵家当主になったお前から殺す!

 貴様等は、いい加減目障りだ!お前達ミストル家の者がいなければ、私が次期国王の義父になっていたのに!!安心しろ!お前の妹も殺してやるからな!」


 そういうことか……。

 叔父上、俺、エリカがいなければ、そうなっていたと思い込んでいるんだな。

 それよりも……こいつ、今なんて言った……?


「貴様は今、言ってはならないことを言った。俺の可愛い妹を殺すだと?そんなことを、この俺が許すわけがないだろうが!!」


 俺は全身に魔闘気を纏う!


「覚悟しろよ……!お前は、俺の逆鱗に触れた……!」


「ほ、ほざくな!小僧が!!グラム!私に力を!奴を殺す!!」


 黒いオーラがグラムから溢れ出る!


 こうして宝剣対宝剣の、公爵家当主対公爵家当主の一騎打ちが始まろうとしていた。













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