第91話幕間

 さて、調査を終えてから、1週間ほど経った日のことだ。


 俺はシノブとホムラと、街の中を散歩していた。


 それは、まあいいのだが……どうしたものか……。


「えへへー、団長?」


 シノブは、俺の右腕にしがみ付きながら言った。


「はいはい、なんですか?シノブさんや」


「何でもないですよー」


 シノブは満面の笑みを浮かべている。

 まあ、可愛いことこの上ないな。

 思わず抱きしめたいくらいだ。


「フフフ、ユウマ?」


 ホムラは、俺の左腕にしがみ付きながら言った。


「はいはい、なんですか?ホムラさんや」


「なんでもないですわ」


 ホムラも満面の笑みを浮かべている。

 まあ、妖艶なことこの上ないな。

 思わず抱きしめたいくらいだ。


 ……こいつ、何言ってんの?って感じですよね。

 あれ?こいつらってこんな糖度高めだったっけ?

 ええ、わかります。皆の言いたいことは。

 実際、叔父上とかには見てらんねぇとか言われる始末。


 いや、でも大目に見て欲しい。

 何故なら、漸く婚約が出来たのだから。


 なので、二人共大層ご機嫌な様子というわけだ。

 もちろん、俺も嬉しい。

 こんな素敵な女性2人が、俺を好きでいてくれるのだからな。


 あの後、ホムラに正式に婚約を申し込んだ。

 まさか、泣くほど喜ばれるとは思わなかったな……。


 もちろん、シノブにもきちんと申し込んだ。

 こっちは、ずっとニマニマしていたな……。


 まあ、そんなわけなので、所謂休日デートというやつをしているわけだ。


 ただ、ある問題が発生している……。


「ところで、団長?どっちから抱くか決まりましたかー?」


「べ、別にワタクシは、いつでもいいですわよ!?」


 これである……両方同時でよくね?という声もある。

 だが、そんな高難易度なことは、俺には無理ーー!!

 だが、どっちか先にすると、それはそれで角が立つ……。

 そもそも、俺は結婚するまではしないつもりだったのだが……。

 はい!そこ!ヘタレとか言わない!

 ……自覚はあります……。


 はぁ……どうしたらいいのだろうか?

 誰か教えてくれないものか……。


「とりあえず、保留で……」


「むー!まあ、仕方ないですかねー」


「ワ、ワタクシは、別にいつでもいいですからね!」


 まあ、幸せな悩みではあるな。


 それにしても、こんな平和でいいのだろうか?


 俺の感じでは、何かか起きると予想していたのだが……。


 この胸騒ぎは、気のせいだったということか……?


 だが、ある意味俺の予想は当たっていた。


 ただ、あまりに遠い国の出来事だったので、誰もそのことに気が付かなかっただけだ。



 ▽▽▽▽▽▽


 ~ゼノス視点~


 さて、いよいよ決行の時を迎えた。


 俺が、この日をどれだけ待ち望んでいたか……!


 俺が今25歳ということは、15年かかったか……。


 長かった……辛かった……苦しかった……だが、それも今日で終わりだ……!


「ゼノス様!確認とれました!居場所は特定しました!配置も完了です!後は、ゼノス様の号令を待つのみです!」


「……そうか、いよいよか。ロラン、ありがとよ。お前がいなけりゃ成り立たなかったぜ」


「ッ!!何を言うのですか!貴方がいたから、我等は……!」


「おいおい、泣くなよ?まだ早いぜ?」


「す、すみません、つい……」


「まあ、気持ちはわかるがな。俺も感慨深いものがあるからな……よし!始めるか!」


 俺は兵士達と民の前に立ち、宣言する。


「皆の者!長らく待たせたことを済まなく思う!だが、雌伏の時は終わった!俺は今日、奴等を駆逐する!あの腐った騎士供を!あの王族供を!!さあ!行くぞ!!」


「ウォォォ!!!」


「ロラン!出陣する!つゆ払いは任せるからな!!」


「はっ!お任せを!貴方は、真っ直ぐに目的地へ向かってください!!」


 俺は精鋭のみを連れ、王城へ駆けだす!


 途中に騎士がいたが、仲間達が抑えてくれている。


「な、なんだ!?貴様ら!?ここがどこかわかっているのか!?」


 あっさりと王城まで来られた俺らに、守衛はそう言った。

 こいつらは、反乱がおきることなんか想定してなかっただろうな。

 長らく支配階級だったせいで、そんなことが起きるとは思わない、お気楽な奴等だよ。

 まあ、俺も死んだことになっているしな。


「わかってるよ。腐った豚共がいるところだろ?さあ、降伏するなら命まではとらないが、どうする?」


 俺が殺さなくてはいけないのは、諸悪の根源である近衛騎士と王族供だからな。


「ふざけるな!!貴様等みたいなゴミ共が入っていいばし……グベェ!!」


「では、死んでおけ。邪魔だ。」


 俺は容赦なく、槍で顔を貫く。


「よし、行くぞ」


「はい!行きましょう!」


 俺はロランと精鋭を引き連れ、王城へ入る。

 これで、半分は成功したようなものだ。

 馬に乗らない騎士など、俺の敵ではない!


「な!なんだ!?きさ……ゴハッ!!」


「こ、ここがどこか……ゲペェ!!」


「や、やめろ!お、俺には家族……ギァァ!!」


 俺は騎士達を蹂躙していく。

 なんだ、こいつらは……こんなに弱かったのか。

 いや、俺が強くなったということか。

 まるで相手にならんな。


「す、凄いです!ゼノス様!我等が勝てなかった騎士をあんなに容易く……!」


「まあな、デュラン国で良い刺激を受けたおかげかもな。あそこには、俺より強いのが何人もいたからな」


「や、やはり、流石はウィンドルを討ち取ったという、デュランダルが建てた国ということですか」


「そういうことだな。民も普通に暮らしている良い国だったな。少なくとも、うちよりは数段上だったな」


 そのまま余裕を持って、奥へ進んでいく。

 すると、別方向から声がした。

 どうやら、城内の味方の騎士が動いてくれたようだ。

 全部の騎士が腐っていたわけじゃないのは、朗報だったな。

 この後も、しなくてはならないことがあるからな。


「何をするのですか!?この無礼者!私を誰だと思っているのですか!?」


「そうよ!アンタ達みたいな平の騎士が触れていい身体じゃないのよ!?」


 はぁ……あの2人の豚か。

 顔も見たくなかったのだが、仕方ない。


「よう、お2人さん。相変わらず、醜い豚みたいな姿だな」


「な、な、な……!」


「こ、こ、こ……!」


 どうやら、言われたことない台詞なので、言葉にならないようだな。


「どうした?醜い顔が、更に醜くなっているぞ?」


「あ、貴方はゼノス!?死んだのではなかったの!?」


「え……?本当だわ!ゼノス!何故生きているの!?」


「お前らを殺さずに、死ねるか。俺の母親を殺したのは、お前らだな?」


「ち、違うのよ!?私はやめなさいって言ったのに、こいつが!」


「ちょっと!?言い出したのはアンタじゃない!!」


 ……なんと醜い……!

 聞くに耐えん会話だ……!

 今すぐ首を刎ねてやりたいが、我慢しろ……!

 きちんと民の前で、罰するべきだ。

 何しろ、王子達と国王は流石に、殺さずに無力化できるかどうかはわからないからな。

 民の怒りの矛先をぶつける相手が必要だ。


「よく捕まえてくれた。うるさいので、猿轡さるぐつわをして、どっかに閉じ込めておいてくれ」


「はっ!了解しました!」






「はぁ、疲れた。いや、殺したいのは山々なのだが、まず顔を見たくない……」


「お気持ちを察します。アレでは、無理もありません」


「ありがとよ。さて、気を取り直して、行くとするか」


 敵対する騎士を殺しながら、奥へ進む。


 そして、いよいよ奴等が待ち受ける、謁見の間に辿り着いた。


 中に入ると、近衛と王子2人がいた。


 ん?国王がいない?……この期に及んで、女のところにいるのか?


「よう、ブレン。あと、ビルラも」


「ゼノス……!生きていたのか!」


「だから言ったんだ、俺は死体を確認するべきだと。やはり、次の王は俺が相応しいな」


「何を言っている!?一番強い俺様が王に決まっている!!」


 なんだ?どういうことだ?


「そういうことでしたか……」


「ロラン、どういうことだ?」


「いえ、我々も細心の注意を払い準備をしました。それでも、あまりに上手く事が運びました。いくら奴等が反乱を予測していないとはいえ、おかしいと思ったのです。ですが、国王が死んでいたなら話は早いです。それは、民や兵士達に注意を払う暇などないでしょう」


「なに……?国王が……?」


「そうだ、親父は死んだ。お前がいなくなる前から、身体を壊していたしな」


「最後は、みっともないものだったな。平民の女の名をずっと呼んでいたな」


「何……?どういう意味だ?」


「そのままの意味だよ。お前の母親の名を呼んでいたな。全く……我が父ながら、

 平民の女に惚れるとは、やはり相応しくなかったな」


 ……今は、考えるな!後でいい……!

 それに好都合だ!こいつらを殺せば、全てが片付く!


「そうか、では死ね!」


「ハハ!お前が俺に勝てた事などあるのか!?」


 第二王子のビルラが、槍で突いてくる!


「馬鹿が!いつの話をしてやがる!」


 俺は槍の先端を避け、刃のすぐ下を掴み、引っ張っる。


「うおっ!!」


 奴は前かがみになりながら、俺に寄ってきた。


「あばよ、ビルラ」


「まっ、待て!!待ってく、ゴボッ!!」


 俺は槍で、口の中を貫通させた。


 ドチャ!という音と共に、頭から血が流れでる。


「な!なんだと!?俺より弱いとはいえ、ビルラが相手にならない……?く!何をしている!?近衛共!奴を殺せーー!そして、俺が国王だ!!」


「は、はい!覚悟しろ!!この野良犬が!!」


「ハッ!野良犬?上等だ!腐った豚よりはマシさ!いいぜ、来な!」


 近衛共と仲間達の戦闘が始まった。


 チッ!流石に腐っても近衛か……!

 仲間達だと、一対一では勝てなそうだな。


「隙あり!」


「隙なんかねえ!」


 俺は首を曲げ、槍をやり過ごし、相手の無防備な腹を貫く!


「ゴハッ!!」


「今だ!」


「おせぇ!!」


 突いてきた槍を躱し、相手の槍を奪う。

 そして槍を反転し、相手を突く!


「ゲホッ!!」


 俺は槍を二本持ち、近づいてくる近衛を始末していく。

 よし!今の俺なら、近衛すら敵ではない!


 そして、いよいよ第1王子ブレンと対峙する。


「よう、ブレン。覚悟は出来たか?」


「き、貴様……!この兄まで殺そうというのか……!」


「ふざけるな!貴様など兄ではない!一度でも貴様が弟扱いしたことでもあったか!」


「うっ!そ、それは母上がそうしろと……」


「ああ、そうかい。だが、知らん。お前も死ね」


「………ククク、死ぬのはお前だ!」


 そう言い、槍に巻いていた布を取り外した。


「チィ!既に手にしていたか!お前、ビルラを殺すつもりだったな?」


 奴が持っていたのは、国宝である槍、トライデント。

 その威力は桁違いな上に、ある特殊能力がある。


「フハハ!ああ、その通りだ!このトライデントさえあれば、誰であろうと敵ではない!」


 少々まずいな……触れただけで肉が持っていかれるだろう。

 掠ることも許されないぞ……!


 しかし、奴はトライデントを構えようとしたが、様子がおかしい。


「な、なんだ!?急に重くなったぞ!?さっきまで軽かったのに!これを持てたから、俺は王になると思ったのに!!」


 なるほど……ユウマ殿が言っていたな。

 古代よりある宝具は意思を持つと。

 持ち手を自らで選ぶと。

 我が国の宝具もそうだったのかもしれん。

 ということはだ、試してみるか。


「トライデント!俺の名はゼノス!この国を正す者!共に元の国の形を取り戻すぞ!」


「馬鹿が!何を言っている!?半分しか王家の血を引かない半端者が、王家の選ばれた人間にしか使えない……なに!?」


 気がつくと奴の手からトライデントが消え、俺の目の前に浮いていた。

 俺は武器を置き、トライデントを掴む!

 どうやら、俺を認めてくれたようだ……軽い、そしてとてつもない力を感じる。


「どうやら、腐ったお前よりは、半端者の俺の方がマシらしいぞ?」


「ば、馬鹿な……!そ、そうだ!俺とお前で国を動かそう!俺を殺すと、騎士連中や身内がだまっていないぞ!?なあ、そうだろ!?」


「この期に及んで命乞いとは……救えないクズめ……!そう言って命乞いをしてきた平民を、貴様は一体何人殺した……!もういい、喋るな……!すぐに楽にしてやる……!」


「ヒィィ!!や、やめろーー!!」


「あばよ……伸びろ!トライデント!!」


 俺がそう言うと、トライデントの先端が伸び、ブレンを貫いた!

 これがトライデントの特使能力だ、伸縮自在の武器、それが国宝トライデントである。


「ゴボッ!!……俺が死ぬ……?この国の王になるはずの……」


 最後まで、自分が王になると疑わなかったな……馬鹿な奴だ。


 だが、これで終わりだ。


 まだまだやることは沢山あるが、これでこの国は生まれ変わる!!


 そして俺は、二国を統べる王となる!!

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