第94話 バイク工房
フロンティーネで開都記念式典が行われていた時、王都では一つの事件が起きていた。
王宮のとある一室から、ジャルフィー殿下の姿が消えた。王宮の主だったものが皆公爵領に行ってしまったため、近衛の警備が手薄になっていたのは確かだ。使用人も気遣う相手がいなくなったので、少し気が緩んでいたのもまた事実であった。そんな夜、ジャルフィー殿下は王宮を抜け出すのに成功した。
「ふーっ、やっと出られたぜ。あのクソ親父、俺をあんなカビ臭い部屋に閉じ込めやがって」
城下に紛れた殿下は、1軒の店を目指していた。近衛騎士団の小隊長を務めたぐらいだ。近しくなった商会の1つや2つはある。その中には言うことを聞いてくれるところもあった。
3日後、殿下の姿は王都から消えていた。
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式典に集まった領主の方たちの注目の的はやはりクルマです。乗合として10台以上走らせていますから、そりゃぁ目につきますって。
まぁとにかく多いのは、『譲ってくれ』ね。はっきり言って冗談じゃありません。だってあれ1台で金貨70枚ぐらいするのよ。あげられませんから。そんなに欲しいんだったら、そこに帝国の人がいるから買い付ければいいじゃないですか。それに道がきれいじゃないと車を走らせるのは大変よ。故障しやすくなっちゃうし。
ドルアさんは道に興味があったみたいね。どうやったのか聞いてきたから、それについては教えてあげたわ。ほら、自動昇降機でお世話になったからね。早速帝都でも採用するって。
「いい街ができたな」
「ありがとうございます」
「ところで、城の前に空地が多かったが、あれはなぜだ」
「あそこはおじいさまや伯父様たちが別荘でも建てるかなって。ルイスおじさんに言われてちょっと小ぶりだけど城まで作ったんだから。作らないんなら他の人に許可を出すだけですけど」
「そういう事なら建てておこうかな」
「じゃぁ俺も」「俺もな」
あの後バタバタといろんなことが決まって、そしてお開きとなりました。通常モードに切り替えです。
仮設の町に住む人たちへの説明もドルアさんがやってくれました。畑の方は軍で買い上げるそうです。駐屯地で食べる野菜を作るんだって。なので、近く建物ごと引越しをすることにしました。ようこそ公爵領へ。
新住民は農業希望だってさ。畑も忙しくなってきてるから、助かるよねぇ。
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今日は王都の商業ギルドに来ています。
「ミルランディアですけど」
「お待ちしておりました、公爵様。2階の応接室を用意してありますので、こちらへどうぞ」
ギルドの職員に連れられて、2階の応接室に入ります。
「ただいまギルド長が参りますので、お掛けになってお待ちください」
入れ替わるようにギルド長が入ってきました。
「公爵様、今日はどのようなご用件で」
「チョットね、求人をしたいんですよ」
「求人ですか。どのような方をお探しで」
「えぇと、まず土魔法が使える人が前提条件ね。仕事場が公爵領なんで、そっちに住んでもらうことになるわ」
「公爵領と言いますと」
「王国の東側にグラハム辺境伯の所があるじゃない。そこから山を越えた先に私の公爵領があるの。普通に行ったら王都からだと8日ぐらいかかるかもしれないわね」
「えっ?グラハム辺境伯領の更にに山の向こうと言うと、アズラート帝国ではありませんか」
「川からこっち側は王国だから。山と川の間が公爵領なの。で、そこで仕事をしてもらうので、住むのはそっちって事ね。それで仕事の内容は工房でのモノづくりね。給金は月に金貨2~3枚ぐらい。まぁ仕事の内容によるけどね。えぇと…そんなところかな」
「何人ぐらいをお考えでしょうか」
「何人でもいいわよ。でも1000人とか2000人は困るかな。50人やそこいらだったら全然平気。フロンティーネに家を建てるところもまだあるし、集合住宅でよければすぐには入れるから。家族で来ても大丈夫よ」
「分かりました。一応50名で募集をかけようと思います。採用の判断は如何いたしましょうか」
「そうね、私が面接するわ」
面接した時にチョットだけ見せてもらっちゃいます。魔法の属性と魔力量をね。
「分かりました。土魔法の方は結構いると思いますし、冒険者向きじゃないとも言われていますので、比較的早く集まると思います。10日後に面接をすると募集の際に書いておきますので、お手数ですがその時にまたいらしていただけないでしょうか」
「分かりました。10日後ですね。よろしくお願いします」
そろそろバイク工房も動かさなきゃいけないからね。どんな人が来るか分からないけど、ちゃんとやってくれる人だったらいいかな。
土魔法を使える人ってそれなりにいるんだ。まぁ便利だからねぇ。って言っても、そういえば戦闘ではあまり使わないな。私が土魔法を使うときって言えば、地ならしと建築と開墾と後は形状変化か。うん、冒険者向きじゃないかも。
あれから10日。ボーっとしてたわけじゃないのよ。こう見えたって私は結構忙しいんだから。はっきり言って冒険者の頃の方が楽だったわよ。王族っていうか貴族になって、大臣になって領主になって。一見成り上がりのようにも見えるけど、そんな楽なもんじゃないって。日々の生活に困ることはないけど、会議だ、視察だ、書類仕事だ、陳情だって、忙しいったらありゃしないんだから。
で、面接なんだけど、何と応募してきた人が120人以上。みんな分っているのかなぁ、王都で仕事するんじゃないんだよ。
とても一人ひとり面接するなんて無理だから、10人ずつのグループですることにしました。
面接したところ、全員がフロンティーネに引っ越しても構わないとのことです。工房の宣伝はそんなにしていないんだけどなぁ。でもあんな辺境に来たいっていうぐらいなんだから、私ももっと頑張んないとね。土魔法が使えない人も何人かはいたけれど、部品の成型以外にも組み立てやら検査やらとやることは山のようにあるので、全員採用です。中には何人か強い力を持った人もいたので、その人たちはこの後立ち上げる予定のクルマ工房の仕事をしてもらおうかと思っています。
そのクルマ工房なんだけど、立ち上げはだいぶ先になりそうね。2年ぐらい先かな。何もしない訳じゃないんだけど、まずはクルマの心臓ともいえる【魔導発動機】を研究しないと。あれの研究に1年以上かかりそうなのよ。クルマに使うためって言うのが一番なんだけど、他にも小さいタイプとか力強いタイプとかいろいろ応用がききそうだからね。この研究こそが公爵領の命運を左右すると言ってもいいと思ってます。これ本音だから。他にも車輪まわりの研究や力を伝えるところの研究、もちろんデザインもね。それぞれが何とか形になるまでに2年ぐらいはかかるんじゃないかなって思ってるの。だからそれまでは基礎研究ね。なかなか形にならないから辛いでしょうけど。
他にも農機具の工房も作らないといけないし。今の領民からも募集かけてみようかな。これは農政局と相談だな。
そんなこんなで一月後、立ち上がったバイク工房から念願の第1号が完成しました。「「「(パチパチパチパチパチ………)」」」
「どんな感じ?」
「試験を何度も行いましたが、安全上の問題は見つかっておりません。運転のしやすさ、乗り心地ともいいと思います。あと、ハンドルの前と椅子の後ろにかごを付けましたので、多少の荷物を運ぶにはいいかと」
「そうね。かごを付けたのは正解ね。あれなら買い物でも使えるわ。とりあえず同じものを10台作ってもらえる。知り合いに使ってもらって様子を見るから。あとデザインの方に伝えといて。子供用、そうねぇ6歳から8歳ぐらい向けのものと、10歳から12歳ぐらいを対象としたものをデザインするように。大人だけのものにしておくのはもったいないわ。バイクは暫くはここの直販でやるから。とにかくみんなはいいものを作るように」
この第1号は工房の記念として大事に取っておきましょう。
バイクの量産が出来たって事は王都で見せてもOKね。
王都での販売店はもちろん『ミル薬局』。薬局でバイクを売るのは変じゃないかって?いいんだよそんなこと。なんたってあの店は
そのほかの街はどうするかって?そん時になったら考えるから、今はパス。
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