レベル上げ

『何をしていいのか分からない』と言うリア(=麗亜れいあ)に対して璃音りおんは、

「めんどくさい奴ね!」

 と罵りながらも、一からゲームのやり方を教えていった。レベルが上がった今では相手にもならない初心者向けのモンスターをリアと一緒に退治して、サポートした。回復についても、自分が持っている回復アイテムを使ってリアを回復させていた。

 翌日の日曜日も、麗亜は、朝からずっとそうして璃音と一緒にネットゲームをする。月曜日からは、仕事が終わって帰ってきてからそうした。

 しかし実は、麗亜も多少はネットゲームもするので、やり方を全く知らないという訳でもなかった。ただこうやって璃音と一緒にいようと思っただけなのだ。

「ふん…!」

 と、リアルの方で麗亜の顔を見てから視線を逸らした璃音も、どうやらそれは察していたようだった。だが敢えて何も言わずに、麗亜のレベル上げに付き合ってやった。

「何だよ~、新入りとばっかり遊んで、私達とはもうパーティ組んでくれないの?」

 セレナがそう言って絡んでくると、璃音は、

「そんな訳ないでしょ。こいつがあんまりにも見てられないから構ってやってるだけよ」

 と応えた。

「そっか~。それならいいけどさ。私達のクエストについてこれるくらいになったら、パーティー組も」

 その言葉に、麗亜は、セレナも璃音のことを気にかけてくれてるんだと感じていた。もちろんセレナ自身は璃音が人形であることを知らないだろう。知らないからこそこうして普通にしてくれるのだと思われる。

 璃音がこうやってネットにはまる理由がよく分かる気がした。やはり彼女にとっては気兼ねなく他人と交流できて遊ぶことができる世界だということなのだろう。

 彼女がどうして生きた人形になったのか、その辺りの事情も気にならないと言ったら嘘になる。けれど、彼女が自分からそれを話してくるようになるまでは、麗亜の方から尋ねるようなことはしないでおこうと彼女は思った。

 尋ねてもいいのかもしれないけれど、璃音が自分から話したくなった時に聞けばいい。

 麗亜はそんな風に考える人間だった。

 ちなみに、璃音はそのゲームでは<リアルでは大学生という設定>で参加していた。なので、平日の昼間は別のゲームをしていた。そちらでは銀行マンの夫を持つ専業主婦という設定らしい。そうすれば平日の昼間からゲームに入り浸っていてもおかしくないということなのだろう。

 そして、それは後日判明するのだが、大学生というのも銀行マンの夫を持つ専業主婦というのも、実は璃音の<元主人達>であったのだった。


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