第14話
「……え? そうですかね? 派手すぎませんかね?」
「……」
バルーズ様ははっとした様子で目を見開き、それから額へと手をやる。
「いや、大丈夫だろう。むしろ、貴族の中で見れば落ち着いているほうだ」
そうは言ってくれるけど、私貴族ではないんだよね。
今後、貴族の方と面会する場合もあるかもしれないので、まあこのくらいが無難なのかもしれない。
「そうですか。とりあえず、薬師として紹介される場合、私はこの服を着ればいいんですよね?」
「ああ、それで頼む」
ニュナがちら、とバルーズ様を見上げた。
「それにしても、バルーズ様が女性をほめるなんて珍しいですね」
「……まあ、そうだな。ルーネの場合は別に気にする必要はないだろう? 他のご令嬢たちだと、その気になる相手もいるからな」
バルーズ様は疲れたようにため息をついた。
ニュナはそうですね、と相槌を打ってこちらを見てきた。
「とりあえず、ルーネ様。今後も街に出かけたいというときは私に声をかけてください。色々とお店を紹介してあげますからね」
「変な店は教えるなよ」
変な店?
バルーズ様はちらとこちらを見てから、小さく笑った。
「改めて、これからよろしくルーネ」
「……はい、精一杯薬師としての務めを果たしたいと思います」
バルーズ様は私の言葉に満足げにうなずき、去っていった。
……明日からは薬師として頑張らないとね!
そういえばまだ私はアトリエに足を運んでいなかった。
ニュナを連れ、私はアトリエへと入っていく。
……内装は薬屋とそんなに変わらないかな。
一階部分には店舗として開放できそうなほどのリビングスペースがあった。
基本的にはそこで食事をするんだと思う。
部屋を改造すれば、食事しながらポーション製作もできそうね。
奥にいくつか部屋があり、簡易的なシャワールームもある。自宅で気軽にシャワーが浴びられるのはいい。
ポーション作りはやっぱり汗をかくことが多いから、すぐに汗を流せる環境は最高かも。
「大浴場を利用したい場合は私に事前に話をしてくだされば、確保しておきますからね」
「え? 大浴場? いいんですか?」
それって本邸のほうにあるんじゃないだろうか? 私は、バルーズ様がいる屋敷のほうへと視線を向ける。
「はい。というか、そちらにも私室は確保してありますので、お休みになられる場合はそちらで――」
「いえ、私はこのアトリエに住みますよ!」
「……え? そ、そうですか? あくまでここはその、ポーション製作のために用意していたんですけど」
「……私眠気覚ましにポーション作りたいんですよね。寝起きの運動的な感じなんです」
私がそう言うと、ニュナは頬をひきつらせていた。
「……なるほど。かしこまりました。それでは夕食が終わるまでに寝泊まりができる準備を整えておきますね」
「ありがとうございます。そういえば、食事は私どこでとればいいんですかね?」
このアトリエで自分で作ればいいのかな? それとも誰かが用意してくれるのだろうか?
「ルーネ様の立場は、バルーズ様に近いものですので本邸での食堂の利用が許可されています。もちろん、そちらでと考えていたのですが……アトリエにて食事をされますか?」
ニュナの提案に強い魅力を感じた私は、こくりと首を縦に振る。
「え? そ、それが出来るのならそのほうがいいですけど……手間じゃないですかね?」
「いえ、特にそういったことはありませんよ。このアトリエは厨房の裏口が近いですからね。料理を運ぶのは簡単ですよ」
「そ、それなら……出来れば一人で食事したいので、お願いしてもいいですか?」
……それに本邸での食事とか絶対緊張しちゃって味も分からないだろうしね。
私の言葉にニュナは嫌な顔一つせず、すっと頷いてくれた。
「かしこまりました。早速夕食になさいますか?」
「はい、お願いします」
「それでは、すぐに用意のほうさせていただきます」
ニュナがすっと頭を下げてアトリエを出ていった。
私はそれから軽く背筋を伸ばしてから、アトリエ外の畑を見に行った。
薬草の成長は早いほうだけど、一日でも早く植えていったほうがいいのは当然のこと。
「種、種……あった! とりあえず、まずは全部の薬草を植えていこっと!」
自分で自由に弄れる畑。……もうそれだけでわくわくが止まらない。
薬草と薬草は土の近い場所で育てることで、少し成分の変わった薬草が生まれることがある。
それらを組み合わせることで、また質の良いポーションが作れたりもするからね。
……自由に畑が弄れるのなら、それらの研究だってできる!
楽しみがまた増えちゃったなぁ! 私は、笑顔とともに薬草の種を植えて畑全体に魔力水の雨を降らした。
……ここから、私の薬師としての日々が始まるんだ。
頑張ろう!
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