第9話


「……だ、大丈夫ですか公爵様!」


 そんな反応をされるとは思っていなかったのだろう。ララはめちゃくちゃ慌てたようすで公爵様へと駆け寄った。


 公爵様はそんなララを片手で制していた。まだ、むせていたが大丈夫だ、と片手を彼女へと向ける。


 ララは絶望的な表情を浮かべていた。

 

 バルーズ公爵様はじっとララが作成したポーションを睨んでいた。

 その表情はとても険しい。

 それはお目当てだったポーションに出会えた、からではなく明らかにまずいポーションを口にしてしまった、そんな表情をしていた。


 それを見たリフェアが勝ち誇ったような表情でララを見ていた。

 ララは対照的に絶望的な表情をしていた。

 そして、リフェアがバルーズ公爵様のもとに、ポーションを差し出した。


「こちらで、お口直しを公爵様」

「……ああ、すまない」


 バルーズ公爵様はそちらを一瞥してから、リフェアのポーションを受けとった。


「おばああ!?」


 バルーズ公爵様はかわいそうになるくらいの声をあげる。

 毒でも飲ませているのではないかというほどの反応だ。


「ば、バルーズ公爵様! 大丈夫ですか!?」


 ララのときとまったく同じ反応でバルーズ公爵様は片手をむけて制していた。

 

「味は、どちらも微妙だったが、ポーションの効果はどちらも……そこそこ良いようだな。それじゃあ、最後は――」


 ちら、と私のポーションを見てきた。

 泥水のように濁っている私のポーションに、公爵様の頬が引きつっていた。

 それは、ララとリフェアもだった。


「こ、公爵様。おそらくそれはこの中でもっとも最悪だと思います」

「ポーションとしての質も最低だと思いますので、お口にされないほうが……」

「……いや、確かめる必要があるんだ」


 そう言って、バルーズ公爵様は私のポーションを掴み、おそるおそるといった様子で一口飲んだ。


「こ、これは――!?」


 次の瞬間、彼は驚いたように目を見開き、それからポーションを一気に飲み干した。

 これまでとはまるで違う反応だった。


「……これを作ったのは、キミ、か?」


 バルーズ公爵様は震えるような声とともに、私のほうを見てきた。


「は、はい」

「……素晴らしい」


 バルーズ公爵様は感動するような声をあげた。

 それから私のほうへとやってきて、スッと頭をさげた。


「キミさえ良ければ、俺の屋敷で薬師として仕事をしてくれないか?」

「「ええ!?」」


 驚いたように声をあげたのは姉さんたちだ。

 私ももちろん驚いていたけど、公爵様の手前露骨にそんな反応をするわけにもいかなかった。


「こ、公爵様? な、何かの間違いですよ!」

「そ、そうですよ! そいつは私たち三姉妹の中で一番の落ちこぼれで……わ、私たちのほうが――!」

「いや……彼女の腕前は本物だ」


 バルーズ様の言葉に、姉たちは絶望したような顔になる。


「いや、このポーションを口にしてみるといい。本当に美味しく……何より、飲んだ瞬間体の奥底から疲れが抜け落ちたような感覚があるんだ。これほど素晴らしいポーションを俺は知らない」


 ……公爵様がベタ褒めしてきた。

 まさか、そこまで一方的に褒められるとは思っていなかった。

 同時、姉さんたちは表情をゆがめた。


 二人は嫉妬のこもった目でこちらを睨んでくる。


「……えーと、公爵様少しお聞きしてもいいですか?」

 

 私がおずおずと問いかける。

 彼はこちらを見て首を傾げてきた。


「なんだ?」

「もしも、公爵様のもとに行けば自由にポーションの作製ができるのですか?」

「ああ、そうだな。もちろん、納品の依頼などはさせてもらうが、基本的には自由に作ってもらってかまわない」

「た、例えばその……薬草を育てる畑なども用意してもらえるのでしょうか?」

「ん? それも必要ならば手配するが……」

「そ、それなら! 薬師として働かせてくれませんか!?」


 私がそう言うと、公爵様はにこりと微笑んだ。


「ああ、よろしく頼む」


 やった! これからはポーションの製作はもちろん、薬草を育てることもできる!

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