第7話


 私たちの薬屋は一階がお店で、二階が私たちの生活スペースになっている。


 その階段から降りてきた二人を見た私は


「ええ……」


 思わず声をあげてしまった。

 ……過剰なほどに着飾っていた。

 それこそ舞踏会にお呼ばれされたの? というくらいの着飾りである。

  

 公爵様の顔を見た二人はぱっと目を輝かせ、すぐに近づく。

 顔を顰めたバルーズ公爵がちらと騎士を見ると、公爵様とララたちの間に騎士が入る。


 ……警戒、しているんだろう。そりゃあそうだよね。

 ララたちは少し不満そうに顔を歪めたけど、それは一瞬。

 すぐに二人はにこりと微笑んだ。服の裾を掴むようにして、優雅に一礼をしてみせた。


「バルーズ公爵様お久しぶりでございます」

「本日はポーションの件でお話があるということですよね?」


 二人はいつもからは考えられないほどに丁寧な態度でバルーズ公爵に接していた。

 二人は面会したことがあるのかもしれない。

 ポーションの発注依頼とかは二人が話をするから、もしかしたらそれでどこかで会ったことがあるのかも?


 二人の様子に、バルーズ様は困った様子で笑っていた。


「あ、ああ。この前とても出来の良いポーションがあってな。実際に誰が作ったのかと確かめたいと思ってきたんだ。これから三人に作ってみてほしいんだが……大丈夫か?」


 ……これからポーションが作れる! バルーズ様が来た時は……なんだか面倒なことになってきたと思っちゃったけど、ポーションが作れるなら話は別!


 私が喜んでいると、ララとリフェアの表情はまっさきにこちらを見てきた。

 嘲笑交じりの笑みだった。


「それはかしこまりました。ですが、こちらにいるルーネは未熟者です。数を作るのは得意ですがどうしても質が悪いので……」

「恐らくですがルーネが参加する必要はないと思います。それに、公爵様のお口に合わない可能性がありますが――」


 な、なんてことを言うんだ! 私はポーション作りたいのに!

 別に自分が公爵様に選ばれるとかは思っていないし、むしろあまり選ばれたいとも思っていない。

 ここで自由にポーション作っていたいしね。貴族専属の薬師って聞くと、なんだか大変そうだしね。

 公爵様はララたちの提案に……


「三人で作ったのだろう? 構わない。一度全員のポーションを味見して確かめてみたい」


 な、なんていい人なんだろうか。うんうん、私もポーション作りがしたい。

 期待するように私が姉たちを見ると、ララとリフェアは嘆息交じりにうなずいた。


「ですが、ルーネのポーションはあまり出来がよくなく……」

「万が一、バルーズ様に何かあってもその……私たちの評価に影響がないのであれば」


 そ、そこまで言うの?

 もしかして、私のポーションはあまり人の口に合わないのかな?

 私個人としてはとてもおいしいんだけど……私の味覚がそもそもおかしいっていう可能性もあるよね。


 でもさすがに人が飲めないポーションを作ったことがないので心外だった。


「それでも良い。全員のを一度飲んで確かめてみたい。もしかしたら三人全員を雇うということもあるからな。今作れる最高のポーションを用意してほしい」


 そうバルーズ様が言うと、二人も納得したようだ。


「それでは、これより作成してきますので少しお待ちください」


 ララがそういって一礼を残した。

 私も同じように頭を下げてから、奥の部屋へと向かった。


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