妖怪『紅白』

朧塚

現代版 安達ケ原。妖怪『紅白』 上

貴方は『紅白』を知っているだろうか?

年末に行われる歌番組でもないし、小学生が体育の授業の時にかぶる紅白帽の事でも無い。

もしかすると、名前の由来は歌番組や帽子なのかもしれないが、私の知っている『紅白』はそういうものではない。


最近、私が友人から聞かされた『妖怪』の事だ。


美しい顔をした女で、赤い着物を纏い、真っ白な肌をしていると聞く。

その外見を見て『紅白』と呼ばれるようになった。


紅白はトンネルや廃墟、あるいは繁華街付近の路地裏などにも現れると言われている。ただ、一番は住宅街の人気の無い場所に出没する、という目撃談が多かった。


紅白は若い女ばかりを狙って殺す殺人鬼だ。

出会ったら、手にした長い包丁で刺し殺されるのだと言われている。

理由は分からないが、美少女程、狙われやすいらしい。


幽霊というには実体があり過ぎて、人間というには余りにも超常現象的な存在だった。


つまり、最近、流行り出した都市伝説という奴だ。


私が紅白に関して知ったのは、ミナコの話を聞かされてからだ。


「ユカリ。ユカリってさ、ほら、怪談とかオカルトとか好きじゃん、だから、興味あるかな、って思ってさ。チェーン・メールで回ってくるんだよねー。『紅白』に関して、なんでも、色々な学校の子達が、紅白を見たって噂しているんだよ」

そうミナコは言う。


「私はただの読書家だよ。確かに図書館にこもっている事が多いけどさ」

でも、確かに私はオカルトとかそういったものも好きだった。

所謂、根暗な少女という奴だ。


ミナコはギャルグループの子だが、友達の少ない私に色々とよくしてくれた。

ぼっち系の私に何かと構ってくれた。

彼女はイタズラっぽく、私に囁き掛ける。


「別の県に住んでいる、私の友達が、紅白に出会ったって言っていたんだよね。その友達の友達は紅白に眼を付けられて“印”のようなものを付けられたんだってさ」


友達の友達の友達か…………。


私は心の中で少し呆れて、チェーン・メールって、そういうものだよなあ、と思った。


「ねえ、ユカリ。紅白に会いに行かない?」

ミナコはイタズラっぽく笑うのだった。


場所は学校近くの公園の辺りによく出ると言われている。

そこは、赤いレンガで作られた橋があり、下には川の水が流れている。

橋の先には、少し大きめの公園がある。

公園に行く途中の、その赤い橋の辺りで最近、目撃したというメールが回っていたらしい。


「ねえ、ユカリ。目撃情報が多い、公園の途中の赤い橋にさ、今日、一緒に行こう?」

私はミナコと一緒に、都市伝説の魔物『紅白』を探しに行く事になった。





妖怪『紅白』が出没する時間帯は、夜の八時から深夜二時の丑三つ時までの時間帯と言われている。


私はミナコに誘われて、朱色の橋の辺りに向かった。

そこは、夕方頃になると、町の景色が一望でき、朱色の夕焼けに覆われた街並みが見える場所だったからだ。


私とミナコが公園の近くまで来た頃には、夜の八時を回っていた。

十月も半ば頃まで過ぎている為に、もう完全に日が暮れている。


私達は公園に入る為の橋を歩いた。

なんてことはない、ただの橋だ。

公園の中をしばらく散策する。

滑り台を滑ったり、ブランコに乗ったりして、私とミナコは公園の中で三十分くらいは遊んでいたと思う。


「何も出ないよ。もう帰ろう」

私は少し億劫になって、ミナコに訊ねた。


きっと、ミナコは私と二人で遊ぶ口実が欲しかったのだろう。

そう、解釈する事にした。


「そうだね。もう帰ろうか、ユカリ」

ミナコは屈託の無い笑みを浮かべていた。


二人で、元来た道を戻る。


朱色の橋を渡ろうとする。


すると…………。


空気がとても淀んでいた。

とても全身が重い…………。まるで、金縛りにでも合ったかのようだった。

周りには高層マンションの光で輝いているが、何処か別の世界に放り込まれたような感覚に陥った。


先ほどまではいなかった、一人の人物が橋の上に立っている。


赤い着物を着た女だった。

真っ黒な髪を腰の辺りまで伸ばしている。

顔は透き通るように真っ白で、手には大きめの巾着袋を手にしていた。


私は声が出なかった。


女は私達を見つめていた。


「あんた達、美味しそうだね」

赤い着物の女はそう告げた。


静かだが、確かにその眼は肉食獣のような印象を与えた。

私達二人は声を出せなかった。


赤い着物の女は近付いてくる。

そして、まじまじと、私とミナコを値踏みしていた。


「黒髪のあんたは、熟していない。茶色い髪のあんた。あたしはあんたを気に入った」

そう言うと、赤い着物の女はミナコに手を伸ばす。

ミナコは悲鳴を上げていた。

ミナコの首筋の辺りから血が流れていた。


「茶色い髪のあんた、後で迎えに行く」

そう言うと、着物の女はミナコを見据えると闇の中に消えていった。


はっと、私とミナコは公園の中にいる事に気付いた。

確か、橋を渡っていた筈なのだが…………。


ミナコは胸元を抑えていた。


「胸の上の辺りが痛い…………」

ミナコは制服の第二ボタンまで開ける。

すると、ミナコの胸の上の辺りに傷が付けられていて、未だに血が流れていた。

その傷は、まるで赤い鳥居のような形をしていた。


その日の夜は、私とミナコは一晩中、電話で話していた。


私達は妖怪『紅白』と出会う事が出来た。まさか、本当に遭遇する事になるとは思わなかった。


直感的に分かったのだが、ミナコは“マーキング”されたのだ。

紅白は迎えに行くと言っていた…………、それはつまり…………。


<私、このまま、殺されるのかな…………?>

ミナコは涙声で話していた。

紅白は印を付けた人間を喰らうと聞かされている。


私は取り合えず、お寺や神社に行った方がいいんじゃないかと提案する。


しかし、紅白はそもそも幽霊なのだろうか?

お坊さんや神主さん、あるいは霊能力者の方は祓ってくれるのだろうか?


とにかく、私達は一緒にネットで探した神社へとお祓いをして貰う事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る