第282話 その頃、この世界では1

Side:キルト王国勢


「サラーナ様、おめでとうございます」


「うん。やっとわらわは懐妊できた。

これでキルトの王家も安泰ね」


「ですが、男の子とは限らないのでは?」


「プチちゃんが、ここ掘れわんわんしたから間違いないんだって」


「それはおめでとうございます」


「わらわに子が出来たから、未婚の女たちにも主様あるじさまの種をあげるね。

いま、キルトは人口と男が少ないから、強い種で産めや増やせやだからね」


 どうやらクランドの夜は大変なことになりそうだった。



Side:ルナトーク王国勢


「アイリーン様、おめでとうございます」


「ついにわたくしは懐妊しましたわ。

これでルナトーク王家も安泰です」


「ですが、男の子とは限らないのでは?」


「プチ様が、ここ掘れわんわんしたので間違ありませんわ」


「それはおめでとうございます」


「最近、やたらと海を越えて難民がやって来ますが、クランド様によると質が悪い連中のようですわ。

我が国は東の海岸線が長いので困りものですわ」


「いかがいたしましょうか」


「追い返すのも大変なのですよね……。

密入国は違法ですので、犯罪奴隷落ちにいたしましょう」


「でも難民なのでは?」


「難民ならば、貴重な交易船を使えるわけがないのです。

何やら、民主主義と称す宗教の伝道師らしいですわ。

それは王家を蔑ろにし、打倒するための宗教のようです」


「なんと危険な。

それだけでも不敬罪にあたります。

今後は容赦なく犯罪奴隷落ちとしましょう」


「でも、魔法が一切使えないらしいのですわ」


「それは……。いったいどうやって生活するつもりなのでしょうか?」


 この世界、民主主義は早すぎで危険思想だった。

安定している世界を壊す、一種の宗教と見做されていた。

当然、この世界の教会とも対立している。


 そして、この西大陸では生活基盤を支える魔道具の数々が行き渡っており、その起動には微量の魔力が必要だった。

それが起動できなければ、何も出来ないのが現実だった。



Side:ザール王国勢


「義姉さまたちに先を越されてしまいましたわ」


「クラリス様、おちついてください。

それは、今後クランド様のご寵愛を一身に受けるということではないのですか?」


「最近、シンシア姉さまも、シャーロ義姉さまも参戦して来ているのです」


「それは……」


 2人ともエルフなのでとんでもない美女なのだ。

クラリスも美人だが、エルフは格が違う感じなのだ。

クラリスが不安になるのも理解できる。


「わたくし、クランド様が研究なさっている第13ドックに行ってきますわ」


 彼女たちクランドの嫁たちには、ある魔導具が渡されている。

それは陸上艦の転移魔法陣の起動魔導具だった。

これにより、任意の場所にある転移魔法陣に対して転移することが出来るのだ。

その転移エネルギーは陸上艦の魔導機関から得られるため、実質転移し放題なのだ。


「お待ちください、転移はお腹のお子に悪いと禁止されております。

もし、ご懐妊しても転移してしまってはお子が流れてしまうかもしれません。

ご公務もありますので、それだけはお止めください」


「ぐぬぬ」


 クラリスはクランドのズイオウ領帰還を待つしかなかった。


「それより、議会から連絡がございました」


 ザールは連合国のため、複数の国の合議により成立していた。

ザール王国はその首長国だが、この戦乱により、今はザール王国とガルフ国の2強体制となっている。


「何でしょうか?」


「小国連合がまた食料援助を要求して来ております」


「またですか。

いくらズイオウ領の食料生産力が高いとはいえ、これではただ援助しているだけではないですか。

援助が当たり前なんて思われても迷惑です。

国の経済を立て直せないなら、ザール連合から出て行ってもらいます」


「承知しました。最後通牒でよろしいですね」


「かまいません。キルナール王国のお荷物になるなら離脱してもらいます」


 キルト、ルナトーク、ザールの民は、全てを賄ってもらえるズイオウ領から出て行った。

それは恩を忘れたからではなく、自立し自ら国を復興させることを選んだからだった。

そんな信念で頑張っているのに、ザール連合に加わった小国は援助ばかりを要求する程度の低い国が多かった。

もはや、戦後の厳しい状況を援助してもらう段階はとっくに過ぎていた。

次は自らの力で復興するしかないのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき


 リクエストがあったので他の世界状況の説明を入れてみました。

妊娠でお茶を濁している国の復興は順調ということです。

長くなってしまったので続きます。

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