第234話 不明艦調査

 例の沈んだ不明艦――戦艦シュレーデンの欺瞞装置を調べるため、タカオはバイゼン共和国の艦隊と共に沈没地点へと向かった。

タカオと共に出撃したのは、戦艦グラスター、戦艦ベルグラム、戦艦デルスターの3艦だった。

グラスターとデルスターは同型艦であり、ベルグラムはその2艦よりも少し設計が古いようだ。

少ないようだが、これでも互いに守り合えるようにと考慮した数だ。

そもそも戦艦は、バイゼン共和国本国を守らなければならず、通商破壊に現れるトラファルガー帝国の戦艦対策は単艦で行うのが常だった。


 この3艦がゲートの向こうで拾ったものだというのも驚きだが、中世ヨーロッパぐらいの文明レベルの人間が、それを自力で運用できるというのも驚きだった。

ガイアベザル帝国は、陸上艦の電脳を欺瞞する魔導具を使うことで、陸上艦を運用していたが、それは陸上艦が電脳により自動運行できるから実現したのだ。

何の技術も持たない者たちが未知の機関に火を入れてその動力を推進装置に伝えたり、大砲を扱って敵を撃ったりしているのだ。

普通なら出来るわけがない。

そこにある物が何かもわからないだろうからだ。


 それが実現したのには理由があった。

なんと操作マニュアルが有ったのだという。

いくらマニュアルがあっても、読めない言語で書かれていたのならばお手上げだ。

しかし、そのマニュアルは言い回しこそ微妙に違うが、れっきとした大陸標準語だったのだ。

宝を見つけ、その操作方法をマニュアルで知り、燃料を積み込み動かすまでには、それなりの時間が必要だったそうだ。

だがそれは、ゲートから海まで運河を通す時間と比べたら問題と成り得ない時間だった。

やがてその戦艦で訓練を受けた人材が育ち、そして新たな戦艦を引き出す。

そうやって増えた戦艦がバイゼン共和国の艦隊なのだ。


 つまり、壊れたら修理も出来ないというのは、ガイアベザル帝国と同様だということだ。

その大事な戦艦を3艦も投入するというのは、どれだけシュレーデンの欺瞞装置が脅威かということだろう。

対策が取れなければ、一方的に攻撃を受けることになるのだ。


 だが、それならばトラファルガー帝国にとっても戦艦は貴重なはずだ。

潜水艦2戦艦1を失って、まだタカオにちょっかいを出すだろうか?

タカオは危険と思って見て見ぬふりをするのか、欺瞞装置の秘密は死守するべきと攻撃してくるのか、トラファルガー帝国の人となりがわからないので、判断のしようがなかった。


『ガガガ……目標海域に到着した。

各艦は陣形を維持、接近する戦艦を警戒せよ』


 今回、潜水艦対策はタカオに任された。

魔導レーダーのアクティブモードを使用すれば海中の潜水艦も誘導魚雷も探知可能なのだ。

戦艦が水中聴音機で潜水艦の音を拾うより、どれだけ確実かということだった。

それでもバイゼン共和国では、潜水艦の脅威をそれで防いでいた。


 余談だが、俺は駆逐艦が無いことが不思議に思って訊ねてみたのだが、バイゼン共和国ではその存在を知らなかったらしい。

ゲートの向こうから持ち出すならば、大型艦こそが重要だと思っていて、小型艦には見向きもしていなかったそうだ。

それが対潜水艦用の装備を持っているなど知る由もなかったのだ。

俺の提言により、バイゼン共和国はさっそく駆逐艦のマニュアルを手に入れ動かす準備に入ったそうだ。


 話が逸れたが、バイゼン共和国艦隊はその位置関係により、欺瞞装置で隠れた敵戦艦を肉眼で捜索する任務に就いてもらった。

その行動を伝えてもらうのに、俺は無線が存在していないかと問い合わせた。

前弩級戦艦のころだと、無線というよりモールス信号の時代かと思ったが、幸いなことに旧式だが無線装置を持っていた。

戦艦の設計は古いが、その後それなりの近代化改装の入った艦だったらしい。

その無線装置はバイゼン共和国でも使用されており、タカオでも少しの改造で魔導通信機で受信することが可能だった。

尤も、それはトラファルガー帝国の戦艦からも傍受可能なので、最低限の通信内容しか伝えることはない。

まだまだ暗号装置など無い時代のものであり、この当時ならば暗号変換した数字と記号をやり取りして手動で元に変換しなおすなどということをしていたのかもしれない。


 そのため、こちらからは電波通信が出来ないので、発光信号でやりとりをする。

こちらは光魔法で点滅させるが、向こうは炭素棒電極間のアーク放電で点滅させる。

符号は帆船の時代から使用しているそうで、違う大陸でも共通していた。


『我、海中の捜索に入る』


 タカオは左舷の重力加速砲から斥力場フィールドを展開して海中を探査していった。

不明艦――戦艦シュレーデンが沈んだ座標は把握している。

簡単な作業となるはずだった。


「戦艦シュレーデン発見しました!」


 海中に横たわる戦艦の巨体が見えた。

それは艦首から沈み、海底に突き立った後に横倒しになったようだった。

つまり、欺瞞装置があったであろう艦首部分が大きく破損していたのだ。

それは魔導砲や重力加速砲が当たった場所でもあった。


「ああ、これはダメだな」


ドーン ドーン


 急に戦艦の主砲発射音が聞こえた。

バイゼン共和国の戦艦が発砲したのだ。


「何があった!」


「発光信号ありません」


「パッシブレーダー、アクティブレーダー反応なし」


 次々に報告が上がる。

どうやら敵がいるとしたら欺瞞装置で隠れているようだ。

それが戦艦3艦の位置取りによる角度差で見えてしまったのだろう。

そこへバイゼン共和国の戦艦が主砲を撃ち込んだのだ。

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