第209話 ルンベリア王国解放

 ドナクルム王国の王都を落としたのは良いのだが、この国の主力は未だ他国を侵略中だった。

この世界、通信手段が発達しておらず、その主力は未だに王都が落ちたことすら知らないのだ。

そのうち補給が届かないなど不都合が出始めてから、そのことに気付くことになるのかもしれない。


「王都から伝令を出させて、現王に城が落ちたことを伝えてあげた方が良いのではないか?」


「無理ですね。その伝令文書を制作する権限のある人物が死にましたから」


 王城での抵抗により、後方支援をしていた中心人物である大臣が死んだらしい。

そいつのサインが無ければ、いくら公文書の書式に則っていても偽文書として一蹴されることだろう。


「敗戦を目の当たりにした騎兵を何人かみつくろって逃がせば伝わらないかな?」


「それもどこまで信用されるかという点では同じですね」


 どうせならば、現王が降伏してくれると楽で良いのだが……。

それは贅沢でしかなかった。


「ならばこのまま進撃する。次の目標はルンべリア王国王都だ」


 ここはドナクルム王国の属国となった国だ。

元々はザール連合を二番目に裏切った国らしい。

ここはクーデターではなく日和見で裏切った国なので、脅せば直ぐに寝返るだろう。

あくまでも目標はドナクルム王国主力の侵略部隊であり、ルンベリア王国は通過点にすぎない。

距離的に近い方から対処していくかたちだが、最終目的は侵略を受けている小国のバスティア国を救うことだった。


 ◇


『降伏します!』


 ルンベリア王国王都にエリュシオンで乗り付けると、ルンベリア王国はあっさり降伏した。

陸上艦という力の象徴には戦う気も湧かなかったようだ。


『我が国は陸上戦艦で脅されて屈しただけだ。

陸上戦艦を複数運用する貴国に逆らう術など無いのだ』


「うん? 陸上戦艦に脅された?」


 どうやらドナクルム王国はガイアベザル帝国の陸上戦艦を運用しているらしい。

たしかに、我が国以外ならば、その艦の力で侵略が容易いだろう。

棚ボタで力を手にして箍が外れたということだろうか?


「しかし、困ったな。降伏してくれたのは良いが、この国を監視するだけの兵力が無いぞ」


 砂漠を横断中の第5戦隊が到着すれば、いくらでも脅しになるのだが、未だ到着には至っていない。


「かと言って、このまま放置しても別に問題がないか……」


 ドナクルム王国に併合されたこの国程度の戦力ならば、いくらでも再占領が可能だろう。

仮に盟主としていたドナクルム王国が勝たない限り、この国が裏切ることは無いだろう。

むしろザール連合から抜けた時のように、その保身に走る傾向から、力ある我が国を裏切らない可能性が高い。

まあ、我が国の力が無くなった時は、俺も無事ではないので、後の事はどうでもよいしな。


「ルンベリア王には、ドナクルム王国に帯同しているルンベリア王国軍の撤退を命じさせろ。

出来なけばドナクルム王国の軍と共に叩くと言ってやれ」


 乱暴だが、それが一番効くだろう。

今度は王が命令書を出すだろうから、使者の言動も信じてもらえるだろう。


「よし、ここで情報伝達の時間だけ待つ。

ルンベリア王国軍が撤退して、ドナクルム王国主力がどう動くかを見極める」


「しかし、それではバスティア国の被害が拡大しかねません」


 確かにそれでは本末転倒だった。

だが、この世界、情報伝達速度が遅すぎるのだ。

ルンベリア王の命令書が届く前に我が艦が現場に到着してしまうのだ。

うん? 我が艦が先に着く……。


「ならば、ルンベリア王国の使者を我が艦で前線まで連れて行ってやろう」


 さてどうなるだろうか。


 ◇


 陸上艦が現れたことで騒然となったドナクルム王国ルンベリア王国連合軍だったが、顔馴染みの使者から王の命令書を受け取ったルンベリア王国軍は、速やかに撤退を始めた。


『おい、何をやってやがる! 俺の命令に従え!』


 ドナクルム王国の主力から怒声が拡声魔法で響く。

どうやら、あれが現ドナクルム王らしい。

ドナクルム王国が陸上戦艦を持っているという情報だったが、それは陸上輸送艦に火薬砲を設置した仮想駆逐艦とでもいうべき艦だった。

どうやら現ドナクルム王はそれに乗っているようだ。

その現ドナクルム王の命令を無視して撤退するルンベリア王国軍に対し、ドナクルム王国軍から牽制の魔法が飛ぶ。


『待てよこら!』


 どう見てもその様子は王という感じではなかった。

まるで野盗のかしらだ。

俺は、見かねて撤退を支援することにした。

というか、俺は奴と戦うためにここに来たのだ。


「魔導砲光魔法光収束熱戦、威嚇射撃。発射!」


 敵陸上輸送艦の艦橋脇を魔導砲の光条が通過する。


『どわー!』


 野党のかしらが慌てて叫ぶ。


『どこを見ている。こっちだ』


 俺はやつを挑発した。

これで奴はこちらと戦うか降伏するかしかない。


『バカやろう! この艦が沈んだら奴隷も道連れだからな』


「なに!」


 どうやらやつは、占領した街からバスティア国の民を奴隷として攫っているらしい。

これで敵艦を撃沈するわけにはいかなくなってしまった。

バカっぽいやつだが、汚い手口には長けているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る