第151話 イスダルにて

 イスダル要塞へと転移して来た俺は、第一戦隊の各艦をインベントリから取り出すと、要塞前に並べて行った。


「各艦ごとに纏まってくれ。

転移で艦種転移魔法陣まで送る」


 俺がそう言うと、第一戦隊の各艦ごとに分かれた5つの集団が形成された。

俺は端から順番に転移を使い各艦に乗り組員を届けて行った。

これにより第一戦隊は戦場に復帰することになる。


 最後にエリュシオンの乗組員を連れてエルシークに転移すると、全員で持ち場へと散った。

俺は艦橋を上がると艦の電脳にセルフチェックを命じた。


『セルフチェック起動。

制御システム異常なし。

魔導機関異常なし。

魔力ストレージ異常なし。

重力制御機関1番異常なし。

重力制御機関2番異常なし。

重力傾斜装置異常なし。

第一魔導砲塔異常なし。

第二魔導砲塔異常なし。

武器制御システム異常なし。

魔導通信機異常なし。

魔導レーダー異常なし。

魔導障壁展開装置異常なし。

セルフチェック終了。

オールクリアです』


 エルシークとエリュシオンは艦体の大きさと司令部施設以外は基本的に似た艦だと言えた。

魔導砲の性能と数は同等。

ただし魔導障壁展開装置により発生する防御魔法陣の性能がエルシークはエリュシオンよりも劣っていた。

そして、艦体の装甲そのものも厚みが薄く、対魔導砲性能が弱みだった。


「よし、魔導パッシブレーダー起動」


 俺は反転攻勢に出ているかもしれない敵占領軍主力艦隊の生き残りの様子を伺うべく魔導パッシブレーダーを起動した。

時間的に言えば、ここイスダル要塞に接近していてもおかしくないのだ。

だが、そのレーダー画面を見た俺は拍子抜けしてしまった。


「半径100km内に敵の反応なしか……」


 探知範囲をさらに広げると、どうやら敵占領軍主力艦隊の生き残りは旧ルナトーク領まで撤退したようだった。

あるいは魔導機関を止めて潜伏しているかだが、魔導機関が止まっている状態で発見されれば、再起動中に何の反撃も出来ずに撃破されてしまうため、そのようなことをするはずもなかった。


「旧ルナトーク領から、北の帝国本国まで援軍を要請するとして、2週間は時が稼げるだろう。

となると修理中のエリュシオンも仕上がって来るな。

修理改装中の他の艦も何艦か使えるようになりそうだ」


「それまでに撃墜した敵艦を鹵獲いたしましょう」


「そうだな。生きている部品が多ければ、流用すれば修理が捗るな」


 ティアの提案に乗って俺はペリアルテ商国に落ちている敵艦を鹵獲しに向かうことにした。

撃墜した陸上戦艦の所有権は撃墜した我が国にある。

どう処理するかはこちらに選択権がある。

むしろ復興の邪魔となるため、さっさと片付けた方が市民のためになるだろう。


『ウェイデン伯爵、敵艦隊は旧ルナトーク領に撤退したようだ』


 俺は魔導通信をルナワルドのウェイデン伯爵に繋げた。


『はい。こちらでも確認いたしました』


 さすがウェイデン伯爵。

このまま第一戦隊の司令にしても良いぐらい仕事が出来る。

だが、今回に限っては彼の祖国奪還が目的なので、俺が手綱を握る必要があった。

暴走されても困るのだ。


『北の帝国から援軍が来るまで時間がかかるだろうから、その前にこちらも出来るだけ艦を修理して戦力としたい』


 敵艦が防御魔法陣を強化していることで、魔導砲単発では撃破することが不可能となっていた。

数で押して早急に撃破しなければ、また自爆攻撃をされかねない。

それを防ぐためにはこちらの艦隊の数を増やし、手数を増やすしか対抗手段がないのだ。


『乗組員は輸送艦で訓練中の者たちで賄いますが、それでも数に限りがあります』


 今後、鹵獲した陸上戦艦を修理運用するうえで問題となるのが乗組員不足だった。

そのためキルナール王国では、陸上輸送艦に乗務させることで新たな乗組員を養成していた。


『艦数に対して乗組員が足りないか……。

いや、いざとなれば自動航行で使うことも出来る。

なので、ここで焦って攻勢に出るのではなく、しばらくは戦力増強の時間としたい』


『承知いたしました』


 ウェイデン伯爵は逸る気持ちを抑えて承知してくれた。

一日でも早く祖国を奪還したいだろうに気持ちを抑えてくれているのだ。


『俺は今から撃墜した敵艦を拾いに行ってくる。

後は任せる』


 俺はウェイデン伯爵に信頼していることを示し残った艦隊を任せた。


『了解です』


 敵は撤退しているので、危険はないと判断した伯爵も俺の単独行動を快く認めてくれた。

こうして俺はエルシークごと転移して撃墜した敵艦を拾いに行くのだった。

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