第137話 戦力増強

 隔壁の奥から現れたのは、執事型の特殊ゴーレムだった。

そしてイオリ他の面々を見つめると、深々と頭を下げ会釈をした。


「管理者権限をお持ちとお見受けしますが、ここは既に上位の管理者の管理下でございます。

どうぞお引き取りを」


 執事ゴーレムは、人かと疑うほどの優美な仕草で再度会釈をした。

その動作を見ただけでイオリは、この遺跡が特別なものなのだと気付いた。


「我ら勇者の血に従わぬと言うのか?」


 イオリは自らの管理者権限による強制力を発揮して執事ゴーレムに命じた。

しかし、執事ゴーレムはイオリに従う様子が微塵も無かった。

この遺跡、第7ドックは第13ドックと連絡をとり、クランドの管理下に入っていたからだ。

クランドの管理者権限は、この世界で越える者のいないほどの上位であり、イオリ如きの管理者権限では上書きは不可能だった。


「ここは既にクランド様の管理下でございます。

クランド様と敵対する勇者の血筋の方がおられることも存じ上げております。

主以外の命令は承りかねます。お引き取りを」


 そう言うと執事ゴーレムは隔壁の向こうへと下がる。

だが、その行動を最後まで終えることは出来なかった。


バン!


 イオリが撃ったのは火薬銃だった。

所謂単筒と呼ばれる単発式の先込め式のピストルだ。

海賊映画で船長クラスが腰のベルトに挿しているあれだ。

そんな旧式兵器でも、執事タイプの軟な外装のゴーレムであれば破壊が可能だった。


どさり


 執事ゴーレムが機能を停止して倒れた。

ゴーレムの構造を見知っていたイオリは、ゴーレムを破壊出来る弱点を熟知していた。


「今のうちに略奪するぞ!

武装ゴーレムに注意しろ」


 この時、クランドの管理下に入ったとはいえ、第7ドックは明確な命令をまだ受けていなかった。

それが徒となり、人に対する攻撃を武装ゴーレムは行うことが出来なかった。

これはゴーレムに対する基本命令が利いていたからだった。

命令が無い限り、自らが機能を停止する危機に無い場合以外は人を傷つけてはならない。

この命令のせいで、武装ゴーレムはせいぜい追い出そうとするだけで、自慢の固定武装を使用することはなかった。

管理者権限を持つ者を無下に扱うことが出来ないからだ。

それでも敵と判断し、排除命令を出せる場合が一つだけあった。

それはこの施設の機能が奪われると思われるときであり、その判断をし命令を下せる唯一の存在が執事ゴーレムだった。

その執事ゴーレムが破壊されてしまったことが、更に混乱に拍車をかけることになっていた。


 だが、執事ゴーレムが破壊されたことで、この遺跡の主たる施設の数々は使用不能となっていた。

ガイアベザル帝国が目指していた陸上戦艦の修理や魔導砲の修理も、執事ゴーレムなしでは機能することはないのだ。

この施設の真価であるあらゆる施設の機能は執事ゴーレムの破壊により失われたのだった。

そこには陸上戦艦の新造施設まであったのだが、既に後の祭りだった。



「団長! 大型艦を発見しました!」


「よくやった。どこだ!」


「こちらです」


 イオリが連れて来られたのは、隔壁の向こう側にある陸上戦艦のドックだった。

そこに鎮座していたのは、上甲板がフラットな航空甲板となっているキルトタルと同型の空母だった。


「これは! 中には入れるのか?」


「こちらです」


 舷側には桟橋までタラップが出ており、自由に乗艦することができた。

イオリはかつて知ったる陸上戦艦の構造を元に艦橋へと上がって行った。

そしてそこにあるシステムコンソールの前まで行くと膝をつき調べはじめた。


「おい、マジコンは持って来ただろうな?」


「はい。こちらです」


 イオリの従者が背負っていた荷物を降ろす。

それはマジックコントローラー――通称マジコン――と呼ばれる、本体からケーブルの伸びた四角い箱だった。

イオリはナイフを取り出すと慣れた手つきでシステムコンソールの外板をめくった。

中を手探りで探ってコネクタのようなものを引っ張り出す。

そこにマジコンのケーブルをつなげると、マジコン側のスイッチを入れた。


 するとシステムコンソールに光が灯り、陸上戦艦の魔導機関が始動した振動を感じた。

本来ならば管理者権限のない者には動かすことが出来ない仕様なのだが、ガイアベザル帝国にはハード的に割り込みをかけて強制的に動かす機械が存在しているのだった。


「よし、いけるぞ」


 こうして第7ドッグにあった陸上空母はガイアベザル帝国のものとなった。

他にも3艦の駆逐艦を手に入れたイオリは陸上空母に座乗して意気揚々と遺跡を離れるのだった。

全艦魔導砲が生きている艦であり、ガイアベザル帝国の戦力は飛躍的に向上することになった。

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