第123話 艦隊戦6

 俺は今、エルシークの艦橋に立ち敵ガイアベザル艦隊のリーンワース王国王都への接近を待ち伏せている。

僚艦のルナワルド、ザーラシア、ラーケン、レオパルドも一緒だ。

位置はズイオウ山を迂回しリーンワース王国王都に至る敵艦隊のコースから、陸上戦艦の魔導砲の最大射程距離である20km離れた場所だ。

その場所はズイオウ山山頂の長距離魔導砲の有効射程内だ。

ズイオウ山の山頂レーダー基地にはティアンナを配置してレーダー情報の送信と長距離魔導砲による迎撃の任務にあたってもらっている。


 1時間前、俺は各艦の艦長をエルシークに呼んで作戦説明をした。


「みんなわざわ徒歩で集まってくれてありがとう。

今後は移動手段をどうにかしないとならないと痛感したよ。

連絡用にワイバーンを常時艦に乗せるしかないかと思っているところだ。

では、これからの作戦の説明をする」


 俺の言葉にザーラシア艦長のミーナ、ルナワルド艦長ウェイデン伯爵、ラーケン艦長アルタン、レオパルド艦長ムンフが頷く。


「みんなにこうやって直接来てもらったのは、どうやら北の帝国には魔導通信の通信波を傍受し、その位置を把握する能力があると思われるからだ」


 そうなのだ。今回やって来た大艦隊はなぜかズイオウ領を目指して来た。

ズイオウ領が狙われる理由を考えたときに、第13ドックと魔導通信でやりとりをしたからとしか思えなかったのだ。

北の帝国は第13ドックのビーコンにも反応して遥々ガルムドを南下させて調査しにやって来た。

北の帝国の陸上戦艦が魔導通信を使うところは観測されていない。

しかし、魔導通信機が生きているなら、三角測量で発信源の位置を把握するぐらいのことはやってのけるはずなのだ。


「今回の作戦は敵にこちらの位置を知られたくない。

なので魔導通信封鎖という措置をとらせてもらった」


「了解したました。

では、各艦との通信やりとりはどのようにしますか?」


 ウェイデン伯爵がみんなを代表して問う。

そうなのだ。魔導通信を使わずに情報をやりとりする方法、それを決めなければならない。


「山頂レーダー基地にはティアンナに詰めてもらっている。

その山頂レーダー基地では敵艦隊の位置がパッシブレーダーによって今も把握されている。

こちらが襲撃位置につき、敵艦隊が丁度良いところを通過するタイミングで魔導通信を送ってもらう」


 つまり作戦スケジュールを山頂レーダー基地に丸投げして管理してもらうのだ。

タイミングを全て山頂レーダー基地がとることになれば、俺たちはその指示に従って作戦を遂行するだけで良いのだ。


「そのタイミングでエルシーク、ルナワルド、ザーラシア、ラーケン、レオパルドの5艦は高度を30mまで上げろ。

高度がそれだけ上がれば、こちらの魔導砲の最大射程距離が22kmまで上がる。

つまり敵艦隊が射程距離に入っているということだ。

各艦は山頂レーダー基地の指示に従い、目標を魔導砲で撃つ。

それぞれ射撃に最適な艦を指示するから目標が重なるということはない。

我々は1発だけ撃ったら高度を下げズイオウ山に向かって後退、敵が誘われて接近あるいは高度を上げたら、山頂レーダー基地から長距離魔導砲が狙撃する。

以上が今回の作戦だ。何か質問は?」


 俺の問いに質問を返す者はいなかった。

これにより北の帝国の艦隊が撤退に至るかもしれない。

そうなればこちらの勝ちだった。

何も敵艦隊の殲滅だけが戦争ではない。


「ないな。ではこれを敵の侵攻コースに添って3回繰り返す。

敵艦隊13艦全てを撃破または撤退に追い込めばこちらの勝ちだ。

各員の奮闘を期待する。以上」


「「「「了解しました」」」」


 各艦の艦長が自分の艦に徒歩で戻る。


「さあ、作戦開始だ」



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 艦隊司令ヴェルナーツの命令によりガイアベザル主力艦隊はリーンワース王国王都に向かっていた。

敵は囮となった陸上戦艦ダーボンに釣られて場違いな北方を警戒しているはずだった。


「敵艦見ゆ。数5。9時の方向!」


 旗艦デルベックの艦隊で見張り員の叫び声が響いた。


「なんだと!」


 ヴェルナーツが反応すると同時に僚艦を魔導砲の光条が襲う。


「僚艦5艦に魔導砲直撃しました!」


 一気に5艦が航行不能になる。


「敵艦、地平線に消えました。ライベルク、吶喊します!」


「いかん!」


 ヴェルナーツがそう言ったときには遅かった。

魔導砲で反撃しようと試みた陸上戦艦ライベルクは長距離魔導砲の餌食となった。


「バカな! 一瞬で6艦もやられただと?

全13艦中6艦が航行不能? 約半分じゃないか!」


 幕僚の声に一番焦ったのは艦隊司令ヴェルナーツだった。


「くっ!(どうする? ここで敵艦隊の主力5艦が出て来たとなると、この先には敵艦隊は待ち構えていないはず)」


 ヴェルナーツはこのまま撤退しては何の戦果もなく大被害を出し、皇帝の前で大恥をかくことになると危惧していた。

そのプライドが判断を誤らせることとなる。


「最大戦速でリーンワース王国王都を目指す。

やつらはズイオウ山に後退した。

ズイオウ山は守ってもリーンワース王国王都を守る気がないと見た。

リーンワース王国王都を落とせばこちらの目的は達せられる。

一気に蹂躙するぞ!」


 ヴェルナーツのガイアベザル主力艦隊7艦はリーンワース王国王都を目指した。

ズイオウ山から離れれば長距離魔導砲の餌食になることもない。

むしろ安全が増すとヴェルナーツは思っていた。


               ・

               ・

               ・


 しばらく何事もなく進んだ。

しかし、また見張りの声が艦橋に響く。


「敵艦見ゆ! 数5! 0時の方向!」


「回避だ! 5時の方向に進路をとり、敵艦と距離をとれ!

(ばかな! 先回りされた? いや別の艦隊か!)」


 ヴェルナーツの頭からは敵艦隊の速度がこちらを上回っているという発想が抜けてしまっていた。

敵の戦力は膨大で5艦どころか倍の5艦×2の艦隊が遊弋していたのだと思い込んでいた。


「僚艦3艦、魔導砲直撃、被害甚大」


 ヴェルナーツの指示により、今回は4艦が生き残った。

魔導砲が当たった3艦は中破なれど曳航可能な状態だった。

ここに至り、ヴェルナーツは自らの艦隊の敗北を認めた。


「撤退する。僚艦3艦を曳航、帝国に帰還する。

なお最大戦速で西へ向かえ。敵艦隊から離れるのだ」


 ヴェルナーツにはもう戦う気力も戦力も残っていなかった。

クランドもそんな敵艦隊を追撃することはなかった。

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