第75話 臨時政府樹立と国土

 ルナトーク・キルト臨時政府――所謂亡命政権になる――が樹立され俺が国王になり、リーンワース王国から国土となる土地を租借した。

これによりルナトーク・キルト王国はリーンワース王国と同盟関係になった。

その友好関係の印として、俺からは蒸気砲を提供し、リーンワース王国からは奴隷として売られていた両国の国民の保護と返還を行ってもらうことになった。

蒸気砲の代金としてだが。

俺はそれからの毎日を蒸気砲作りに費やしていた。


「これで初期注文分の蒸気砲100台、砲弾各100発計1万発は完成だな」


 俺はリーンワース王国からのガイアベザル帝国との開戦近しという報告を受け、寝る間も惜しんで蒸気砲を作っていた。

キルトタルから出荷される蒸気砲は、リーンワース王国の陸上輸送艦により完成した側から国境要塞へと運ばれていた。

これにより蒸気砲100台中80台は既に納入済みだった。


 ちなみに何故単位が台かというと蒸気砲が簡易ゴーレムだからだ。

命令により自律して歩き、弾を込め、照準を合わせ撃つ。これらの動作が自律して可能だった。

これは農園が人手不足だったせいで、人を使わないようにと当たり前のように与えてしまった機能だった。

だが、作ろうと思えば人が動かし、弾を込め、照準を合わせ撃つ簡易版を作れなくもない。

自動照準機能が無くなるので命中率が下がるだろうけど、それでも数を揃えれば面制圧には有効なはずだった。

うっかりしていたが、既に陸上輸送艦に渡して80台も納入した後なので、今更言えない状態だ。


 そして注目点が1つ。そう、陸上輸送艦へ納入なのだ。

リーンワース王国も、極秘らしいが陸上艦の運用を行っていた。

それは輸送艦であり、戦闘力を持っていなかった。

今後、輸送艦に蒸気砲を搭載して戦闘艦化しようとリーンワース王国は思っているようだ。

俺の見立てでは、ニムルドと比べて輸送艦の装甲は薄く、防御魔法も弱いようだ。

勝っているのは大きさと積載量ぐらいだろう。

止めた方が良いと思うが、そこまで口を挟める立場に俺はなかった。

所謂内政干渉というやつになってしまう。

その陸上輸送艦が複数、リーンワース王国により運用されており、蒸気砲を高速で輸送していた。


 この陸上輸送艦の存在により、俺がキルトタルという陸上戦艦――航空母艦タイプ――を持っていることは隠す必要がなくなった。

リーンワース王国が陸上戦艦を知っていて輸送艦を運用しているのだから。

なので俺はキルトタルを隠すことなく蒸気砲を作りつつズイオウ領へと向かっていた。

キルトタルならもっと速く動けるが、そこらへんの性能は隠蔽することにした。

キルトタルの外観から、おそらく戦闘艦ではなく輸送艦だと思われているようなのだ。


 その目的地であるズイオウ領こそが、俺がリーンワース王国から租借した土地だった。

あの楽しい穏やかな日々を送った第二の故郷が俺たちの新たな国土だった。

本来なら第13ドックまで行きたかったところなのだが、ポイント11で魔導砲が1基直っただけでも収穫はあったというところだ。

戦闘機も3機手に入ったし、攻撃力は魔の森の時よりも増しているのだ。

まあ第13ドックに行っても空振りという可能性があるからなのだが……。

今は対ガイアベザル帝国でリーンワース王国と共闘する、それにより逃げ回らずに済み安定した生活が営めるのは確かだった。

戦争には、まあまだ巻き込まれることもないだろう。

そのための蒸気砲譲渡、せいぜいリーンワース王国に矢面に立ってもらうつもりなのだ。

リーンワース王国も簡単に負けはしないだろう。

蒸気砲ならばニムルドクラスの陸上戦艦の火薬砲と対抗できるはずなのだ。


 その納入した蒸気砲の代金として、ルナトークとキルト両国の奴隷落ちした国民が解放されることになっていた。

両国の奴隷はガイアベザル帝国よりリーンワース王国へと流れ売られているのだ。

解放される場所はズイオウ山周辺の租借地と決まった。

俺はそこに国民となる者たちを受け入る準備をしなければならなかった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 ズイオウ山の麓へと戻った俺は、以前停泊していた場所に土魔法で穴を掘ってキルトタルを固定した。

いつものように、地面から農園部分だけが出ているような状態にする。

そして南に向けて広がっている平野に城下町のような街を作った。

これで200人ぐらいがいま解放されても受け入れが可能だろう。


 俺がそんな準備を数日かけてしているうちに、解放される奴隷の第一陣が農園に届けられ始めた。

周辺に出回っていた奴隷優先とはいえ、陸上輸送艦を使用しての輸送なので、やたら早い印象だ。


 第一陣は最初に納入した蒸気砲20台分と砲弾2000発分換算の奴隷2万4千人分、その一部でざっと4千人だ。

ちょっと待て。今簡単に計算したけど、20台分で2万4千人? 100台分だと12万人ですか?

追加注文が200台来ているんですが? そんなに奴隷いるの?


「アイリーン、サラーナ、君たちの国の人口って何人ぐらいいるの?」


わたくしの国ルナトークの総人口は200万人ほどでした。

おそらく戦いで半数は亡くなっていると思います……。

なので、奴隷として生き延びているのは……逃げた者或いは抵抗組織として戦ってい者を差し引いて40~50万人ぐらいだろうかと思います」


「わらわの国キルトは総人口140万人ぐらいかな?

わらわの国の民は劣等民族だと言われてほとんど殺されていると思う……。

10万人残っていれば良い方かな……」


「辛いことを思い出させてしまって悪かったな」


 俺は二人の頭を撫でた。

するとプチも撫でて撫でてと寄って来た。

嫌な気分を払拭するのと疲れていたのでプチをモフって癒しとする。


モフモフモフモフモフ


 だが、胸糞の悪い話だ。所謂民族浄化というやつか。

キルトではナチスのアウシュビッツみたいなことが行われたということか。

キルトは劣等民族とされたので特に酷かったのだろうな。

それで奴隷として売られていたサラーナがあんなに荒れていたのかもしれないな……。


「でも、その残った命たちを救おうとしてくれたのは、あなた様ではないですか♡」


「そうだぞ。わらわも感謝しているんだからな♡」


 俺が落ち込んでいると思ったのか、二人が両脇から抱きしめて慰めてくれた。

とにかく今後奴隷から解放された国民が万単位でズイオウ(古地図によると瑞凰)租借地にやって来ることになる。

受け入れ態勢を整えなければ、俺が国民を不幸にしてしまう。

とにかく農地拡大と食糧増産、あ、住む家ももっと作らなければならない。

場当たり的にやれる事じゃないな。

都市計画を作らなければ……。


「そういやアイ、君のJOBは参謀――所謂軍師――だったよね?

都市整備は俺とゴーレムがやるから都市計画を頼む。

ここに100万都市を築くぞ」


 俺は都市計画をアイに丸投げした。

さてこれからどうするか。

とりあえず理由わけもわからず連れて来られた4千人人々に説明することから始めるか。


 こうして俺の逃亡生活は幕を下ろす事になった。

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