第64話 飛行機械2

お知らせ 

 第63話において「友軍」が「遊軍」になっていました。

修正しましたが、単なる誤字ですので、読み直す必要はありません。


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 時は少し戻り空賊のかしら側の話。


 飛行機械は順調に飛行し、ワイバーンの十倍以上の速度で農園の在る場所へと辿り着いた。


「何だこれは?」


 確かにそこは農園が在った場所のはずだった。

しかし、そこに農園は存在せず、地面には数百メートルにも及ぶ穴が開いているだけだった。

その穴の周辺には墜落したワイバーンがそのままの状態でうち捨てられていた。

かしらは、その遺骸に手を合わせると独り言ちた。


「間違いない。ここがあの農園の在った場所だ。

まさかあの農園ごと動いたというのか?」


 空賊のかしらは、行方の判らない農園を探すために機首を巡らせた。


「魔法で移動したとして、あの大きさのものがそう遠くまで行っているはずがない」


 かしらは誤解していた。

大規模な転移魔法によって農園が動いていると思ったのだ。

以前、この荒野を飛んだ時には、あの農園は影も形も無かった。

最初は誰かがこの荒野に魔法を使って農園を築いたのだと思っていた。

だが、その農園が消えたとなると、元々存在していた農園が魔法により移動して来たのだと考えを改めたのだ。


「あの大きさなら上空からなら見えるな」


 かしらは、飛行機械の高度を上げた。

荒野に緑生い茂った農園は目立つ。

上から見れば一目瞭然のはずだった。


「バカな、どこにもいないだと?」


 あまり高度を上げると雲により地上が見えなくなるので、雲の下ぐらいまで高度を上げていた。

しかし、農園は何処にも見当たらなかった。

それもそのはず、農園は陸上戦艦の上に乗っかっている。

その陸上戦艦が尋常ではない速度で移動しつづけている。

少し高度を上げたぐらいでは見えるわけがなかった。


「仕方がない。もっと上げるか」


 かしらは、ガタが来ている噴射機械エンジンを騙し騙し高度を上げて行った。

噴射機械エンジンがせき込み噴射が止まる。

かしらは慌てて機体を立て直すと落ちた高度を速度にかえて噴射機械エンジンの起動ボタンを押した。


ドン! ズオーーーー!


 噴射機械エンジンが再点火し後部から炎が噴き出した。

墜落寸前から回復したのだ。


「やれやれ助かった。ここが限界か」


 かしらは、その高度から下を眺めた。

すると雲の隙間から南西の先に緑の塊が動くのが見えた。

静止していたら気付かなかったかもしれないが、動いていたので気付くことが出来た。


「あの形状、間違いない奴の農園だ。

あいつあのように動き回るのか! まあそんなことは今はどうでも良い。

手下の仇、やってやるぞ!」


 かしらは飛行機械を一気に農園へと向けて降下させた。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



『未確認機降下します。

警告、警告、攻撃態勢と認識します』


 飛行物体は、システムコンソールも知る友軍の機体らしい。

しかし、それを使っている者が味方とは限らない。

実際、友軍艦のはずの陸上戦艦ニムルドは敵の手に渡っていて攻撃を仕掛けて来ている。

油断ならなかった。


「敵味方識別信号で攻撃できないんだよな?」


『機体が万全であり、何らかの改造が加わっていなければ攻撃できません』


「(壊れている可能性と壊している可能性ということか……)」


『ミサイルベイ開きました』


「(つまりミサイル攻撃しようとしていると?)

なんとかならないのか!

ゴーレムのレーザーは?」


『射程圏外です。

ゴーレムのレーザーは減衰が激しく、遠距離では効果を失います』


「そうだ。蒸気砲の爆裂弾をお見舞いしろ!」


 俺は時限信管による爆裂弾を作っていたことを思い出した。

ある一定の時間で弾頭が爆発するようにした蒸気砲の弾種の一つだ。


『射程距離外と推定します。

しかし、近接の対空砲火として使用してみます』


 蒸気砲はゴーレム化しているので、システムコンソールから制御できるのだ。

舷側に設置した蒸気砲が一斉に未確認機の方向に砲を向けた。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



 かしらは農園を追いかけるように機体を進めると、武器の使用ボタンを押した。

すると今までの残弾警告とは違う映像が現れた。


「なんだこれは?

なんだか知らんが弾以外のものが撃てるのか?」


 それは対艦ミサイルASM75だった。

今まで彼が気付かなかったのは、ミサイルベイの内部にそれが搭載されていて見えなかったからだった。

この時、機体の制御電脳は、攻撃目標の脅威度を判定して対艦ミサイルが妥当と判断したのだ。

この機体、敵味方識別装置と信号の受信装置は壊れていなかったが、その信号を識別装置に送るルートが壊れていた。

まともな整備をしていれば簡単に修理出来るものだったが、その修理が出来るような人間は空賊には一人も居なかった。

そのため農園は敵として認識され対艦ミサイルが準備されていた。


「撃てるならなんでも良い、死にやがれ!」


 かしらは、操縦用の棒に取り付けられた引き金を引いた。


ガチャ バシュ――――――――――!


 対艦ミサイルが胴体内部から切り離され、噴射装置に点火すると農園へと向かって飛んで行った。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



『未確認機、対艦ミサイルを発射しました。

迎撃せよ! 迎撃せよ!』


 未確認機がキラリと光ると煙の尾を引いた対艦ミサイルが突っ込んで来た。

煙は整備不良による不完全燃焼のようだった。

その反動なのか未確認機がよろける。


 対艦ミサイルはその最高性能を発揮することなく進路をくねくねと曲げつつ農園へと迫って来た。

だが、それが予測を超えた回避運動となり、ゴーレムのレーザーや蒸気砲の爆裂弾を搔い潜っていく。


 対艦ミサイルが水平飛行からポッポアップし上空に跳ね上がる。

そのまま放物線を描いて農園の田んぼへと降下していく。


 その時、ゴーレムのレーザーと蒸気砲の爆裂弾の破片が対艦ミサイルに当たった。

対艦ミサイルは後部を爆発させると墜落しだした。

おそらく推進剤の燃料が爆発したのだ。

これでミサイルは動力を失い落下するだけとなった。

だが、このまま落下しては弾頭が農園の中央に直撃し爆発してしまう。


「面舵急速回頭! 左舷サブスラスター全開!」


 俺は陸上戦艦に横移動を要求した。

このまま落下してくる弾頭を左舷側の外に回避しようというのだ。

左舷の舷側下部から補助動力の炎が上がる。

その推力によって農園は右へと動きだす。


『重力傾斜右舷全速!』


 システムコンソールも陸上戦艦を右側に落とす・・・

急激な機動で陸上戦艦は右へと横滑りした。

おかげで対艦ミサイルは、左舷側の外へと落下する。

そして……そのまま爆発することなく地面へとめり込んだ。


『ミサイル、不発!』


 対艦ミサイルの脅威は去った。


『未確認機、接近!』


 その時、退艦ミサイルを撃った未確認機がよろよろと農園の上空を通過した。

未確認機は制御を失うとそのまま荒野に落ちて行った。

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