第51話 女冒険者ケイト

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

常設依頼 尋ね人 冒険者ランク不問


有力な所在情報を提供した者に金貨5枚 みつかり次第終了


クランド 男 黒髪(一部灰色)黒目 15歳 身長165~170cm 細身

平民(農民)服に魔銃とショートソードを装備

小さな茶色い犬を胸にかかえている

美人奴隷を複数侍らせている

金遣いが荒い


移動手段:徒歩 ワイバーン(色:青、赤、白、橙、紫、桃)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 依頼掲示板を見ていた私、ケイトは、破格の報酬を提示している依頼を見つけて歓喜の声を上げた。

常設依頼で単独パーティが独占するタイプではなく、冒険者ランクも問わない。

しかも、捕まえるとか殺すとかではなく、居場所を見つけて報告するだけでお金になる。

実家の男爵家を飛び出したのは政略結婚でエロ伯爵の妾にされそうになったからだった。

身一つで逃げてきて、出来る仕事と言えば冒険者しかなかった。

ソロで活動し、冒険者ランクもEとなり、やっと見習いが取れた程度のケイトには、この依頼は破格といえる有難い仕事だった。


「これは専従ではなく、ついでに気に掛けておくだけでもいいわね」


 そう思って他の依頼を受けて冒険者ギルドを後にすると、目の前に怪しい集団を見つけた。

小さな犬を連れ、美人を4人侍らせた剣士風の冒険者の男、しかしどうも装備がしっくり来ていない。

しかも男は顔を隠すようにフード付きのローブを皮鎧の上から羽織っている。

これは当たりを引いた?

私、ケイトは男達の後を尾行するのだった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



「クランド、この街も買い物をするには便利だにゃ」


「こら、お前は話すな。訛りが特徴的すぎる」


 剣士姿の俺は騎士姿に変化したミーナに黙るようにと小声で囁いた。

ミーナのにゃ訛りは聞く人が聞けば俺たちと関連付けられてしまいかねない。

しかもミーナ、クランドと呼ぶな。

せっかく偽名でクロードを名乗っているのに台無しじゃないか。


「そうですね、クロード・・・・、ここを拠点にするのも良いかもしれませんね」


 魔術師姿のアイが大きな声を出して誤魔化す。

誰が聞き耳を立てているかわからないからな。

俺はアイとアン、牧羊犬モードのプチ、それに買い出し担当で別人に変化中のアリマと護衛担当で別人変化中のミーナと共に一番近い街までやってきていた。

俺が剣士、プチが召喚獣、アイが魔術師、アンが斥候、ミーナが騎士、アリマがメイド兼荷物持ちの扮装をしている。

傍目からはごく普通の冒険者パーティに見えると思う。一応。

この街はミンストルより若干規模が小さいが、川の恩恵で農地も肥え、川での漁も盛んらしく市場は結構賑わっていた。


「旦那様。拠点での生活物資を購入しなければなりません」


 これ見よがしに説明台詞を吐いたのはアリマだ。


「そうだな。全て任せる」


 俺はアリマに金を渡して買い物をさせる・・・

一人だけ使用人だというポーズだ。

こんな面倒なことをしなければならないのも、北の帝国が勝手に絡んで来て、それを返り討ちにしてしまったからだ。

そのせいで俺はここらの領地を治めるミンストル子爵どころか北の帝国に追われている身なのだ。

陸上戦艦で逃亡中だが、家畜や皆が酔ってしまうため、夜間のみの移動と決め、只今停泊中なのだ。

なのでこのような格好で情報収集と生活物資の補充をしているというわけだ。


 順調に買い物を続け、用事も済んだし帰ろうとしたとき、俺は尾行に気付いた。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



 いま、クランドって呼んだ?

間違いない、奴だ。

髪色と目の色は確認出来ないが、身体的特徴は合致している。(クランドがフードを被っていたのが仇となっています)

茶色い小さな犬もいる。(ケイトは大型犬を飼っていたので相対的に中型犬でも小さい犬と認識しています)

そして美人を4人も侍らせている。(ごく普通のパーティメンバーのつもりですが、クランドが思った以上に彼女たちは美人ぞろいです)


 買い物の様子もメイドにお金を渡して好きなものを買わせている。

男の防具を見る限り、戦った傷もなく身体に慣れている様子もなく、どう見ても初心者パーティーだ。(見る人が見れば高レベル冒険者しか装備しない希少な魔物の素材製です)

なのに、買い物の量が半端じゃない。普通に金貨を複数枚出している。


「あれは!」


 メイドが買ったものを魔法の鞄マジックバッグに入れていた。

あれ一つで普通に家が買える代物だ。

装備と金銭感覚が乖離しすぎている。(とケイトは思っています)

あの男が貴族のボンボンでもない限り、あのようなパーティは異常だ。


 その時、男がフードを外した。

暑かったのか、顔を手で仰いでいる。


「!」

 

 私、ケイトはその顔を見てがっかりした。

その髪は茶色。目も普通に茶色だったのだ。

(ケイトはこの世界の常識として髪と目の色は変えられないと思っています)


「人違いか……。でも怪しいパーティだったな」


 そう思いながら、後ろ髪を引かれる思いで尾行から離れた。

私、ケイトには今日中に達成しなければならない依頼があるのだ。

それを依頼失敗で終わらせては違約金もかかるしギルドランクの昇格審査にも響く。

人違いに構ってはいられなかった。



◇  ◇  ◇  ◆  ◆



 俺が顔を見せると尾行していた女が尾行を解いた。

女に俺の髪と目の色を確認させたのだ。

髪と目の色を偽装していて助かった。

しかし、何を根拠に尾行されたのだろうか?

変装は完璧だったはずだ。

プチだって大きくなっている。不思議だ。


 そんなことを思いながら、俺達は南門のワイバーン厩舎に向かい、ブルー、オレンジ、パープルを引き取って農園へと帰還した。



◇  ◇  ◆  ◇  ◇



「ん? あれは、先ほどのパーティー」


 西の空に飛んでいくワイバーンを見かけた私、ケイトはその光景に違和感を覚えた。

あの先にはズイオウ山しかないはずだが?


移動手段:徒歩 ワイバーン(色:青、赤、白、橙、紫、桃)


 その説明書きが頭に浮かんだ。ワイバーンの色も青、橙、紫と合っている。

もし、あの髪色と目の色が魔法か何かで変えられるのだとしたら、奴が本命かもしれない。


「薬草採取の依頼でも受けてズイオウ山に入ってみるか……」


 そう独り言ちるケイトだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る