第42話 決戦2
ドン!
敵の砲弾が塔に直撃する。
兵の連度が高いのだろう。敵の砲の命中精度は高いようだ。
だが、こちらの塔も謎の遺跡でありその壁は強固だ。
特別性の壁は硬く、火薬砲では撃ち抜けないのだろう。
エレベーターに乗り塔の最上階に付くと、俺は今後の身の振り方を嫁達と協議しようと口を開いた。
幸い、塔の壁が俺達を守ってくれているので時間が稼げている。
「これからどうする? 転移で逃げようか?」
「それより、何か言ってるんだけど、わからないの」
そのサラーナの言葉に耳を澄ますと、システムコンソールが言葉を発していることに気付いた。
ガイア帝国語なので、誰も言葉が理解出来なかったのだ。
『攻撃を確認。陸上駆逐艦ニムルドを敵と認定。管理者に反撃を具申します。
攻撃プラン1:ゴーレムのレーザーで迎撃。
攻撃プラン2:』
俺はそのシステムメッセージに食い気味にゴーレムによる迎撃を選択した。
『ゴーレム部隊出動! レーザーで敵を排除しろ』
俺の命令で700番代の戦闘ゴーレムが出撃する。
搬入口のエレベーターが起動し、戦闘ゴーレムが陸上に出る。
バラバラと持ち場である城壁へと辿り着くと、随時固定武装のレーザーで敵艦の艦砲を狙いはじめる。
相手は火薬砲だ。レーザーが火薬を誘爆させれば攻撃力を奪えるだろう。
農園の城壁に上った700番代ゴーレムが敵艦に向かってレーザーを撃つ。
精密射撃に敵の艦砲が誘爆する。
敵艦はゴーレムを脅威とみなし、城壁に砲を向けた。
砲弾の爆発に巻き込まれるゴーレムたち。
直接ゴーレムは壊せないが、城壁を破壊すれば落ちたゴーレムが戦闘不能になる。
そんな消耗戦がお互いに展開した。
『ゴーレムの損耗率50%を超過。全滅とみなします。
管理者に攻撃プラン2の実行を具申します。
攻撃プラン2:艦砲による直接攻撃』
戦闘不能にされるゴーレムを見て、農園を手伝ってくれたゴーレムの映像が走馬灯のように思いだされた。
俺は、ゴーレムも仲間だと思っていた。
そのゴーレムがやられていく。俺は判断を誤ったことを悟った。
『ちくしょう。ゴーレム部隊を引かせろ。
システムコンソール、反撃出来るなら攻撃プラン2をやっちゃってくれ!』
『管理者の許可を確認』
その俺の声にシステムコンソールの色が赤に変わった。
俺は慌てる。システムコンソールは何をする気なんだ?
システムコンソールの色が変わってから、動きはまだない。
その間もせっかく作った農園が敵の砲弾で破壊されていく。
すると地の底より鈍い振動が伝わって来た。
『魔導機関臨界。戦闘時出力解放』
『
『艦体浮上します』
また地震が起きる。
農園周辺の地面が裂け、遺跡が浮上して来る。
農園の塀は丁度遺跡の上に乗るようになっていた。
そういや、また遺跡が動いても大丈夫なようにしろって俺が指示して、指定された範囲に塀を造ったんだったわ。
農園全体が遺跡に乗り浮上していく。
『隔壁解放。第二魔導砲塔上昇』
果樹園の隣、ワイバーン厩舎の西の地面が割れ隔壁が開く。
その中から戦艦の砲塔のような金属の塊がエレベーターで上昇して来た。
上昇が止まると隔壁が閉じ、砲塔の基部を塞ぐ。
第二魔導砲塔が砲身を上下させ動きを確かめる。
『射撃レーダー始動。
第二魔導砲塔、
弾種光魔法』
第二魔導砲塔が旋回し敵艦に砲身を向ける。
『発射のタイミングは管理者クランド様に一任』
どうすればいいのこれ?
もしかして、これも陸上戦艦なのか?
「わわわんわんわん(ここ掘れわんわん)」
プチのスキルが発動した。
このまま掘り下げろ、つまりここは撃っていいってことだよな?
『発射!』
俺の命令に魔導砲塔の砲身の先にいくつもの魔法陣が浮かぶ。
魔力ストレージからエネルギーが魔導砲に流れ、超高出力の光魔法が発動する。
太い光の矢がビーム砲の如く敵艦に向かっていく。
火薬砲を撃つために横腹を見せていた敵艦が防御魔法陣を展開するも、それを突き破って光の矢が直撃した。
敵艦は横腹を貫かれ、大爆発のキノコ雲が上がった。
爆煙が消えた後、そこには二つに折れ墜落した敵艦の残骸だけが残っていた。
その時、こちらの魔導砲塔からも小さな爆発が起きた。
『魔導回路破損。
第二魔導砲塔大破使用不能。
管理者に修理を要求します』
システムコンソールからシステム音声が虚しく流れていた。
どうやらこの遺跡は陸上戦艦、しかも飛行甲板を備えた戦闘空母らしい。
その飛行甲板には綺麗に俺の農園と牧場が乗っかっていた。
魔導砲塔は大破。以前、航空機が出撃済みで未帰還と言っていたので、こちらの攻撃手段はもう無さそうだった。
このままここに残れば、北の帝国から更なる攻撃を受けてしまうだろう。
塔から飛行甲板の農園を見て、ふと俺は気付いた。
『なあ、農園ごと移動出来るんじゃないか?』
俺はシステムコンソールに問いかけた。
『はい。このまま移動可能です』
俺はこのまま陸上戦艦でエスケープすることに決めた。
俺は展望台から破壊された屋敷に出て転移すると、落下したゴーレムを回収していく。
こいつらが敵に回収されて、俺の敵として目の前に立つのは忍びない。
絶対修理してまた動けるようにしてやるからな。
「北の帝国に主君の情報が渡らないように、敵の生存者は殺すか捕虜にするべきです」
リーゼが厳しいが尤もなことを具申して来た。
俺が甘いので、あえて言ってくれたのだろう。
ありがたいことだ。
ここは俺がしっかり決断する必要がある。
「そうだな。出来れば敵艦も修復されないように手に入れたいな」
普通ならこんな巨大なものがインベントリに入るはずがないのだが、俺はスキルカンストの収納の極だから出来ないはずがない。
だが、生物がいるとインベントリに入れられない。
逆に生物がいたらそれを自動排除すると選択すればインベントリに収納することが出来る。
その機能を思い出した俺は、敵艦をそのままインベントリに入れた。
生存者がいれば、その場に残されているはずだ。
残念ながら、生存者なし。あの高さから落ちたんだ、攻撃で生き残ったとしても墜落死したのだろう。
そして解体の分離機能で敵艦内の遺体を一か所に出した。
火薬の誘爆と魔導機関を撃ち抜いた光魔法の直撃による魔導ストレージの爆発、その後の墜落が全乗組員に死を与えていた。
俺は証拠隠滅ではないが、追手への情報を遮断するため、遺跡が浮上して出来た穴の中に遺体を入れ【火炎嵐】で荼毘に伏し、そのまま土魔法で埋葬した。
遺跡があったこともこれで隠蔽できるだろう。
「お互い殺し合いだったんだ。
悪く思わないでくれ。安らかに眠ってくれ……」
帝国人の宗教など気にせずに仏教式の合掌で弔う。
そして俺は異世界で初めて降り立ったこの安住の地をとうとう捨て去ることになった。
俺はこのままこの世界の放浪者になるのかもしれない。
「主様、大丈夫。わらわ達がついてる」
「そうです。あなた様は
「わんわん(ぼくもぼくも)」
俺が悲しい顔をしていたのか、嫁達がこぞって慰めてくれた。
俺はプチをモフモフしながら嫁達の存在に感謝した。
彼女達と一緒なら、この後に待つ苦難もきっと乗り越えられるに違いない。
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