第29話 新メンバーのお仕事

 俺の農園に新たなメンバーが三人増えたので仕事を割り振り直すことにした。

エルフには植物に対する種族効果があるので、シャーロには俺に代わって農園の作業をしてもらいたいと思っている。

だが、ここで問題になったのが、俺にしか出来ない作業があるということだ。

俺が普通に使っていた魔法やスキルが、どうやら他人には使用不能なようなのだ。

それがエルフという植物に慣れ親しんだ種族であるシャーロもそうだということに俺は驚きを隠せなかった。

というか俺の生産の極と魔導の極が規格外だったらしい。


 農作業の流れは作物を【自動拾得】し、葉茎根などの不用な部分を【インベントリ】で廃棄処理――この時藁などの必要素材は確保――し、【農地耕作】で畑を整え、【農地回復】で土壌を回復して次の作物に備え、【種召喚】で種を出し、【広域種蒔】で種を蒔き、【促成栽培】をかけて翌日までに育てる。

作物が苗の場合は【種召喚】と【広域種蒔】が、【苗召喚】と【広域植苗】になることもある。

芋などの種芋を植える場合は【種芋召喚】と【広域埋付】になる。


 【インベントリ】と【自動拾得】と【種召喚】(【苗召喚】【種芋召喚】)は時空魔法。

【農地耕作】と【農地回復】は水と土の複合魔法。

【広域種蒔】は風と土の複合魔法だが、【広域植苗】と【広域埋付】は重力と土の複合魔法だ。

【促成栽培】は、光、水、土、時空の四属性複合魔法だった。

ちなみに果樹園で使っている【ハイパー肥料】は【インベントリ】内の廃棄物から製造した肥料窒素化合物を使うため、水と土と時空の三属性複合魔法で作られていた。

この肥料窒素化合物は自動拾得した作物や魔物の不要部分を【解体】の機能で分離し、時空魔法で堆肥化を促進し【解体】の機能で抽出されていた。


 シャーロは風、水、土、木の属性魔法が使える。

つまり、シャーロの手に追える作業は【農地耕作】【農地回復】【広域種蒔】だけだった。

木属性の魔法で【促成栽培】に似た効果が出せるが、それを畑一面に行うというのは無理だった。

尤も、それらを大規模にやるためには、そもそもMP枯渇という問題があった。

この問題は230号に農地を任せようと思った時に既に発覚していたものだ。


 MP枯渇問題と使用出来ない属性魔法の使用は属性石を使った魔道具を渡すことで回避出来る。

水と土、風と土、重力と土の属性石などの二属性までの属性石ならば、俺には簡単に創れるので何も問題がない。

三属性以上の属性石自体は魔力さえ継ぎ込めば創れることは創れた。

ただ、ここで使っている俺のオリジナル魔法は使用魔力が多すぎて属性石では発動しなかった。

これが、この世界になぜ属性石と魔宝石の二つの方式の魔・道具と魔導・具があるのかという理由だった。

読みが同じ音の魔・道具と魔導・具だが、この世界では文字の区切り方で区別している。

魔宝石+無属性の燃料石×複数、こうすることで大きな魔力を使う魔導・具が出来るわけだ。


 以前【リカバー】が使える属性石を俺は創ったわけだが、あれは一回で属性石の魔力が枯渇するような代物だった。

だが、俺はその属性石を息を吐くように創造出来るので、単独での回数制限の事が頭にはなかったのだ。

当たり前だが貴重な複合属性の属性石を使い捨てになるようには使わないよね。

それがダンジョン産なりの希少属性石ならば猶更だろう。


 とにかく、属性石の魔・道具と魔宝石の魔導・具を造ってでも、俺は畑仕事の一部を誰かに負担してもらいたかった。

まず【インベントリ】【自動拾得】【種召喚】【苗召喚】【種芋召喚】は時空魔法絡みだが、俺にしか使えないスキルであるため俺が担当するしかない。

唯一【自動拾得】だけは他人に任せることが出来る。

だがそれは、全てが手作業となり、この農園の面積だと更なる奴隷購入が必要となるだろう。

前日に植えられた作物を翌日朝に収穫し、次に植えるべき種や苗を召喚して用意する。これが俺の仕事となる。

あ、種と種芋は一度収穫したものは次に回せるかもしれない。

元々種がF1で次の世代を想定していないものでなければ……。


 【農地耕作】【農地回復】【広域種蒔】【広域植苗】【広域埋付】は、属性石の魔道具を用意してシャーロに任せる。

【促成栽培】は、魔宝石の魔導・具を用意してシャーロに任せる。

属性石の魔・道具の属性石が燃料切れを起こした時は、俺が用意した属性石をシャーロが交換する。

魔宝石の魔導・具の燃料石が燃料切れを起こした時も、俺が用意した燃料石をシャーロが交換する。


 とりあえず、ちゃっちゃと魔・道具と魔導・具を作る。

属性石は簡単に創れるので各魔法を付与した状態で創る。

今まではゴーレムに搭載されていた燃料石が頭に残っていて、その大きさ――ピンポン玉大――で創っていたのだが、どれぐらい大きく出来るのか試してみたところ、拳大の属性石が出来た。

これで交換の期間が伸ばせるかと思う。

まあ、この大きさでも俺のオリジナル魔法は使えなかったんだけどね。

魔・道具の有効範囲は、畑の区画で範囲指定して使えるようにしておく。


 魔宝石はインベントリに収納されていたもの――おそらく遺跡の時間停止倉庫から持ってきたやつ――を使う。

魔法式を書き込み、ミスリルの線で燃料石に繋げる。

持ち歩くのではなく、区画毎に固定で設置する。

見た目はラ〇ュタの操作石碑。

起動には少量の魔力をスイッチとして使う。

1番に魔力を流すと【農地耕作】と【農地回復】が連続で発動する。

種を石碑横のボックスに入れて、2番に魔力を流すと【広域種蒔】が発動する。

種まきが終了したら3番に魔力を流すと【促成栽培】が発動する。

苗の場合は、ボックスに苗を並べて2番に魔力を流すと【広域植苗】が自動的に発動する。

種芋の場合も、ボックスに種芋を並べて2番に魔力を流すと【広域埋付】が自動的に発動する。


「あれ? これってシャーロの担当部分は全部ゴーレムに任せられるぞ?」


 783号も230号も小規模の魔法が使える。

つまり魔・道具や魔導・具の起動に使うために流す僅かな魔力ならゴーレムでも問題にしないはずだった。

魔・道具と魔導・具の製造により専門職がいらない簡単なお仕事になってしまった。


「ごめん、シャーロ。農園での仕事が無くなった」


「ええっ!」


「シャーロには俺の癒しとして頑張ってもらうしかないな」


 なんのためにエルフを雇ったのか、本末転倒だった。

エルフは美人だからなぁ。でも他の奴隷たちも美人ばかりなんだよなぁ。

森探索が得意そうだから、今度魔宝石の採掘につきあってもらおう。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 続いてミーナ。豹獣人だ。

彼女には街などでの護衛と農園の警備をお願いする。

ミーナはルナトーク王国の元傭兵だそうだ。

戦争で北の帝国の捕虜となって奴隷落ちしていた。

武器は双剣で斥候が主任務だが、体術も熟せる所謂アサシンに近かった。


 同じ護衛役のターニャは放牧民出身のため、農園にいるときは主に馬の世話をしている。

当然、ミーナも農園にいるときは違う仕事をしてもらう。それが農園の警備だった。

斥候だった経験もあり、魔物が農園に侵入した場合、その種族的なスキルも加わり、いち早く魔物を発見、討伐できるだろう。

頼りになりそうだ。


「クランド大変にゃ! ジェノサイドベアが空堀に落ちてるにゃ!」


 ミーナが慌てて駆け寄り、そう報告して来た。


「またかよ」


 空堀には良く魔物が落ちるのだ。

プチが飛ぶように走っていく。俺も後を追って現場に行く。

俺が到着した時には、プチがジェノサイドベアを風刃ウインドカッターで狩った後だった。

相変わらず綺麗に首を落としている。

サクっとインベントリに収納し終了。


「今日は熊肉で熊鍋にするか」


「熊肉、固いけどにゃかにゃか旨いにゃ」


         ・

         ・

         ・


「クランド大変にゃ! ワイルドボアが空堀に落ちてるにゃ!」


 ミーナが慌てて駆け寄り、そう報告して来た。


「またかよ」


 プチが飛ぶように走っていく。俺も後を追って現場に行く。

俺が到着した時には、プチがワイルドボアを風刃ウインドカッターで狩った後だった。

相変わらず綺麗に首を落としている。

サクっとインベントリに収納し終了。


「今日は猪肉でボタン鍋にするか」


「猪肉、美味しいにゃ。美味しいにゃ」


         ・

         ・

         ・


「クランド大変にゃ! 双角犀ツインホーンライノが空堀に落ちてるにゃ!」


 ミーナが慌てて駆け寄り、そう報告して来た。


「またかよ」


 プチが飛ぶように走っていく。俺も後を追って現場に行く。

俺が到着した時には、プチが双角犀ツインホーンライノ風刃ウインドカッターで狩った後だった。

相変わらず綺麗に首を落としている。

サクっとインベントリに収納し終了。


「今日は犀肉で……。これ不味いんだった……。

ん? ちょっと待て。ミーナは何をやってる?」


「警備してるにゃ?」


「警備とは報告をすることか?」


「魔の森の魔物にゃんてミーニャには討伐は無理にゃ」


 そういや、ここは魔の森と呼ばれている恐怖の象徴で、人が近寄らないような場所だった。

そんな場所で安心して暮らせるようにと空堀を掘り、塀を巡らせて農園を安全地帯にしていたんだ。

つまり、ここの魔物を倒せるのは俺とプチぐらいで、いくら傭兵でもミーナには荷が勝ち過ぎたと……。


「報告だけならゴーレムに任せられるな……」


 実は783号以外の700番代ゴーレムは右腕にレーザーを装備している。

だがレーザーで討伐されると魔物の素材が痛むので敢えて討伐をさせていない。

そこでミーナに期待していたわけだが、魔の森の魔物は戦闘力が違いすぎたらしい。


「ごめん、ミーナ。農園での仕事が無くなった」


 なんのために豹獣人を雇ったのか、本末転倒だった。

目に見えて落ち込むミーナ。


「大丈夫だ。ミーナには外での護衛任務がある!」


 でも、買い物以外はほぼ外出しないんだけどな。

せっかくの護衛スキルが買い物のお付き合いってのも……。

今度魚釣りにでも誘おう。

一度、東の大河まで行ってみようと思っていたんだよね。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



 そしてアイリーン。

彼女は第一夫人としてサラーナのように仕事を与えていない。

俺が望んだわけではないのだが、いつのまにか妻ということになっている。

まだ一切手を出していないんだけどね。

これが鈍感系主人公というものだ。


「あなた様、食事の支度が出来ましたよ。

今日はアリマさんにお願いしてキッチンに入らせてもらったの。

ルナトークの料理だけど、お口に合うと嬉しいわ♡」


 アイリーンは自ら率先して仕事を見つけて手伝っていた。


「これが嫁か!」


 俺は嫁というものの有難さを知ってしまった。

サラーナ、差を付けられてるぞ。

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