初恋・無味・無臭・裁判

 初恋なぞ、泥のようなものですよ。

 そういう言われて僕は唸る。

 確かに、あの初恋は少しだけ報われて、大きな傷を残して終わった。

 いい勲章だと思うが目の前の男はどうも、それをよしとしないらしい。

 でも、いい経験だと思うのですが。

 すると男はゲラゲラと笑い出した。

 何がおかしいのですか?

 男は、ひいひいと笑い、侮蔑の瞳がぎょろりとこちらを見た。

 それは、その恋を経験値として次に活かせた、ということですか? まさかまさかそれは有り得ないでしょう。ここをどこだと思っているんです? 刑務所で、私は担当弁護士ですよ?

 ああ、そうだった。

 初恋の次が、元恋人の殺人なんて味気ないですねえ。

 男は紙の束を取り出して言う。

 もう一回、聞いてもいいですか? いや個人的な質問ですけど、初恋、どうでした?

 ……なんにも? 何を聞いているのかよくわかりません。

 そうですか、そうですか、弁護士は頷いてパイプ椅子から立ち上がった。

 僕はどうすればいいんです?

 退出する弁護士に聞いた。

 ……殺しました。それだけで結構ですよ。

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