第29話 デート予習
「賢太さん、気持ちいいです。もうだめー。」
「おい、言い方!風が涼しくてときちんと言え。非ぬ誤解を受けたらどうするんだ。あと何だ急に名前で呼んで。」
「せっかくの先輩とのデートなんですから、雰囲気づくりですよ。そういうの大事ですよ。賢太さんも、今日はさやかと呼んでくださいね。」
「そういうものなのか。ところで、今日は何処に向かってるんだ。」
「前に約束した行ってみたかった所があるんですよ。きれいな湖が見渡せる喫茶店があって、オンスタ映えするって人気なんです。」
「何ていう店なんだ?」
「えっと確か、森の何とか
「おしゃれそうな感じだな。」
「そうなんですよ。オンスタに写真とか料理が載ってるんですけど、すごくいい感じなんです。」
「それは料理の方も期待できるな。でも結構遠いな。あと1時間はかかるぞ。」
「移動時間もデートのうちですよ。」
「そうか。今日は付き合ってもらってありがとう。柳に相談してよかったよ。」
「うー。複雑な心境です。さやかって呼んでくださいよ。せっかくの機会なんで楽しみましょう。賢太さん。」
「柳に名前を呼ばれるのは何か新鮮だな。むず痒い。」
「さやかですって。いいじゃないですか。駄目ですかぁ。」
「そのあざとい感じの止めろ。」
「えぇー、何でですかぁー?さやか、わかんなぁい。ふふ。」
そう言って俺の腕を人差し指でつんつんする。
「運転中に止めろ。危ないだろ。お前俺の過去少しは知ってるだろ。」
「あっ、ごめんない。私、浮かれてました。」
柳は急に静かになってしまった。
「柳、すまん。強く言い過ぎた。」
「いえ、私こそよく考えもせず、すみませんでした。先輩、昔のこと聞いてもいいですか?」
「暗い話にしかならないぞ。聞きたいことがあるのか?」
「うーん。どうしてもという訳ではないんですけど、気にはなっていることはありますね。」
「今更、さやかに話せないことなんて殆どないから何聞いても大丈夫だぞ。」
「わかりました。でもこれは帰りに聞きます。今はデートを楽しみたいので。」
「そうか。わかった。」
それからは仕事のことや、彩花のことなど他愛もない話をしていると目的地に到着した。
「うわー。きれー。」
「静かな所でいいな。ここ。ずっと見ていられる。」
「もう7月の後半なのに、結構涼しいですし、避暑にはもってこいですね。」
「そうだな。俺は騒がしい所は苦手だから、こういった静かな所は好きだな。コンビニとかない点が最高だ。」
「それは不便そうですけどね。」
「それじゃ、もう昼をとっくに過ぎてるからランチに行こうぜ。」
「そうですね。はい、賢太さん。」
柳は手を差し出す。
「エスコートしてくれないと。」
「そうか。」
俺は柳の手を取る。
「手が冷えているな。寒かったか?」
「少しだけ。」
「気が利かなくてすまん。」
「そのための練習なんですからいいんですよ。さぁ行きましょう。」
「森の邸宅 彩音か。おしゃれだな。」
「そうですね。さぁ入りましょ。」
カラン、カラン
純喫茶のような入り口のベルがなる。
「いらっしゃいませ。」
50代くらいの女性がカウンタの向こうから声をかけてくれる。
「お好きな席へどうぞ。」
俺たちは湖が見られる窓際の席へつく。先程の女性がお冷とおしぼり、メニュー表を持ってくる。
「ランチの時間は過ぎたけど、材料余っているから好きなものを注文してください。お決まりになりましたらお呼びください。」
「さやか、決まったか?俺はこの本日のランチセットにするけど。」
「賢太さん、私はこのクリームコロッケとエビフライのセットにします。」
「わかった。すみません。」
「はい。ただいま。ご注文はお決まりになりましたか?」
「本日のランチセットとクリームコロッケとエビフライのセットお願いします。」
「セットメニューのドリンクはいかがいたしましょうか。」
「俺はホットコーヒーを食後に。」
「私はアイスティーを食事と一緒にください。」
「ご注文は以上でよろしいでしょうか。」
「はい。」
「少々お待ちください。」
「賢太さん、おいしかったですね。」
「そうだな。大衆をお客とする大型店にはないしっかりとした下ごしらえをした、客一人ひとりを大切にしている姿勢が伺える素晴らしい食事だった。」
「ありがとうございます。」
店の女性が話しかけてきた。
「私の料理を評価くださったのが嬉しくて声をかけてしまいました。お若いのに下処理のことまで気づかれるなんてすごいですね。」
「あの料理は貴方が作られたんですか!てっきりシェフが別におられるのかと思っておりました。」
「本来は私が料理を作って、配膳を任せている子がいるんですけど、今日は用事があるようで休みなんですよ。」
「今日はお一人なんですね。すごいです。俺も一応料理で生計を立ててまして、本日の料理も参考にさせていただいてよろしいでしょうか。」
「こんなおばさんの料理でいいんですか。」
「生計を立てているといっても、お店をしているわけじゃないんです。ネットで料理番組を流しているだけなんで。よろしければ暇なときにでも見てください。」
俺は宣伝用の名刺を渡す。
「このバーコードから動画を見ることができますから。」
「へー。最近はすごいですね。また今度見てみます。急に失礼しました。」
「賢太さん、あの人すごいですね。このお店の料理一人で作ってるんですね。」
「あぁ。もう一人いるみたいだけど、配膳の担当みたいだし。メニュー表結構品数あったから、仕込みも大変そうだ。」
「そうですね。さぁ、ご飯も食べたし、そろそろ帰りましょう。彩花ちゃんも待ってると思いますし。」
「そうだな。そろそろ帰るか。」
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