04 私だ



 俺だ。

 乙女ゲーム「ミラクル・ラブリー」の世界に、モブとして転生した。


 そんな俺はゲームには登場しない。

 だから、NPC一号とか二号とかそんな感じの人間である。


 そんな俺は、今日は私だ。


 俺ではない。

 私なのだ。


 本日今から一時間限定の、私モードだ。


 身に着けている服はふりふり。ひらひら。

 厚い胸板はやわらかい装着物で覆われていて、ぱふぱふ。


 別に新しい趣味に目覚めたとかいうわけではない。


 いぜん俺は俺のままだ。


 ならなぜ私になっているのか、それは……。


「らっしゃい! お客さん一名ご来店です! えっと、注文ですね! 少々お待ちください!」


 このように、喫茶店のお手伝いをしているからだ。


 女装喫茶のだ。


 濃いお客さんが来るところのだ!


 つまり今日の俺は、濃い俺だ!!


 だから私なのだ!!


 恥ずかしいが、やけくそで叫ぶ。


「みらくるジュース一つ、ぱわふるるんるんケーキ二人分注文です!」


 香月が勤めている喫茶店で、欠員が出た。

 そういうわけで、知人として俺の存在が、彼女の脳内でピックアップされたらしい。


 勤務時間にあわせて引っ張ってこられた。


 断ればいいのに、欲を出してしまった。


 そこで提示されたお給料の額がちょっと良かった。

 お小遣いが良かったので、つい頼みを引き受けてしまったというわけだ。


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