第23話 史上最強の魔王。ヨルムと情報交換する
街の中を歩きながら、ジェシカが言う。
「スケルトンが出した戦利品はどうすればいいかな?」
「俺はこういうときの手続きがわからないから、リュミエルに任せるよ」
「そうですね。騎士団の方で引き取りましょう。お師さま、それでよろしいですか?」
「もちろんだ。それと俺の分も子供たちにやってくれ」
俺とリュミエルの会話を聞いていたジェシカが期待のこもった声で言う
「……いいの?」
「いいぞ。俺は金持ちだからな。うまいもんでも食え」
「姫様、ハイラムさん、ありがとう!」
リュミエルがお金を渡すと、ジェシカは大喜びした。
「気をつけて帰るのですよ?」
「はーい!」
帰るジェシカを見送りながら、リュミエルが言う。
「お師さまは子供たちに優しいのですね」
「……そうかな」
「はい。そうです」
俺は少し考えて、正直に話すことにする。
「……子供たちに、フィルフィの面影を見たからかもしれない」
「フィルフィさん? ですか?」
「ああ。前世の魔王だった頃、娘として育ていた少女なんだ。俺が死んだとき、まだ十歳だったんだ」
「それは心配ですね」
「とはいえ、もう五百年も前のことだ。すでに亡くなっているだろうが、どういう人生を送ったのか知りたいとも思う」
「……わかります」
「幸せに生きてくれていたら、いいのだけど……」
「…………」
リュミエルは無言で、真剣な表情を浮かべ、じっと俺の顔を見つめていた。
◇
それから俺はリュミエルと別れて、屋敷に戻る。
リュミエルとヨルムが帰ってきたのは日が暮れてからだった。
夕食と入浴の後、自室に戻ってから俺はヨルムに言った。
「ヨルム。情報交換をしよう」
「わかった。勇者の卵は普通に騎士団の詰め所にいたよ。外出したのは魔物出没の報せで出撃した一回だけ」
「俺とあったあのときの出撃だな?」
「それそれ」
そういって、ヨルムはうんうんと頷いた。
「あのときリュミエルは一人で来たんだが……」
「なんかね。魔物が出た場所ってほとんど人族しか住んでいないでしょう?」
「そうだな。まあエルフもいたが、基本的に人族ばかりだ」
「だから、後回しでいいでしょうって騎士たちは言って動かなかったんだよ」
「それで一人できたのか」
やはり、街の人々の証言通り、リュミエルの命に騎士たちは従わないことがあるようだ。
「あ、それと騎士たちの話によると、勇者の卵は無理難題を定期的に命じられているみたい」
「無理難題? どういう類いの無理難題なんだ?」
「えっとねぇ……」
強力な魔物の生息地に生える薬草の採取せよ。
息苦しくなるほど高山の頂上に魔道具を設置せよ。
上級魔物であるケルベロスを討伐せよ。
「そんな実力に見合わない勅命をなんども受けているみたい」
「それは殉職を狙っているな」
死地に送り込まれても助かるのは、リュミエルが勇者で聖神の加護を持っているからかもしれない。
魔法を使えない、正確には体外に作用する魔法を使えないのに大したものだ。
死霊術師を倒したときに、リュミエルは勘の鋭さを発揮していた。
その勘の鋭さで死地をくぐり抜けたのかも知れない。
「それに街の周りに沸く魔物っていうのも、リュミエルを殺そうとしているのかも」
「そうか。今日のリッチもリュミエルに対する殺意を感じたな」
「うん、騎士たちも急に最近魔物が沸くようになったと言ってたし」
「最近か」
そういえば、リュミエルも最近魔物がよく沸くようになったと言っていた。
「だんだん、殺意を隠さなくなってきてるって騎士の人たちは楽しそうに話していたよ」
「騎士たちは宰相の手のものが魔物を連れてきていると考えているのか」
「そうかも。卵は騎士団ではすごく嫌われているというか、騎士たちは第一王子を王様にしたいみたい」
貧民街の老人たちから聞いた情報と符合する。
「なるほどな。リュミエルは、完全に敵地に一人というわけか」
「どうする? 陛下。僕としては、勇者の卵は死んだ方がいいのだけど」
ヨルムは勇者が天敵だからそんなことを言う。
だが、本心ではないのは顔を見ればわかる。
ヨルムも、リュミエルのおいしい手料理を食べさせて貰って、沢山撫でて貰っている。
それで、情がわいたのかも知れない。
「ヨルム。リュミエルは殺させない。俺の弟子だからな」
「そっかー、陛下がそういうなら仕方ないね」
うれしさを隠すように無愛想にヨルムはそう言った。
だが、ヨルムの尻尾は元気にぶんぶんと振られていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます