第1話 騒がしい入学式

小鳥鳴く朝日と共に私の心は電車が愉快に走る音と同じく、愉快に踊る。


 高校に合格して2週間。 待ちに待ったあまりにも早すぎる入学式がやってきた。 






 「あーいい天気!!」


 「ウズメ今日から高校生なんだからシャキッとしなさい」


 「……法律上まだ私高校生じゃなくて中学生よ? 中学生は3月31日までで高校生は4月1日から。 そして今日はまだ3月28日だからギリギリ中学せ…いたっ!」


 お母さんは何言ってんのよ入学した段階でもう高校生よと言いながら私の頭に軽めのチョップを決めた。 軽めだけどお母さんああ見えて昔格闘技学んでたから地味に痛い。


 「まったく、なんでこの意欲を普通の勉強に向けないのよ」


 「……私が勉強に意欲向けたこと今までにあった?」


 「なかったわね」


 何だろう。 自分で言ってちょっとむなしくなってきた。 私だって必死に勉強してるもん。




 「まぁ、でもあなたは勉強はサボって、体育も水着や体操服着るの恥ずかしいて言ってサボる割には工作や美術と国語の授業は真面目に受けのよね~」


 お母さんは半笑いでこちらを見てくる。 いや、これだってちゃんとした理由あるのよ!? むしろ体操服や水着が獣人専用に設計されてないのが悪いと思うんだけど!?


 「でも、確かにあれは私でもサボるわ。 体操服と水着は自分で穴をあけないとだめだし少しでも間違えたら見えちゃうもんね」


 そういってお母さんは懐かしそうに耳をぴくぴく震わせて笑う。


 「うぅ~、そもそもそれはお母さんが穴を大きくしすぎて破れた挙句男子にも見られて欲しくないところまで見えて恥ずかしかったもん!」


 「あら、そうだったかしら?」




 お母さんはきょとんとしたか間抜けな表情を見せた。 


  普通水着ちぎれるまで穴をあける!?


 ――そう思ってるとお母さんが私を抱きしめた。




 「…まあ、あれは普通に私が悪かったけどね。 ……ウズメの破廉恥な姿が見たくて」


 「マジで言ってるお母さん?」 


 背筋が寒くなった。




                     *




 ――それからも私とお母さんは今電車に揺らされながら他愛ない会話を続け、天下原駅に到着した。


 乗り換えで改札を階段を上り、豊麗ほうれい線のホームに向かっている時、お母さんは何を考えてるのか今日一番悪い顔をしている。


 「そういえばウズメ。 あなた昨日入学式9時からだけど1時間前行動で8時って言っていたけどそれ本当?」


 「本当だよ、そう書いてあったもん」


 「そう…」


 お母さんは少し疑念を抱いてるみたい。 なら少し安心させよう!


 「お母さん、私はこう見えても忘れ事はしなかった子よ? だから安心して――」


 「―――幼稚園年少の時の夏休みの宿題と中3の自由研究出した? それと小学生の時カバン忘れて朝の会まで忘れていたことに気づかなかったのは?」


 「……ごめんなさい忘れて」


 そういうとお母さんがくすくす笑った。 


 絶対それ狙ってたでしょ…。




 私とお母さんはそのまま豊麗ほうれい線の駅のホームで電車を待った。


 「お父さんもー緒に来れば良かったのに」


 「まぁ、しょうがないわよ。 あの人とてもまじめだから納期までに終わらないと済まない性格でね」


 「…気になったけど漫画間に合うって昨日言ってなかった?」


 「私が寝落ちしてしまったからお父さんが全部処理してるのよ」


 「そうなんだ」


 あのお母さんが寝落ちするなんて珍しい。 あとで何で疲れたのか聞いてみよう。


 でも…やっぱりお父さんも来てほしかったな。






 しばらくしてお母さんがそわそわしだした。


 「あ、ウズメちょっとトイレ行ってくるね」


 「うん、分かった」


 お母さんは速足でトイレに向かった。 




それから5分ぐらいたったがお母さんはまだ戻ってこない、ていうか電車どうしたんだろう?


 気になった私は携帯を開き、今の電車の状況を確認しようとしたと同時に駅のアナウンスが鳴り響いた。


 ―――皆様悲しいお知らせです。 豊麗ほうれい線、落馬行の電車ですが、運転手が便秘でトイレに籠っているため代理の人にお願いしました。 しかし代理の人全員に有休を与えてしまったことに気づきました。 ですのでお客様の中に運転手の方がおられましたら今すぐ係員室にお越しください。




 「いや、代わりの人全員に有休与えてどうするの?」


 私はこの情報が高校に届いているのかを確認するため最近買い替えたそこそこ新しい板状のネットに繋げる携帯で学校のホームページを見た。 高校のホームページは基本は緑をベースとして、スクロールすれば学科や部活の概要などが出てくる。 そして今回のような緊急事項は初めて見た。




 内容は今電車やばいみたいですので遅れる方は正門前の先生に遅延届をお渡ししてご入場ください的なもの。 


 以外にもこの学校しっかりしてるんだなと思った…校長は除いて。 時間は見てみると7時10分。 多分ギリギリかもしくは遅刻。 もう嫌になっちゃう。


 「あぁーていうかそもそもなんで入学式こんなに早くする意味あったのかな~」




 そんなことを考えてると私と同い年ぐらいの男の人が走ってきた。


 男は右手にキュウリ、左手に味噌を入れたお椀を持って、キュウリを味噌につけて食べながら走ってきた。 男は感情がない死んだ魚の眼で私を見るや否、口に含んでいるものを一気に飲み込んだ。 男の人の黒髪で、寝坊したのか髪はぐしゃぐしゃだ。 服装は上に小袖、下には袴を穿いている。 




 男の人は私をしばらく見つめた。 そしてその男の人からは安雲の息吹を感じた。 男の人はしばらく私を見つめた後はっと我に帰った。


 「すみません、まだ電車来てませんか?」


 男は先程のことがなかったかのように私に話しかけた。


 「は…はい。 まだ来てませんよ。 ていうか来るかが分からないです」


 「……ありがとうございます」


 そう言った後、男の人はまたしばらく私を見つめた。


 「あの、顔に何かついていますか?」


 「……いえ、すみません。 少しどこかで会った気がしたもので」


 「えっと……多分初対面だと思うのですが」




 男の人はそういうと少し寂しそうな感じに肩を下げた。


 「すみません、おかしなことを言ってしまって」


 「言え、大丈夫ですよ」


 私がそういうと男の人は感情が無いながらも丁寧に私にお辞儀をして急いでキュウリを食べながら先頭車両側に走っていった。




 今更だけど、咥えてたのはキュウリ? そこはパンじゃないの? よく漫画では西洋から伝わってきたパンをを咥えて走ってるのがあるけど…なんでキュウリなんだろう…。


 そう思っていると今度は合格発表の時校長先生が言っていた明太子マヨネーズみたいな色のモヒカンで、蛇人特有の黒歯国のカメレオンのトサカみたいな耳を生やし、蛇のような尻尾を生やしたゴリラみたいに筋肉質の男性が走ってきた。




 …鶏をくわえながら。




 「ふふぃまふぇん、ふぇんふぁひまひは?」


 「すみません、食べてから言ってください」




 「う、ごくん」


  …鶏を丸のみ? え? 


 ちょっと頭が混乱する。


 「あの、電車まだっすか?」


 男は私のこの状況に気づかす先ほどの男の人と同じような質問を投げかけた。


 「は、はいまだです」


 「よ、よかったー。 あざっす!」


 そしてその男の人も先ほどのキュウリを食べてる人と同じく走り去った。




 本当に今日は色々な人がいるな~。


 ――緊急速報、緊急速報。 落馬行の電車ですが、たまたま3年前に車両を無断で運転して捕まった人が名乗り出てくださったので運転が再開いたします。 皆様、誠にご迷惑をおかけしました。 電車はあと5分で到着します。 


 いや、ありがたいけどめっちゃ不安だよ。


 「ごめんねウズメ待たせたね」


 後ろから駆け足でお母さんが戻ってきた。


 「あ、お母さん」




 お母さんは何かあったのか息を切らしていた。


 「お母さん遅かったけどどうたの?」


 「いや、ちょっと暴漢に襲われてね。 普通に邪魔だったから正当防衛でしばいたら事情聴取で駅員に連れてかれたのよ〜」


 お母さんは笑顔で体を伸ばす。


 「…本当に大丈夫よね?」


 「ええ、正当防衛で通って無罪だったからね、警察の方も来たし」


 お母さんは今日で一番いい笑顔でこちらを見た。 


 原稿、忙しかったんだろうにね…。






 「そういえば電車もうすぐ来るのよね?」


 「うん、なんか運転手が見つかったみたい」


 お母さんは体を伸ばして私を抱きしめた。




 「まだ子供だと思ていたのにこんなに大きくなって…」


 お母さんはうれし涙を流しているのか声が震えてる。


 確かに私がこの世に生を受けて15年間お母さんとお母さんが大切に育てくれた。 お金が少ないのに高校に行かせてくれたお母さんには感謝しきれない。


 「お母さん…本当にありがとね」


 そういってると電車が来たため、お母さんは私を離し、電車に乗って治国駅に向かった。




                  *




 治国駅を降り、そして階段を下り地下道を渡り、東改札口に向かった。


 改札を出るとチカさんと校長先生とで歩いた時とは違い、大学、中学、高校の学生たちでにぎわっている。 本当に私あの日は行かないでよかったんだとつくづく思った。


 「こら君! 袴の丈短いよ!!」」


 「えぇ~いいじゃないですか。 なに? 校長先生もしかしてみたいの?」


 「逆に聞くけど見たらボクがどうなるか想像できるでしょ?」


 「あ…ごめんなさい。 その、いつも勉強教えてくれるお礼に突厥珈琲とっけつコーヒーの豆あげるね」


 「…ありがとね」




 その時目の前に見知ったタコ…校長先生がいた。 見た感じ上級生の女子に風紀指導しており、会話は分からなかったがコーヒー豆を貰ってるみたいだ。 




 ————賄賂にしか見えないけど。






 「あ」


 「あ」


 校長先生は私と目があうが否や近くに飛んできた。


 そして隣にいるのが私のお母さんと気づいたのかめっちゃ頭を下げ————。


 「この度は娘様に大変失礼なことをしてしまい申し訳度座いませんでしたーー!!」


 この時の校長先生の謝罪はガチだった。 


 お母さんにはこの話はしたけど…その時は私を説得した後学校に連絡したみたいだけどそのことの謝罪なのかな?




 お母さんはしゃがんで校長先生と目線を合した。


 「別に怒ってませんよ校長先生。 私もよく娘を見るとついいたずらしたくなっちゃうので」


 「何言ってるのお母さん!?」


 お母さんは笑いながら校長先生の頭を撫でる。


 「いや、お母様。 …あの電話の話本当だったんですね。 娘の部屋に毎晩忍び込んでーーいや、やっぱいいです」


 え、本当に何してるのお母さん。 今の聞いて背筋凍ったんだけど。




 「あ、そろそろ学校に向かわないと遅刻しますよ?」


 「え、確か入学式は…あぁ~はいはい」


 私はお母さんに一応説明した。 




 「今回は緊急事態だから遅刻も大丈夫だし、むしろ新入生と在校生がみんな電車で詰まって少数しかいないから先に行って見学してもいいよ!! 集まってきて揃ったらアナウンスするし!」


 校長先生はその場で先ほどの悲壮な感じが無くなってピョンピョン跳ねながら私がお母さんに言ったことと同じことを言った。 でも…。




 「…ていうか最初遅刻届を駅員から受け取ってそれを校門前の教員に渡して入場でしたよね?」


 「うん、そうだったんだけど理事長が集まりの悪さを見てこれはガチの非常事態に認定したからね」


 「そうなんですか。 で校長先生は生徒がきちんと来てるかの確認中なんですか?」


 「そうだよ。 やっぱりウズメちゃん賢いね。 お母様の教育がいかに素晴らしいかがわかるよ」


 お母さんはまだまだですよと返した。 


 …時間もいいところだからそろそろ行った方が行った方がいいよね。




 「ほら、お母さんいこ」


 「そうね。 それでは校長先生これから娘をよろしくお願いしますね?」


 「はい! 任せてください!」


 そういって校長先生はまた私の胸に抱き着いた。 阿呆なのかな? チカさんにチクってもいいよねこれ。


 「校長先生ずるいですよ」


 お母さんも胸に抱き着き、さらにもみだした。




 ――もう止めるの面倒くさいから学校に電話しよ。






              *




 あの後学校に電話しようと携帯を取り出すとたまたま近くを通った中年の単眼鬼人が助けてくれた。 その鬼人の方は近所のタコ焼き屋の店長の息子で、助けられた後店の宣伝か少し慰めたかったのかタコ焼きを作ってくれた。 




 たこ焼きを受け取った後校長先生とお母さんから謝罪の言葉を受け取り、高校に向かった。






 「…お母さんのエッチ」


 「ごめんね、つい恥ずかしがってる顔が可愛すぎて欲望を抑えきれなかったのよ」


 お母さんは手お合わせて謝ってるが今日一日は許すつもりはないもん。 普通娘に手を出すなんて最低だし、お父さんはよく大人向けビデオでは変態扱いだけどうちのお父さんはむしろ神様って崇めても良いぐらい優しい。


 でも…さすがにこんなこと思うのもまだ子供よね、




 「…なら……」


 「なんて?」


 「なら今度私が欲しいゲーム買って」


 「ゲーム? ええいいわよ、高校入学祝いのものまだ買ってないからね」


 お母さんはそういって私の頭を撫でてくれた。




 こんなことするから私お母さんのこと嫌いになれないんじゃない。


 「ちょろい」


 「は?」


 ————前言撤回、やっぱりお母さん嫌い。




 そうこうしているうちに正門前に到着、そこにはハゲ散らかした優しそうな老いた先生がいた。


 「おや、新入生と親御さんですか?」


 「はい、そうです」


 「なるほど。 入学式は間も無く開催致しますので親御さんは黄色い着物を着ている先生のもとに、新入生は青い着物を着ている先生のところに集まってください」


 「あれ、入学式はまだって校長先生が駅前で言ってましたけど…」


 「あ! ならすみません!! 多分うちの職員が連絡を校長先生に伝え忘れていると思います」


 そう言って先生は無線を胸ポケットから取り出し、開催のアナウンスを行なった。


 「それでは入学式のご案内をいたしますので先ほど言いました職員の方にお願いしまーす」


 「ありがとうございます」




 そういって私は高校の門を超えた。 右側には運動場、左側には丁寧に整えられた花壇や芝生、噴水も置いてあったりと造園学科の人たちが学ぶ場所があった。


 「ウズメが初めて自分から話すなんて驚きね。 いつもなら私がいないと話さなかったのに」


 「わ、私だって自分から話すことあるよ!」


 私は母の言葉に反論した。




 「でも私よりましよ。 私なんて初めてお父さんと会った時よくわからないこと言ってしまったもの」


 よし! 反撃しよう。 私は母に詰め寄ったその時——————。


 「じゃここからは分かれる感じね。 ビデオはこの時のために買った128Kの最新機種だから安心して高解像度で映るわよ」


 「それ90年前の…」




 ——————おーい新入生ども。 俺だよ在校生の伊田辺太気矢小田彦(いたべたきやこたひこ)だよ。 そろそろ入学式始めっから新入生は青い着物を着とる先公に、親御はんは黄色い着物着とる先公のとこ行って指示を待ってくれ。 …あ、なんや社会科のはげ先公、今日一段と頭輝いてるやないか…うん目が潰れるぐらい。 ん? あー任しとき。 それと最後に電車で詰まってた新入生と在校生の野郎どもが今駅前に到着して学校まで全速力しとるから急いで集まってくれ、もし時間が被ったら命がけで来るように。 それじゃ放送終わるで。




 「何今のアナウンス…」


 「…ほら、アナウンス来たから早く行きなさい」


 お母さんは私の背中を押し、それじゃまたねと良いそのまま黄色い着物を着た先生の所に行った。 私もそろそろ集合場所にいかないと。






 「あの、新入生はここであってますよね?」


 「はい、大丈夫ですよ。 こちらの紙を参考に自分の組と出席番号を確認して並んでくださいね」


 「ありがとうございます」


 私はお母さんと分かれた後、青い着物を着た人のところに行き、指示を受けた。


 この学校のクラスは一学年七クラスあり学科ごとの割り振りは園芸科は一組と二組。 造園科は三組。 生物工学科は四組と五組。 食品化学科は六組と七組。 


 わぁー今から同級生と初対面か…緊張する。




 そして私が向かった先にいたのは駅のホームで鶏を丸呑みした人ときゅうりを食べてた人の二人と猫の姿をした獣人の女の子が喋っていた。


 え、もうグループできてるの? でも周りは…私合わせても20人ぐらい来てるんだ。


 そう思った私は自分の組に向かい自分の出席番号の位置に並んだ。  グループの後ろに。


 私は先ほど先生からもらった紙を見てみると4組の20番だった。




 一つ言わして欲しい。 私あいうえお順なら上らへんにいないとおかしいと思うんだけど。


 ————まぁいいか。 突っ込んでもキリが無さそうだし。


 そう言って私はこの紙の通りに四組の看板の方に向かい、列に並んでる人数を数えながら自分の並ぶ位置を探す。 よし、この辺りか。




 ——————。


 —————。


 ——。




 さーてある程度人が集まって来たけど喋りたくても喋れないから本当に暇。 


 いや、私決してコミュ障じゃないからね? ただ人と喋るのが苦手なわけじゃないから。


 そう思ってる時、駅できゅうりを食べてた人を見つけた。


 あの人同い年とはわかってたけど同じ高校だったんだ。




 私は話しかけようと近づき「あの……」と恥ずかしながらも声をかけた。


 その男の人は私の人の声にすぐ気づき、私の方に振り返った。


 「あの、もしかして駅であった人ですか?」


 「……あ、あの時の人でしたか。 と言っても今日起きた出来事ですのであの時はおかしいのかもしれませんね」


 男の人は相変わらず真顔だった。


 「は、ははは」


 私が男の人とのとても短い会話が終わった時前にいた鶏を食べていた男の人と、獣人の人がこちらに振り返った。




 そんな時鶏を食べていた男の人は私に気づき申し訳ないと頭を下げた。


 「いやー申し訳ない。 鶏食いながら話しかけてごめんな。 怖かったろう」


 「い、いえ、大丈夫ですよ」


 「がははは!」


 「何してんのあんたたち」


 獣人の人は軽蔑の眼差しを彼らに向ける。




 鶏食ってた男はそうでも無かったがきゅうりを食べていた男は駅と同じように懐かしい人を見る目でこちらを見つめていた。 私は女の子と会話しただけで照れて赤くなるなんてかわいいと思ったが私もきっと今顔を赤くしているはずだからやめとこ。


 「本当にあんた達アタシが見てない時に何してるのよ」


 「いやー寝坊してもうてな〜ハハハ!」


 鶏を丸呑みした男は大笑いする。




 うー私も混じりたい。 でもいきなり入ったらおかしいのかな? でもコミュニケーションの取り方の本では自分の方から話しかければ仲良くできるって書いてあったけども〜どうしよう!!




 そんな時猫の姿をした獣人の女の人が話しかけて来た。


 「そういえばあなたの名前は何ていうの? 見た感じ可愛らしいイメージするけどね」


 「え、ええと私ですか!?」


 あ、しまったへんと思われたかな…でも気にしてなさそうだから大丈夫と信じよう。


 …よし落ち着いた早速――。




 「あら、ごめんなさい。 アタシったら自分から自己紹介してないじゃない! えっと、私の名前はね、妃笹義蕾(ひささぎのつぼみ)。 気軽にツボミって呼んでね」


 「えっとつぼみさんですね…。 わ、私の名前は天河ウズメと言います。 あの、これからよろしくお願いします!」


 「ふふふ、ええ,こちらこそ」


 そういうとツボミさんは私に近づく。


 「本当に可愛いわね〜。 食べちゃおっかな?」


 「ガハハハ! おいおいツボミ。 お前がいうと半分ガチっぽく聞こえるぞ…ククク」


 「あら? でもアタシはまだ食べてないわよ?」




 いやまだも十分怖いんだけど。


 そう思ってるときゅうりを食べてた人がこちらを向いた。 そういえばこの中での唯一の人間な気がする。


 「……生物工学科新入生の日比和羅尊(ひびわらのみこと)。 よろしく」


  日比和羅ひびわらの……何か温かくなる名前……。 うーんなら発音し易いワラでいいか。


 「はい、ではワラさんこれからよろしくお願いします」


 「ワラ……」


 ワラさんは何かを呟いた後明後日の方向を向いた。




 「あ…」


 駅ではしっかりと見てなくて死んだ魚の目みたいな感じだったけど————よく見てみると少しだけ……いや、鍋で例えると蓋を開けて一気に時はたられる湯気のように何かから解放される気持ちになる。


 その時ワラさんは私がじっと見ていることに気がついた。


 「……何かついてる?」


 「い、いや。 何でもない! ただ…その眼が…死んだナマコみたいな眼で驚いただけだから……大丈夫」




 私は少し騒いでしまったけど恥ずかしい気は起きなかった。 まぁ、これはいわゆる開き直りだと思うけど。


 ていうか何よ死んだナマコの眼って。 


 「……死んだナマコの眼」


 ワラはそう満更でも無いのかそう小さく呟いた。




 ————————。


 ——————。


 ————。




 ワラの自己紹介が終わった後、ワラより体が大きく、全身筋肉の鶏を食べていた男が深く息を吸った。


 「さて、俺も自己紹介した方がいいよな」


 そういうと鶏を丸呑みした男は立ち上がってふん! と腕の筋肉に力を入れてポーズを決める。




 「俺の名前は卍蛇流剣麦茶(まじゃるつのむ)。 よろしく!!」


 同時にポーズを決めた瞬間着物が破れた。


 「おっと、これで今日で三回目だぜ。 …せんせーい着物変えありますか?」


 「ない。 諦めて」


 「了解でーす」


 そう言ってドヤ顔を決める。


 いや、今日で三回目?




 「えっとマンさん…、三回も破れたの?」


 「まあ…待って今なんて?」


 「え、何かまずいこと言いましたか!?」


 「いや、そのあれだ…」


 マンさんは顔を真っ赤にして後ろを向く。


 ワラさんを見てみるとワラさんも同じ反応だ。




 周りは私を見ながらこそこそ何かを言ってる。


 わ、私何かまずいこと言ってしまったのかな…。


 その時ツボミさんが耳元で小さな声で。


 「あ、あのウズメちゃん」


 「ど、どうしたの?」


 ツボミさんは恥ずかしそうに周りに目を配りながら話す。


 「ちょっとマンて呼ぶのは…やめたほうがいいんじゃないのかな?」


 「何でですか?」


 「うっ、純粋な瞳」


 ツボミさんは一回深呼吸をして――。






                  *






  「うぅ〜死にたいよ〜」


  「だ、大丈夫よウズメちゃん。 これは方言が悪いから、そう方言が悪いだけだから」


 そう、私がしでかしたのはマンがこちらの言葉ではかなり恥ずかしい意味で、その意味とはヤラシイ女、尻軽の女の意味に当たるみたい。 いや、私は普通に二文字のマンの方が発音しやすくて言い易いから使ったけどけどこっちではそうだなんて知らないわよ〜!


 「まぁ、ね。 ここ安雲郡は東安雲国あがりあくものくにから来た移民達が作った街だからウズメちゃんが住んでる沢原さわらの言葉と全然違うのはしょうがないよな〜ワラ」


 「……お前こことぞばかりにかっこよくシメればいいのになぜ僕にいうんだろうか」


 「まぁいいじゃねぇか」


 そう言ってワラとマンじゃ無かったマンジは楽しそうに談笑する。


 もう! 




 その時誰かがしっぽを握った。


  「ひゃう!!」


 私が振り向くとツボミさんがニヤニヤしながら私の尻尾を握っていた。


 「ちょっと何してるんですか!」


 「いや〜折角の入学式にこんな事になったらトラウマになって来なくなるかな〜て心配したんだけど余計なお世話だったかしら?」


 「う〜ありがたいけど尻尾はダメだよ〜」


 「えい」


 「きゃん!」


——————。




 「なぁワラ。 これ俺たちも混じっていいかな」


 「……いいと思うけど次の犠牲者多分お前になるぞ?」


 「…その面人間ていいよな。 尻尾ないし」


 「…そりゃどうも」


 「ワラ〜触る〜?」


 「…?」


 「ほら! 尻尾もふもふ〜」


 ツボミさんがそう言うとワラが私の尻尾に近づくが、触ろうとはしなかった。


 「………一応聞くがウズメは良いのか?」


 「触ったら触ったで一生嫌いになる」


 「……わかった」




 そう言うと離れていった。 とても悲しい顔をしながら。


 う、胸が痛い。


 …やっぱり少しだけなら許そっかな。


 「ごめんワラ、強く握らない事と嫌らしい触り方をしなかったら別に触っても良いよ? てっひゃっ!」


 ワラは話が終わった瞬間に私の尻尾をもふりだした。 いや、まさかだけど作戦?




 「ちょっと二人触りすぎ」


 「ふふふ、やっぱり犬科の尻尾は気持ちいわね」


 「ツボミさんは自分の尻尾をモフれば良いと思うの」


 「残念ね。 もうすでにマンジが少し嬉しそうにもふってるわ」


 私は彼女の後ろを見てみるとマンジが楽しそうにもツボミちゃんの尻尾を優しくふもふしていた。


 「いや、マジで楽しそう。 しかももう未練がないような顔でもふもふしてる」




              


                    *




 「よし揃ったな。 お前ら列を正せ、正さんかったやつは入学取り消しや」




 あの後四人でわちゃわちゃ騒いだ後ようやく全員揃ったのか先生がマイクを持って大きな声で指示を始めた。




 「おし。お前ら阿呆のくせに手際良えの〜。 昔のわいみたいやないか。 ほな自己紹介いこか」


 そういうと青い服を着た人はんんんと唸った後大きな声を出して————。


 「わいはここ若命神栄虚高校に勤めて10年の雨露華伊庭野主(うろかやばいぬし)っちゅうもんや。 今年のこの学年をまとめさせてもらう。 学科は造園科で作図の授業を担当する。 ほな一年間よろしくな。 よし、今回は待ちに待った入学式や。 もう一度言うぞ、人生で最初で最後の高校の入学式や。 ほんで今回の予定を言わせてもらうで、今回の予定はこれから30分後に体育館に移動して入学式会場に向かう。 そして入場は1組からの順番や。 それまでの間は各クラスの担任と副担任を紹介するのと時間があったらちょっとだけ授業の話をさせてもらう。 最後に入学式が終わったら担任の指示のもと各クラスに行って担任に明日の連絡を言ってもらって終わったクラスから自由解散や良えな? …よし、ほな先生方自己紹介をお願いします」




 そう言うとヤバイ先生は一組の先生からと言っておばちゃんの先生にマイクを渡して後ろに下がった。




 「どうも〜掃除の山田ですぅ〜。 今年は一年一組の担任を努めさせていただきますぅ〜。 担当教科は1年では掃除概論と掃除哲学、掃除文学を担当させていただきますぅ〜。 それでは一年、よろしくお願いいたしますぅ〜」




 いや、掃除概論、掃除哲学、掃除文学で何!? まったく頭に入らなかったんだけど。


 てか一年でどんなに掃除勉強させたいのよ。




 「それでは副担任の先生お願いします」




 そう言うと明らか軍属の人が来る。




 「初めまして〜諸君! 吾輩はここ若命神栄虚高校(わかめかみえいきょこうこう)の園芸科の教員をしておる、倭天松風雄彦(やまとあまのまつかぜのたけひこ)。 担当科目は農業実習、華道演習、花壇整備実習を担当しておる。 皆のもの、一年間よろしく!」




 「マツカゼ先生質問いいですか?」


 遠くから男子生徒の声が聞こえる。


 「ん、良いぞ。 それと君の名前は?」


 「はい、僕は一年園芸科の広里天久砂洲来ひろさとあさのさすらと言うっす。 そんで質問は農業実習で作ったのって持ち帰ってもいいんすか? 兄弟が多いので出来れば持ち帰りたいんす」


 「ふむ、持ち帰るのは全然いいぞ。 何しろ農業高校だから持ち帰らず腐らせたら強制退学だからな!」


 「本当すか!? ありがとうございます!!」




 「それではいいですね? 次は二組の――」






 それから無駄に長い時間が過ぎた。 いや、もう30分たったでしょ絶対。


 一組の副担任の先生と三組の造園の担任の先生を入れても農業関連の先生2名しかいないじゃない! 詐欺?


 「はいありがとうございます。 それでは時間の都合上四組の紹介を最後に入学式会場に向かいますので質問は無しでお願いします。 また、副担任の先生は本日はお休みですのでまた後日クラスの方でお願いします」


 そう言うと勾玉と土鈴が付いた首飾りをシャンシャンと鳴らしながら、灰色に近い銀髪でサファイアのように美しい瞳をしたいかにも神官な感じの私と年が近い女の人がマイクの前にやってきた。




 「初めまして。 私は今年度よりここ、若命神栄虚高校(わかめかみえいきょこうこう)の生物工学科の教員として着任しました、筑紫伊佐原笹(つくしいざはらのささ)と言います。 担当する教科は一般科目では言霊術と宗教学。 専門教科はDNAプログラミング基礎と微生物研究基礎を担当いたします。 皆さん、これからよろしくお願いします」




 ササ先生の自己紹介が終わり、ヤバイ先生が前に来た。


 「え~ほな。 体育館に向かうで」


 そういってみんなは最初に言われた通りに1組からの順番で体育館に向かった。




                   *




 体育館に入り、整列した後席についた。 私はちょうど一番最後の列で何で最後になったのかは分からないが多分担任の先生とかがくじ引きで場所決めでもしたかなと少し疑う。


 私はふと後ろからの視線が気になって向くとお母さんが笑顔でこちらを見ていた。 しかも目があった瞬間手をこちらに振る。 私は少し恥ずかしかったが返し、そのまま前に向き直す。


てかお母さん一番前だったんだ。




 正面を見ると舞台の周りを見てみると色々な先生がおり、そして頭が太陽以上に輝いてる司会の先生と思われる人の近くにチカさんがおり、その隣には風呂敷で覆い隠されている箱があった。 それにしてもチカさん本当に綺麗だなー。 あれ? 校長先生は?


 私は当たり見渡したがどこにもいなかった。


 その時隣に座ってるツボミちゃんから話しかけられた。




 「ねぇ、ウズメちゃん」


 「どうしたのツボミさん?」


 「あれ、気のせいかもしれないけど頭がすごく輝いてる司会の先生がいるでしょ? もしかしたらあの先生がアナウンスの時生徒から言われてた社会科の先生かな?」


 「知らないよ…。 ごめん嘘。 本当はすっごく気になる」


 そう言って私たちは太陽以上に頭が輝いて眩しい社会科の先生と思われる司会の先生をじっくり見たが眩し過ぎて顔がわからない。


 もうこれ目が悪くなりそうなんだけど。




 「…難しそうね。 頭にとろろ昆布さえ乗っけてくれれば眩しさが抑えられて観察できるのに」


 「付けるならカツラじゃ……あ、ほんとにとろろ昆布付けた。 しかも先生嬉しそう」


 社会科の先生と思われる先生の顔がとろろ昆布を頭に装着することによってわかった。 顔は見た感じ優しいお爺ちゃんのような人であった。


 そう言ってるとツボミさんの左に座ってるワラが迷惑そうにこちらを向き小声で話しかけてきた。


 「……何かあったのか?」




 ワラはそう言って心配しているのかそう聞いてきた。


 「ほら、アナウンスでハゲって言われてた先生がとろろを頭に装着したからちょっと笑ってたのよ」


 「……本当に何しての」


 ワラ。 私もそう思う。




 「よーし、ウジ虫ども静かにしろーー」 


 —―—―ウジ虫!?


 「新入生の皆様、そして保護者の皆様。 今から八葉29年度、第326回若命神栄虚高校入学式の司会を務めさせて頂くのは私、予算の都合上社会科兼教頭を務めさせていただいております華花寺矢阿忠恒(かばなてらただつね)が行います。 それでは理事長による開式の言葉」


 そう言うとチカさんが懐からマイクを出して。




 「おめでとー。 詳しいことはこの後にある理事長のお言葉でするねー」


 いやざっつ。 チカさんて見た目に反して少し雑な人なのかなー。 いや待ってもしかしたら校長先生が計画したモノなのかもしれない。 うん絶対そう。 いやそうしよう。




 て言うかチカさんは理事長だったのか…ん、と言うことは校長先生は理事長にセクハラということはチカさんにしてたんだ。


 その後司会の先生が来て—―。


 「次に国歌斉唱—―」


  あー、あとでもしチカさんに会えたら聞いてみよう。


 その後校歌を歌い、これらが終わった後司会の先生が前にきた。




 「次に、理事長のお言葉」


 そう言われた後、チカさんが舞台の上に上がっていく。 


 「新入生の皆さん初めまして、理事長のチカです。 皆さんご入学おめでとうございます。 本校は文字通り最初は塾でしたが地元の皆様のご贔屓により、今から326年前に今の若命神栄虚高校わかめかみえいきょこうこうが開校されました。 長い歴史の中で色々とありましたが何とか今年も無事に入学式を迎えることができました。 それでは皆さん。 楽しい高校生活を!!」




 そう言ってチカさんはお辞儀をした後舞台を降りた。


 「次はこうちょぶっ!! こ、校長先生のお言葉ははは!! でではっはは、舞台上に…くくく」


 そう司会の先生が言うと、チカさんは笑いを堪えながら風呂敷をかぶせた大きな箱を舞台上に持っていく。


 「そそれでぶっ! 校長へへへへへはははは!!」


 いや、司会の人笑い過ぎでしょ。


 その時チカさんがマイクを手にとった。




 笑いを堪えながら。




 「えっとふふ。 校長先生お願いします」


 そう言ってチカは風呂敷をとった。




 そこにいたのはサプライズ登場か演出でカッコよく登場しようと画策したと思われる校長先生の姿はなく、中にいたのはただの大きなタコだった。


 いや、確かに校長先生はタコだけどこれ本物のタコじゃん。


 その後チカさんはタコが入っている水槽に防水用マイクを器用に入れた。


 「それでは校長先生どうぞ」


 「ぶくぶくぶく(えっと。 とりあえずみんな入学おめでとう)」


 とりあえずぶくぶくは聞き取れた。




 「ぶくぶくぶーくぷっぷぷー。 ぶくぶくぶっくくく。(学校生活には苦しいことや悲しいことがあるかもしれん。 でもなここは農業高校や。 みんなが一致団結して美味しい野菜を作るとこや。 ここにいるみんなは家族であり親友であり、そして人生を共にする兄弟や。)」


 周りが笑いが起こり始めた。 特に教師陣の。


 「ぶっく! ぶーくくく、ぶーぶーぶーくく。(ええなみんな。 高校生活はたった三年や。 三年しかないねん。 やから精一杯高校生活を楽しんでくれ!! それとな――)」




 「まぁ本物の校長先生は駅前で女子生徒の袴の下を覗いたように見えてしまった通行人の勘違いで逮捕されてしまいって、交番に囚われていますのでご安心ください。 今から迎えに行きますので。 それでは校長先生(笑)のお話はお終いでーす。」


 「ぶく!(なんでや! まだ話してる途中やで!?)」


 なんか悲壮な声が聞こえた気がしたけど気のせいかな? チカさんは少し楽しそうに水槽からマイクを取り出し、水槽に風呂敷を再度かけた後、舞台から降り、駆け足で体育館を出た。


 本当だったんだあれ。




 チカさんが出て行った後、司会の先生がマイクのところに行き、そのまま式を続行した。


 「それでは我が校の同窓会のハゲオブザレボリューションKONBU会長兼生物工学科学科長の吉備原きびはらの高津雲たかつくも実誠さねみ先生よりお祝いの言葉」


 そう言うと教師たちが座ってる席からヨボヨボの毛が後頭部にしか生えていないおじいさんが誰よりもいい姿勢で歩き、舞台上にたった。




 「ごほん。 えー新入生の皆さんそしてその親御さんの皆さん。 この度はご入学おめでとうございます。 私を存じている方は知っているのかもしれませんが、今から40年前に今司会をしているタダツネ先生と一緒にワカメ食べても髪の毛生えないことを証明し、校名変更に貢献した者です。 あれから何十年も卒業生を見送っていく中で皆さんは新しいことをやり続け、今では”研究力”では自称世界トップレベルの高校となりました。 …ごめんなさい嘘です自称地域トップです。  このことから皆さんは誇りを持って勉学だけでなく好きなことに挑戦してほしい。 それではこれからの皆さんの健闘を祈ります」




 「キビハラ先生ありがとうございました。 また保護者会会長、教育委員会副会長、安雲郡治国自治会長の祝辞におきましては早く終わらせないと歓迎祭をやりたくてうずうずしてる技師さんと在校生の皆さんが球技大会を勝手に始める可能性がありますので、今回はと言っても毎回ですが伝聞を体育館後ろの出入口にて掲示させていただきます。 それではこれにて入学式を閉会します。 新入生の皆さんは担任の先生の指示に従ってください。 保護者の皆様は帰宅していただいても大丈夫ですが、お子様をお待ちになるのはご遠慮ください」




 そういうと親たちは立ち上がって体育館から出て行った。 その時お母さんはドヤ顔でカメラ撮ったアピールしてたけど気にしないでおこう。


 あ、昼はどうなんだろう? でもまだ時間は10時前だから遅くても12時までには終わって帰宅する流れかな?




 「おし、お前ら。 これから言うことはしっかり聞け。 これからは各クラスの教室に移動してそれぞれ担任の指示に沿ってHRをしてもらう。 その後は自由解散や。 ほな一組から移動してって下さい」


 前を向くとヤバイ先生はマイクを持って指示を出していた。


 そのあとヤバイ先生の指示に従って一組から順にそれぞれのクラスに移動して行った。






                        *




 「へぇ〜。 結構綺麗」


 私たち1年生のクラスはHRの二階で下駄箱からとても近く便利だ。 教室の中はとてもきれいに整っており、よく動画で言われている底辺高校は荒れて汚いと言われてたけど実際にはどの高校より綺麗だと感じた。




 私は言ったん教室に座ろうとしたのだが黒板に貼ってある座席表を見てみると一番窓側の一番後ろ。 これ本でみたけど一番ぼっちが座るところ。 それより何で私の出席番号は二十番なのに窓側の一番後ろなのかが納得いかない。


 まぁ、そんなこと考えないでとっとと座ろ。






 「さーて。 座ったのはいいけどどうしよ」


 ワラたちは私と近いはずなのにまさかの廊下側の席で楽しそうに会話してる。 普段なら立ち上がってその人の席に向かって喋ればいいけど誰一人立ち上がって席に向かう人はいなく、むしろ隣の席同士で会話を楽しんでる。 私の隣の席の人は空色の肩ぐらいの髪の毛で目は灰色の女の子。 話してみたいけど眉間にシワが寄ってるから話しづらい。 もし出来たとしてもうるさいって怒られるのがオチなのかな?




 …いや、大丈夫。 私はやればできる子。 小中は友達は誰一人居なくてどちらかと言うとみんなからハブられてた…。


 けど今はもう高校生!! 今度こそ私は変わってみせる!! でも、本当にいいのかな? これは実は退屈じゃなくて本当にイラついてるとかじゃ無いよね…だめ、そんなこと考えちゃ。


 私だってやればできる!!




 そう決心した私は彼女に椅子を近づけた。


 「あ、あのちょっといいですか?」


 「…何?」


 「えっと、その。 ちょっと話し相手がほしいかな〜なんて。 …すみません」


 「話し相手…。 私で良ければ聞いてあげるわ」


 「あ、ありがとうございます」




 よ、良かった〜。


 顔はかなり怒ってる印象だけど根っこの部分はとても良い人そう。


 彼女は先ほどの眉間にシワを寄せた顔でこちらを見た。 正直言ってとても怖い。 


 「ところで人狼さん? あなたの名前は?」


 彼女は笑ってるつもりなのだろうか少し口角を上げて行った。


 それは私から見たら苦笑いにしか見えなかった。




 「えっと、私の名前は天河ウズメと言います」


 「ふーん。 ウズメさんね。 私の名前は徳田ちひろ。 よろしくね」


 なるほどチヒロさんか。 とても不思議な名前。


 チヒロさんはそう言うと眉間にシワを寄せた顔から真顔に変えて私に近づく。 いや、もう顔が接触しそうなんだけど。


 「へぇー人狼族の耳の場所って人間と同じなんですね。 よく西洋や大陸の童話では頭の上に生えてるのに」


 「あの、あまり見られるとその、恥ずかしい」


 「あらごめんなさい。 とても可愛かったからつい」




 そう言ってチヒロさんは少し悪い顔をする。


 「でも可愛い声とかで少し癒されたからとても満足です」


 …やっぱり何かに怒ってたのかな?


 よくドラマとかではこう言う時相談に乗ってたけど現実でそんなことできるはず無いし、しかもまだ会って1日目だからとても失礼に見えちゃうしなー。




 「あ、先生が来ましたね。 ウズメさん、また今度たくさん喋りましょ」


 「う、うん」


 そう言うと私とちひろさんは椅子を下の場所に戻し、先生の話を聞く体制に入った。




 「では皆さん席につきましたか?」


 大体みんなが席に座ったあたりでササ先生が手を叩く。


 「はい! それではHRを始めましょう。 私の名前は入学式前にも言ったと思いますが今年から始めて教師となるので皆さんお手柔らかにお願いします」


 そういうと先生は資料を机に広げる。


 「ではまず最初に自己紹介をしようかなと考えましたがそれは明日のLHRに回して今日はとりあえず明日以降の授業の説明をします。  ――まず時間割ですがこちらの紙をご覧ください」


 そう言うとササ先生はプリントを配った。




 「えっと今日は木曜日なので明日の時間割は…一限目と二限目は掃除哲学。 三時限目はLHR。 四時限目は掃除文学。 五時限目と六限目は農業実習となります。 それと各教科の先生方の連絡ですが掃除哲学と掃除文学は教科書無しでノートだけで大丈夫です。 それと農業実習は多分家に紙が送付されてたから購入してくれてると思いますが汚れてもいい服を持ってきて下さい」


 いや、まさかの金曜は頭がおかしくなる教科に耐えないといけないの!? しかも掃除哲学で2コマも使う?




 汚れてもいい服はお父さんがくれたのがあるからアレでいいよね。 うちはとてもじゃ無いけど金欠(自称)だから。


 「それとですね、来週までにしてほしい課題があって…よし! 高校に入学してやりたいことをこの紙に書いて提出してください!」


 う〜ん入学してやりたいことか。 私は生物が好きで入学したから特に無いけど…やりたいことって言ったら研究かな?




 「最後に! 今日はこのアンケートが終わり次第お終いです! アンケート内容はいわゆるカウンセリングですね。 高校生活で不安を感じてるがいれば記載して下さいのことですのである人は書いて下さい。 それではアンケートの作業に入って下さい」


 ――高校生活に不安かー何々? 


 一、あなたは恋人ができず永遠に独身で、そして経験がないまま死ぬとお悩みですか? 二、自分があまりにもテストの点が低すぎるあまりに己の存在価値を見失ってもうこの世なんて滅びれば良いなんて思っていませんか?


 三、にゃー。


 いやこのアンケートする必要あるの? てか最後のにゃーて何よにゃーて。


 うーやってはダメだと思うけどチヒロさんはどうしてるんだろ。 ちょっとだけチラ見させてもらうね。




 「…馬鹿馬鹿しい。 誰よこんなクソみたいなアンケート書いたの」


 とても怒ってらっしゃる。


 むしろあの内容を怒らないで答えている人は聖人か何かでしょう。 さて、私はどう書こうかな。 言っても書くことないし、それに回答ははいかいいえの選択肢。 けど規模が違いすぎるし何より学年組と性別書く欄がない。 それで良いのかカウセリングの先生。






                       *




 「はい! 皆さんお疲れ様でしたー。 それでは後ろの人は紙を裏側にして集めてくださーい」


 「はぁ」


 こんなクソみたいなアンケートどう答えれば良いのよ…。


 私は前の列の人たちの紙を受け取り先生に渡して自分の席に戻った。




 「…はい。 これで今回の予定は終了です。 ちなみに始業時間は八時四十分ですので遅れないように来てくださーい」


 こうして長かった入学式およびHRが終了した。 もう疲れた。 その時携帯が震えたためカバンから携帯を取り出して確認してみると。 


 「ウズメーもう終わったぐらいかな? 昼ご飯はもう出来てるから安心してねー。 それとビデオはきっちり撮ってあるから安心してね。 お母さん…」




 私はお母さんからの通知を見た後携帯をカバンに戻した。 その時同時に学校のチャイムが鳴った。 チャイムと言ってもこの高校の校歌。


 「はぁ、今日はもう帰ろ――」




 ————へいへーーい!! また会ったな新入生ども。 俺は朝方アナウンスした伊田辺太気矢小田彦(いたべたきやこたひこ)や! 多分そろそろホームルーム終わったやろ。 あ、理事長ご苦労様です。 はい、あーはい了解しました! おっしお前ら!! 理事長様からありがたいお言葉や。 鼻をよーくかっぽじって聞け。 今年の新歓は花火上げんぞ!! けどな火の始末はしっかりするように。 去年の校長先生みたいにライバル校に打ち込んだら逮捕やから気をつけや。 花火は一応昼に打ち上げる。 何故かって? 近所のおばさまたちが見たいって言ったからや。 せやろおばちゃん!!


 「ウェーイ!!」


 と言うことなんでよろしく!




 いや、何今のアナウンス。 色々カオスすぎて頭が回らない。


 そう言って時計を見てみると十一時五十九分。 後一分で打ち上げるつもりなのだろうか。 


 「ねぇ、ウズメちゃん? 新歓どこ見にいく?」


 そう思ってると後ろからツボミちゃんが話しかけて来た。


 「私? 私はー研究系の部活を見に行く予定よ」


 「あー研究系ね。 確かこの高校は各学科ごとに独自の農場クラブがあるんだったよね」




 「うん。 生物工学科は微生物工学部と生物技術研究部の二つだったから両方見に行く予定よ。 ツボミちゃんはどうなの?」


 「ふふふ。 あたし? あたしは軽音部を見に行く予定よ」


 「軽音部。 とてもかっこいい」


 「ふふ。 ありがと。 あ、ごめんそろそろ行かないとまたね」


 そう言うとツボミちゃんは走って扉も向こうでワイワイ喋っていた女子グループと歩いて行った。


 と、同時に花火がなり始めた。 時計を見ると十二時十五分。 やっぱり予定よりずれてる。 さて私も見にいこっかな。


 そんな時私はふと気になって隣を見てみるとまだチヒロちゃんが座っていた。 あれ、でもツボミちゃんと話してる間帰る支度してたの見えてたけど…もしかして。




 「あの、チヒロさん?」


 「……! 何ですか?」


 「よ、良かったら新歓一緒に部活見て回りませんか?」


 そう言うとチヒロさんは顔を真っ赤にする。  なるほど、やはり本当は一緒に行きたいって言いたかったけど言い出せなかった感じか。 あの本、間違っていなかったんだ。




 チヒロさんは少し顔を赤くして悩んでる感じ。 何だろとても可愛い。


 「わ、分かりました。 一緒に回りましょう……! 部活はさっき話してたところいいですよね?」


 「あ、うん。 ツボミちゃんと話したところだよ」


 「なるほど。 あの獣人はツボミさんて言うんですね」




 チヒロさんはそう言って納得したように首を上下に動かす。


 何だろう。 チヒロさんを見ると中学校の時の私を思い出す。


 「では、そろそろ行きませんか?」


 チヒロさんはそう言うと立ち上がって私の手を握った。


 「う、うん。 あ、でも少しだけ待って」


 そうチヒロさんに言うと私は教室の周りを見た。 あれ? ワラがいない…。 もしかしたらもう行ったのかな。 そう思ってマンジくんに訊こうと思ったけど男子たちと楽しそうに話していた。 うー聞こうと思ってたけどあの空気に入るのわね。 うん、明日の昼休みぐらいに聞こう。




 「あ、ごめんチヒロさん」


 「別に大丈夫ですよ」


 そう言うとチヒロさんは今日で一番幸せな顔を浮かべた。




 ここは普通科でもなく農業高校。 けど農業高校の枠組みから見てもとてもおかしな高校。 けどここは別にそんな邪険なムードも無く、先生とも距離が近いからか小中の頃よりかは楽しめそうだ。 




                          *




 「ふふふ。 楽しかったなー」


 私はチヒロさんと希望している部活を見て回った後、一緒に帰った。 そして今は家で晩ご飯を食べ風呂に入り、そして部屋でくつろいでいる。


 基本的にお父さんと母さんは私が中学に入り、思春期だからと自分たちの部屋と交換して譲ってくれた。 だからこの部屋は中学校の楽しい思い出で一杯になるはずだったがそんな事はなく、思い出の品を入れる箱には中学校の頃に書いていた恥ずかしい小説しか入ってない。 でも、もうそんな生活はおさらばだ。


 そう思った後私は携帯に目を移しチヒロちゃんと一緒に撮った写真を見た。 やっぱり友達っていいなー。 …うん?




 「ねぇ、もしかしてだけど私の布団に潜り込んでモゾモゾしてるのお母さんじゃないでしょうね?」


 「あら、バレちゃった?」


 そう言ってお母さんは私の布団から出てきた。 いや、校長先生が言ってたの本当だったのかと背筋が寒くなった。


 「それはそうととても楽しそうね。 何かあったの?」


 「いや、話そらすのやめてくれる? …うんまぁ、新歓とかで行きたい部活が見つけたり、その…お友達ができたから」


 「あらあら」


 お母さんは私の布団に入り込んで私の方に顔を向けた。 いや、思春期の娘の布団に入り込むのって異性同棲かかわらずやめて欲しいんだけど。




 「で、その部活はどんなところなの?」


 「…微生物工学部て言って農業高校独自にある農業クラブで、お金は大八代農業協会が出すから部費はないの。 そして部活内容は主に研究して成果を発表したりするところ。 研究内容は自由に決めれるの」


 「そう、ウズメはどんなことしたいの?」


 「…まだわからない」


 「そう」


 そう言うとお母さんは私を抱きしめた。




 「あなたはまだ若いから。 やりたい事を見つけるのにも苦労するかもしれない。 でもね、研究と言うのは人に教えてももらうものじゃなくて自分が疑問に思ったことを解き明かすもの。 良い?」


 「…うん」


 「あなたはやればできる子だからね。 頑張って」


 「ありがとう。 でもねお母さん。 何で良いこと言いながら私の体を弄ってるのかな?」


 「…ダメだった?」


 「当たり前でしょ」


 そう言うとお母さんはしょうがないわねーと触るのをやめて布団から出て立ち上がり、おやすみねと言って部屋から出た。


 そうか、明日からはもう普通の高校生活が始まるのか。




 これから待ち受ける苦労する事、楽しい事、辛い事。 でもそんな事は今にはわからない。 ただ、今できる事は楽しい生活を過ごせることを祈るばかりだ。

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