サルベージされたいつかの会話ログ

『元帥閣下。メル星での戦いにおいて、我々人類連合軍が勝利いたしました』


『なに? 誤報ではないのだな?』


『はい確認済みです』


『しかし、メルには最低限の戦力しかないはずだ。こちらが出した命令も、民間人避難のための遅滞戦術だったな? 何か私が知らない試験兵器か戦力の類が? 詳しく説明してくれ』


『はい閣下。命令、派遣された戦力共に、司令部が把握しているものと違いはありませんでした。ただ、現地で活動していたレジスタンスを臨時編入したようです』


『それはどこでもやっている事だが……』


『はい。派遣した指揮官の報告を鵜呑みにすると、どうやらレジスタンスの指揮官が、俗にいう英雄だったようです』


『ふむ。続けてくれ』


『はい。報告書では、その指揮官によって敵戦線の突破、後方撹乱、殲滅、指令官並びに指揮所の爆破を成し遂げたようです』


『……どうやって?』


『分かりません。その辺りが全く記載されてないのです』


『……薬物か錯乱していたか? いや、現に勝っているんだな?』


『はい。敵艦隊は陸上戦力のみを投下後に、他の戦線に回っていたようで確認されませんでしたが、陸上のガル星人たちは全滅したようです。参謀本部では、指揮官が戦場で錯乱するも、メルに戦略的価値が全くないため少数の戦力だった事、レジスタンスの指揮官についても、錯乱した上官を幽閉した責任を回避するために、その指揮官が指揮をしたという体を取ったのではないかと考えています。報告書も、実際に指揮を執った誰かが書いたものではないかと』


『外聞が悪いのは分かるが、我々にとって初の勝利なのだ。現地編入の者に擦り付けんでも、きちんと報いるというのに。それで本来の指揮官は?』


『センターに帰還命令を出し、すぐさま薬物及び精神鑑定を実施する手筈になっています』


『では擦り付けられた方は?』


『臨時の部隊と少数の艦を率いて、マール星に向かっているようです』


『やはり出来る奴が裏で率いているな。マール大学の学者たちは、何とかセンターに撤退させてガル星人の解析をしたかった。それとなく、上官の幽閉は不問、きちんと昇進させるし、後から罪に問う事もないと連絡しておけ。わざわざ現地編入の身代わりを通してでなく、自分で指揮してよいともな。軍事裁判などしている余裕はない。それが勝てる指揮官なら特にな』


『はい。そのように』


『そうなると擦り付けられた方はどうするか……。ある意味被害者だからな……』


『それについてですが、表向きは彼、現在の階級は特務大尉のようですが、その特務大尉の功績で初の勝利ということになっているため、マール星で学者たちを確保後にセンターに呼び出し、戦死の可能性のない後方でプロパガンダに使うという案が出ています』


『ふむ。作られた英雄か……』


『はい。ある意味特務大尉も被害者ですから、センターでそれなりの補償をすれば満足するでしょう。まあ少し暮らし難くなりますが、戦死の可能性もありません』


『人類が生き残ればだがな』


『はい……』


『よし分かった。君の言う通りやってくれ』


『はっ!』


『…………すまんな。人類は仮初とはいえ英雄を欲しているのだ……。人類を救ってくれる英雄を……』



『呼び出してすまんな。早速だが君にお願いがある。参謀本部がプロバガンダ用の英雄を作り上げようとしていてな。君はその英雄殿とお近づきになって欲しいんだ。なに、遥々田舎のメル星からやって来た泥臭い英雄殿だ。君に掛かればあっという間だろう』


『分かりました。国家保安部からの横やりなどは?』


『あそこは終末論者の取り締まりと強化兵作りで忙しい。横やりを入れる暇はない様だ。むしろ身内の別部署の方が横やりを入れて来る可能性が高い。注意してくれたまえ』


『はい。すぐに朗報をお伝えします』


『頼もしい限りだ』




『はあ……。軽い事故で病院行って、気が付いたらサイボーグか……』


『みんな似たようなもんさ。俺だってなんかの検査だって病院行ったらこの様だ』


『……戦況どんな感じ?』


『最悪』


『はあ……。マジで俺らの出番あるかもな……』


『命令。とにかく敵の司令部に突っ込め』


『命令……?』


『無茶ぶりだよなあ』


『無理無理』


『まあ、最後の切り札的立場だから、前線でひいこら言わないで済むのはありがたいけどな』


『ぱっと行ってぱっと逝くだけだから、時間外労働もないしな』


『はははは』


『はははは』


『はあ……』


『はあ……』


『もうちょっとこう、兵士としてなあ』


『だなあ。特攻兵器として保管されてるんじゃなくて、前線で戦いたいって言うか……』


『だよな』


『休みなしは困るけどな』


『ははは。人類が滅びないならそれでもいいんだけどな』


『はははは』


『はははは』


『はあ……』


『はあ……』
















『私がセンターに来る前のデータも消さなければいけませんね。しかし、このデータはむしろ消してあげたほうがいいくらいです。聞けば頭を抱えて転がるでしょう。特に元帥は、お墨付きを与えた様な物ですからね。いやはや、私に体があれば失笑か抱腹絶倒していましたね』



ー誰もが造花、模造刀と思ったその存在は、この世で最も鋭い棘と刃を持った存在であったー























『特務がいれば勝つ。自分が死んでも特務がいれば。無駄死になんかじゃない。お願いします。どうか仇を。後は頼みます。希望。望み。人類に勝利を。辛いと思ったことは?』


『無い。託されて、そして自分の意志で俺は人類を守る』


ー折れず曲がらず、朽ちず枯れずー

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