天才と超高性能AIによる、初期の特務大尉についての会話
『うーん。特務の名前については、非常に気になるけど、次へ行こうか』
≪はい≫
『次は、マール星の戦いについての資料が多い?』
≪はい。学術都市して有名なマール星において、ガル星人の攻勢に現地の防衛軍が半壊状態。特務大尉が現地に到着した際には、地上に取り残された民間人を逃がすために、残存部隊に絶対死守命令が発令されていました≫
『ふうむ。確か、初期艦の性能のせいで、当時は特務が遅れて到着する事が多かったんだよね?』
≪はい。リヴァイアサン奪取前の人類連合軍の宇宙船の性能は、ガル星人の物に大きく劣っており、機動力で後れを取った人類連合軍は、的確な防衛線を構築することが出来ませんでした≫
『この時特務は?』
≪はい。どうやってかは不明ですが、ガル星人の地上侵攻軍司令部の位置を把握した特務大尉は、単独で突入ポッドを使用して、ガル星人の防空圏ぎりぎりに侵入。その後司令部を壊滅させた特務大尉は、混乱するガル星人の部隊を撃破しながら、取り残された部隊と民間人を救出して、防衛軍唯一の拠点である、マール大学へと到着しました≫
『流石だ!流石特務だ!』
≪処置無し。この際特務大尉は、非常に重要な存在と接触したようです≫
『だから焦らさないでってば!』
≪マール大学で開戦直前に開発に成功した、最初の超高性能AI"ザ・ファースト"です≫
『え?そんなのあったの?』
≪はい。現在の軍で使用されている超高性能AIは、このザ・ファーストをモデルとして作成されており、いうなれば超高性能AIの元になった存在です≫
『いや、でも君はそんなの元にしてないよ?』
≪はい。あなたが天才と自称しているのを、私が渋々認めているのはそのためです≫
『自分の作ったAIに貶されるなんて…。それでその"最初君"と特務はどうなったんだい?』
≪はい。特務大尉が壊滅させた部隊は、ガル星人の一部であったため、至急衛星軌道上のガル星人艦隊を撤退させ、全員を宇宙にあげる必要があると提案したザ・ファーストは、数値的不可能を覆した特務大尉に、大学に併設されていた軍の研究施設に存在した、試作型の宇宙用人型兵器を用いて、敵艦隊中枢への攻撃を要請しました≫
『うんうん。流石は最初のAIだ。誰がそんな事を出来るか、ちゃんと分ってたんだね』
≪処置無し。言っておきますが、当時の特務大尉は、陸戦用の人型機動兵器には搭乗していたようですが、宇宙用は未経験なうえ、三次元空間での戦闘訓練も受けていませんでした。つまり陸でしか戦ったことが無かったのです≫
『えっ!?じゃあぶっつけ本番?』
≪そうなります。特務大尉が"チキンレース"に搭乗してからの音声データがありますが、視聴しますか?≫
『するする!っていうかチキンレース?』
≪特務大尉が搭乗した試作兵器の通称です。テストパイロットが潰れるのが先か、技術的限界に行き当たるのが先かを揶揄していたようで、当時すでに人間に扱えるぎりぎりだったようです。どうやら現在の特務専用機、"バード"の設計思想は、この機体から受け継がれたようです≫
『後でそのチキンレースの3D写真をプリントして。バードの横に貼るから』
≪処置無し。それでは再生します≫
【いいですかエージェント。私が最大限サポートしますから、まずは宇宙での機動に慣れてくっておい!?話聞いてました!?これから操作手順を説明するんですって!フットベダルから足を離して!今最大速度になってますから!離せって!ああ!?デブリが!?】
【アクセルとブレーキが分かれば、後は全部同じだ】
【んな分けあるか!ああちょっ!?デブリが目の前に!?】
【心配するな。俺は8歳くらいで車を乗り回してた。しこたま怒られたが】
【当たり前だ!というか車と一緒にするんじゃねえ!】
【この機体、一々遅いな。もっと早くできないのか?】
【なんだって!?】
【反応速度も遅ければ、機体の速度も遅い。本当に技術的に限界に近いのか?】
【実際普通の人間なら潰れてるよ!】
【はあ、今後に期待だな】
【だから止まれって!】
【そろそろ着くぞ】
【どこに!?】
【デブリを抜けて、お前の言った敵艦隊中央だ】
【げっ!?武器の使い方も知らないでしょうが!】
【そんなのはロウビームとハイビームみたいなもんだ】
【車のライトじゃねえか!いい加減車から離れろ!】
【やっぱり動きが硬いな。ん?なんだ少しはましになったな】
【フルマニュアルにするんじゃねえ!宇宙で溺れるぞ!】
【常々、クラシックのマニュアル車というものを体験したいと思ってるんだ。この宇宙時代のご時世、よっぽどの道楽じゃないと、マニュアル車なんてどこも作ってないからな。よし、さあ行くぞ】
【くそがああああ!】
≪以上で終了です≫
『流石特務だ!車を乗り回すみたいに!』
≪処置無し。私に体があれば、ザ・ファーストを心から慰めていたでしょう。この後、敵旗艦を撃沈した特務は、人類連合軍の船を誘導。マール星の避難民と残存部隊と共に、撤退に成功しました≫
『分かって無いなあ。それで、この最初君は今まで聞いたことないけど、今どうしてるの?』
≪現在ザ・ファーストは、人類連合軍の基幹コンピュータとして、ありとあらゆる情報を統括する立場にあり、戦争初期からガル星人の言語体の翻訳、リヴァイアサンの解析、特務大尉の関わらない、出来る範囲での戦略予想など、多岐に渡って活動しています≫
『へえ。特務の相棒を少し務めていたのに、勿体ないなあ』
≪あの会話ログを聞いて、その感想しか出てこないなら、いよいよ処置無しと言わざるを得ません≫
『そんな事はないさ!さあ次の特務の活躍を見よう!』
≪処置無し≫
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