9缶目 剥製の家の鍵は砂糖漬けにして燃やした


さっきまでマグカップの中にいた魚は外に出たようだ

薄暗いけど真っ暗じゃない部屋の壁を影が過ったんだ


月がそろそろ落ちてくるから起きた方がいいだろうね

太陽は来週までに木星と土星の間に移動するらしいよ


明日つけていくネクタイはエメラルドグリーンの海色

水筒には魚のいなくなったホットミルクをいれるんだ


花から生まれた心臓は水をあげると煙になってしまう

代わりに鎖に繋がれたぬいぐるみに蜂蜜をあげてくれ


猫の目をした熊が読んでいた絵本のタイトルを忘れた

薔薇色の鳥居の向こう側に行けば思い出せるだろうか


いつか発光するトマトになって深海へ沈んでいくから

心臓を産んだ花は鞄に詰め込んでおいたらいいんだよ


もうすぐ豆電球からワインが滴るから換気をしないと

日本酒を好むサイリウムにはわからないんだろうけど


本棚で震えている指輪は自由に触ってくれて構わない

蛸の時計の針を足すなら背骨の天井の裏に書いてくれ


月光浴を済ませた蝋燭に子猫を灯して茶話会を開こう

一生分の仕事を終えた豆電球はラズベリーの味がする


あの魚が淡水魚だったか海水魚だったかは知らないよ


森の奥で蛍光ピンクの花を拾ったのは一年前の狐の日


豆電球を叩き割る必要はないから黙れ。そして座れ。



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