第92話 玄武

「次は玄武ね」


エリザが次の場所を、指し示す。と言っても、北東を指さしただけだが。


「次は北じゃないの? エリザって方角を知らないのね」


アクアが自慢げに北を指さすが、クラマ城を中心として北なので、ここが城から西だから北東で合っている。説明……というか、理解させるのが面倒なので誰も突っ込まない


「白虎がじいさんの見た目だったから、玄武はもっと髭の長い爺さんとかかな?」


「どうだろうな? そもそも、見た目は本人の自由だろう、そのまま亀の姿かもしれないしな」


ノロイが何かを作りながら返事をしている。器用なやつだ。ライカの魔力が増えたので、こうしてフライの魔法もスピードが上がっている。魔王の分が増えたので、エンカにも魔力をある程度返したし。本人はあまりにも魔王に手も足も出なくてしょげているが。


そして、高速で北に着く事が出来たが……。


「どこに玄武が居るのかしら? 前には海しか見えないわ!」


「海の中よ。言ってなかったかしら?」


聞いておらぬ。エリザの指は海中を指しているが、まさかそんな場所に住んでいるとは思わなかった。


「そう、それなら私の独壇場ね! 誰か私の首を斬ってくれない?」


アクアは海へ入る。慣れたもので、我が風の刃ですっぱりとアクアの首を斬り、ネックレスを外す。すると、アクアの体は人魚に戻る。頭を首に乗せてやると、すぐにくっついた。


「私が先に行ってくるわ!」


そういうや、すぐに海中へ潜る。しかし、いくら待ってもアクアは戻って来なかった。その代わり、水中から何かが浮かんでくる。


「何か来るぞ。……これは、大きな亀か?」


十数mはありそうな甲羅が水面に浮かぶ。そして、首をにょきりと海水から上げた。


「あなた達が人魚の連れですね? 姫様がお呼びですので、お城までお越しください」


……以前にも似たような事があったな。あれは、スイカの時の事だっただろうか。アクアが先行し、速攻でやられていたやつだ。今回は亀が呼びに来たが、アクアが無事とは限らない。むしろ、無事じゃないほうがいつものアクアだ。


「分かった。どうやって行けばいい?」


ノロイも慣れたもので、対応がスムーズだ。しかし、いつもならもっと渋りそうなものだが、何か思惑があるのか?


「私の背中に乗ってください。アクア・シールド」


意外にも亀は魔法を使えた様で、我達が背中に乗ると、空気ごとシールドで囲んでくれる。そのまま水中に入ると、アクアドームのように水中散策を楽しめる。


「亀の甲羅も立派な呪術具になるんだよな」


ノロイはそう言って勝手に亀の甲羅を削っている。さすがに分厚いからか、亀は気が付いてないようだが。もし気づかれてシールドを解かれても知らぬぞ。


我の心配をよそに、亀が気が付く前に城に着く事が出来た。その城は本当に大きく、何の意味があるのか分からないが、城門まである。魚の顔をした門番が扉を開けると、亀は中へ泳いでいった。十m以上ある亀が入れるくらいの城門だから、中の部屋はもっと大きかった。まるで何か催し物でもできる様な……すると案の定、部屋の真ん中に掴まったアクアが見えた。

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